ちち・しり・ふともも ２
「この店出張のが多いけど、部屋もちゃんとあるんだぜ」
連れて来られたのは、旅館の一室のような部屋だった。
さすがに露天ではないが、大きなガラス戸の向こうには檜の風呂まである。
敷かれた畳は青々として、ふたつ並べられた布団は見るからにふかふかだが・・・なんというか、今の司郎には現実感がない。
兵部は部屋の入り口で靴を脱ぐと、つかつかと布団に歩み寄ってその上でぽふんとあぐらをかいた。
仕方がないので、司郎も続いて部屋に入ったが、残念ながら布団の上に上がる勇気まではない。
「ここは半分出勤制で、出て来れば基本給は出すんだ。後は出来高。資金稼ぎより情報収集と操作用の施設でね。ああ、僕は出来高ダケだったけど」
さりげに怖いことを言っていた気がするが、司郎はそこには触れられずに。
「もらうんですか」
そこにだけ、突っ込んだ。
好きに出来る金など、いくらでもあるだろうに。
そんな司郎に、兵部は頷く。
「店長が堅くてね。そこだけは譲らなかったんだ。でも、ああいう男は信用できるから、真木も覚えておけよ」
さりげに幹部教育をしながら、兵部はへこりと小首を傾げた。
「でさー、僕のドコがいいわけ？」
いきなりそんなぞんざいに、核心をつかないで欲しい。
思春期の少年は、がっくりとうなだれた。
「絶対さくらさんの方がいいって。あれで実はちょっと年いってるけど、僕より若いし。それにＦカップなのにすっげー形いいんだぜ？尻だって垂れてないし、ふとももやらかいし」
見当外れな言葉に、軽く絶望する。
ていうか、なんでやらかいとかまで知ってんだよ少佐。
「不二子さんにやられたってことは、別に男が好きな訳じゃないんだろ？」
それだったら、連れてきてないし、とぼやく兵部に、司郎は意を決して言った。
「だから、俺は！」
さっきも言った。
言ったけどわかってもらえなかった、そのセリフを。
「少佐が、好きなんです・・・」
言って、でも。
やっぱり、兵部はわかってくれない。
腕を組み、むう、と考え込んで言うことには。
「僕、おまえになんかしたか？」
なんかしたどころの話ではない。
ずっと一人だった司郎に、まるで当たり前のように愛情を注いでくれた。
『愛された』記憶のない司郎に、嘘偽りのないそれは、衝撃といって良かった。
それが、自分だけに与えられたものではないことは、紅葉や葉といるのだ、はじめからわかっている。
それでも。
それだからこそ。
相手がエスパーの子供と見れば、だだ漏れの愛情を注いでしまうこの人を。
誰よりも好きだと、思ってしまったのだ。
「あんたにとって、俺なんか大勢の子供の一人なんだろうけど」
そんなことは、わかっているけれど。
「俺にとっては、あんたはたった一人の大事な人なんだ」
「俺なんか言うな。大勢の子供なんかいない。おまえはおまえだし、マッスルはマッスルだ」
即座に見当違いの突っ込みが入った。
もう泣きたい。
ていうか、なんでそこでマッスルが出てくるんだ。
「だいたいなぁ」
くい、と、念動力で首根っこを押し込まれ、司郎は兵部の前に膝を付かされた。
目の前には、光を失った闇色の瞳。
それが、何かに呆れるような、面白がるような。・・・・愛おしむような。そんなふうに、眇められて。
「気に入ってなきゃ、筆下ろししてやろうなんて思わない」
ちゅ、と、触れたそれが何なのか。
認識したとたん、司郎は思い切り後ずさった。
反動で尻餅をついたが、そんなことはもうどうでもいい。
少佐と、おれ、き、キキキ・・・・
「何だ。キスも初めてか？」
さらりとそう言ってのけると、兵部はその大きさの割には長い指を司郎の顎に掛け、すう、とまた顔を近づけて。
「ちゃんと覚えて真似しろよ。僕はキスも上手いんだ」
『も』って何だよ『も』って！
半分パニックな少年の顎を取り、兵部は本格的なキスを仕掛ける。
唇を食み、口腔を舐め、誰でも感じると知っている場所を、舌先を尖らせて愛撫する。
この子は特に、上顎が弱いみたいだな。
そんなことを思いながらキスを解くと、司郎はもう涙目になっていた。
「ほ・・・ほんとにするのかよ？」
ああ、やばい。
こいつ、可愛い。
もともと、エスパーの子供はみんな可愛い兵部だけれど、普段から目をかけているせいか、それともキスなんかしたせいか。
「だっておまえ、僕がいいんだろ？」
そう言って笑うと、兵部は司郎の前に膝を進め、つい、と手を伸ばして・・・そのままベルトをひっ掴んだ。
「少佐！？」
「大人しくしてろ」
ぺろり、と唇を舐めながら上目遣いにそう言われると、兵部の手が触れている、司郎の前がきつくなった。
「こっちはイイ子じゃないか」
かちゃかちゃとベルトを外してジッパーを開け、そうして下着に指を引っかけて、つい、と下ろす。
司郎のものは既に反応していて、それを見てにんまりと笑うと、兵部は、その薄い唇を、くわ、と開いた。
食われる、と思ったのは恐らく、あまりの現実感の無さ故だろう。
しかし、その唇の触れた自身のモノから、信じられない快楽が駆け上がって、司郎は背筋を震わせた。
「しょ、少佐・・・っ！」
「む」
慌ててその頭を引き剥がそうとして、触れた髪の滑らかさに、勝手に手が止まる。
この髪を、指でかき回して。
そうして、押し込んだらきっと、この気持ちのいい口の奥に。
「ーーーーっ！」
自分の妄想に愕然としたのが先か、思ったように口の奥まで飲み込まれたのが先か。
どちらにしろ、恋する相手の口の中で、年若い少年が持つ訳もなく。
「・・・いっくらなんでも、早いぞおまえ」
いつもより赤く見える唇が、自分の精液（！！）をだらだらこぼしながらそう言うさまを、司郎は呆然と見下ろした。
今、俺、おれ・・・
「でもまあ、元気がいいのは褒めてやろう」
若いってのはこうでなくちゃなぁ。
そう笑った兵部の視線の先には、まだ上を向いたままの司郎のものがあった。
そうして、呆然としている少年に、精液のついたままの唇でキスをして。
その味の生々しさに、更に呆然とさせてから、兵部はちょいと腕を伸ばして二つ並べられた枕の片方をひっくり返した。
その下にはプラスチック製のチューブと、ひと連なりの薄いパッケージが納められていた。
そのうち、チューブの方を取って司郎の方に投げ、兵部はひゅぱ、と、学ランのズボンを下着ごと、枕の向こうへテレポートさせてしまった。
今、司郎の目の前には、白く滑らかな脚が剥き出しになっている。
ごく、と思わず生唾を飲み、思わず伸びそうになった手を慌てて引っ込めた司郎を、兵部はくす、と笑って褒めてやった。
「おまえ、我慢強いな」
ぽんぽん、と、この状態で頭を撫でないで欲しい。
剥き出しの膝が司郎の足に触れて、白いシャツの裾が、その奥が見えるか見えないかの絶妙な位置で揺れているさまは・・・マジでヤバイ。
「結構超度の高いテレポーターなんだぜ、っつってこれやって見せると、たいていの男は脚ひっ掴んで来るのにさ」
こんなもの、いきなり見せられたら当たり前だ、と思う司郎の目の前で、兵部はがばりと脚を開いた。
「〜〜〜〜〜っ！！」
絶句した司郎にかまわず、兵部は更に腰を上げ、尻の狭間を指で開いた。
「使うの、ここな？」
兵部のそこは、慎ましく閉じたピンク色で、白い脚を淫らに開いてそこを晒して見せるさまは、だからこそ余計に卑猥だった。
「まずはそいつで、人差し指とここ濡らせ」
司郎に渡したチューブを指して、至極冷静な指示が飛ぶ。
「女の子でも濡れにくい子いるから、濡らし方覚えといて損はないだろ。場所は違うけど、やさしくしないとフられちまうのは一緒だぜ？」
「・・・・」
ぺたり、と、布団の上に座り込んだまま。
司郎はひとつ、深呼吸をした。
ダメだ。
ええっと。
何が、ダメだ。
「・・・あの、さ」
思ったよりも、落ち着いた声が出た。
「何だ？」
へこり、と首を傾げる大好きな人。
できればその指、そこから離して欲しいんだけど。
ていうか、その脚自体を、閉じて欲しいんだけど。
それよりも。
「上、脱がしていいか？」
下肢をすっかり晒した兵部の、上半身はいつもの学生服を着込んだままだ。
だから余計にヤバいってのもあるけれど。
ヤバいヤバくないって話じゃなくて。
「いいけど・・・おまえ相手にヒュプノは使いたくないなぁ」
めんどくさい、と続けられて、ああそうかよと奥歯を噛んで。
「使うなよ」
言いながら、司郎は強く出た声の割に、恐る恐る手を伸ばして、兵部の学ランのボタンを外していった。
兵部は、特に抵抗しない。
「だって、萎えたって知らないぜ？」
そう言いながらも、やっと脚の間から手を離してくれて、ボタンの外し終わった上着を、司郎に引かれるままに腕から抜いた。
「なんで萎えんだよ」
「むしろさー」
続いてシャツのボタンを開けて、現れた傷跡に息を飲む。
「これ見て興奮されたら、なんかイヤだ」
兵部の声は、本当に嫌そうだったけれど。
「興奮、は、しないけど」
司郎はひきつれた傷跡に、引き寄せられるように唇を付けていた。
触れて、離して。
今度は、舌を触れさせて。
ふたつの傷跡を、順に愛撫する司郎の頭を、兵部は子供の頃のように撫でようとして。
「・・・おまえさあ」
そうして思い留まって、どこからが炭素繊維かわからない髪に指を差し込んで、ゆるゆると、軽く掻くようにして撫でた。
ひく、と少年の背が跳ねる。
うん、頭皮って結構感じるんだよな。
「いいよ、もう」
言うと、透明な糸を引いて、少年の唇がそこから離れた。
今度は、兵部の胸がひくりと震える。
それを、なかったことにして。
「さ、もういいだろ。続きだ」
明るく言った養い親に、司郎は上目遣いになった。
「・・・あのさ」
「今度は何だよ」
呆れた声は作ったものだが、司郎にもう、それは関係がない。
「もっかいキスしていいか」
あー、やばいなー、と兵部は思った。
何がだかはっきりとは言えないけど、やばいなー
「・・・いいよ」
それでもそう答えてしまったのは、やっぱり。
この子が可愛いからだろう。
司郎の熱い唇が触れる。
いつの間にか大きくなっていた手のひらが、弾丸の抜けた跡をたどるようにしながら、背中を支えた。
そうして、たどたどしく口腔を舐めてきた舌を軽く噛んでやってから。
「あー、そういや」
ぐい、と離した舌と唇で、ぺろりとどちらのものかわからない唾液を舐めながら兵部は言った。
「おまえも脱げよ」
「っ、はい」
司郎は、慌ててばさばさと服を脱いだ。