ちち・しり・ふともも ３
現れた司郎の体は、思っていたよりもしっかりしていて、兵部は少し驚いた。
えっと、こいつまだ１６くらいだよな？
少し前まで一緒に風呂に入ったりしていたけれど（年寄りの「少し前」は余裕で年単位になることに注意）、ガリガリに痩せた体に、何を食わせようかとそんなことばかり考えていた覚えしかない。
かすかに肋骨が浮いては見えるが、それよりも胸板と腹筋が出来上がりつつある方が目を引いた。
腕だって太い。
僕より太い。
むう、とかすかに不機嫌そうになった兵部を見やり、司郎は「なんだよ」と言って、顔を近づけてきた。
教えたとおりにしては、やっぱり、たどたどし過ぎるキス。
しかし、それはそれで、まあいいか、と思える程度には、気持ちのいいキスだった。
「んじゃー、こっちな？」
胸やら脚やらを触りたがる司郎の手を、ぺいっ、と除けて、兵部はまた脚を開いた。
「さっき言ったように濡らせ。いきなり突っ込んで来るなよ？」
「しねえよ」
言いながら、司郎は手にしたチューブの蓋を開けた。
浅い青に着色されたそれを指に取ると、恐る恐る、兵部のそこに塗り付ける。
塗り付けるだけのつもりが、うっかり入り口に指先が触れて、兵部の腰がひくんと跳ね、小さな声が上がった。
「んっ」
聞いたこともない、声だった。
白い肌を、着色されたゼリーが卑猥に濡らす。
脚の間でわずかに兆しているものが、綺麗なピンク色をしているのが、何故だかやたらと目に付いた。
兵部の脚を掴んで支えていた左手に、思わずぎゅうっと力がこもる。
息が上がっているのがわかって、思わず手に持ったチューブを放り出しそうになったところで。
「いきなり、突っ込んで来るなよ？」
重ねて言われて、はっと我に返った。
「・・・しねえよ」
同じ答えが、目を見ながら言えなかった。
「ったく」
呆れたようにため息をついた兵部は、しかしさらりと続けることには。
「入らないこたないけどさ。お互い、痛いのやだろ？」
「・・・・・」
これ以上、墓穴は掘りたくはない。
司郎は、兵部の指示の集中することにした。
「中、触ってみろ」
そう言われて、もう一度チューブの中身で指を濡らし、そうっとそこに触れてみる。
ゼリーでぬるぬるになったそこが、ひくりと震えて。
「ん・・・」
促すような吐息に従って、ゆっくりと、人差し指を埋めていく。
「そぅ・・・ゆっくり、な？」
宥めるような声に顔を上げれば、兵部は司郎を拾ったばかりの頃にように柔らかく笑み、しかし、光のない黒い瞳は、見たこともない艶に濡れていた。
その瞳から目をそらし、司郎は乾いた第二関節にゼリーを足し、指を根本まで入れ切った。
初めて触れた好きな人の体の中は、ひどく熱くて。
入り口はきついのに、奥は柔らかく司郎の指を包み込む。
「中は、好きに弄っていい。でも爪は立てるなよ？」
好きに、と言われても、困る。
とりあえず、恐る恐る指の腹で中を探れば、ひくんと兵部の腰が跳ねた。
「んっ、そんな、感じ・・・ああでも」
言葉とともに、きゅう、と入り口を締められて、司郎はぐっと生唾を飲んだ。
「早く入れたきゃ、入り口広げてった方がいい。指２本にして広げてみろ」
その指示に、従うか否か。
少しだけ考えて、司郎は従うことにした。
この気持ちのいい中を、もっと触っていたいけれど、そんなことをしていたら、いろいろと・・・保たないような気がしたのだ。
「こう、ですか？」
ずるり、と指を引き出して、ゼリーまみれにした中指を、既にてらてらと濡れた人差し指と揃えて、再びその中にずるりと押し込む。
わずかに赤く染まったそこは、初め拒むようなそぶりを見せたけれど、すぐに口を開いて司郎の指を迎え入れた。
「そう・・・ぅん。そう、だな」
兵部はこくんと頷いて。
指を二本、じゃんけんのチョキのように開いて見せ、それを開閉させて言うことには。
「指、開き気味で抜き差し、な」
半分からかったつもりだったが、お気に入りの養い子は、思ったよりも真剣だった。
「こう？」
「んんっ！」
中で開いた指をぐいと引かれて、入り口が勝手に開いた挙げ句に指先が襞の変なところに引っかかった。
やばい。
そこを弄られるのはもともと大好きだけれど、さっきのはちょっと気持ちよかった。
ていうか。
「よ・・・よく考えたら」
上げていた手をシーツに戻し、後ろ手で体を支えながら、兵部は呻いた。
「ここの慣らし方なんて、知らなくていいんじゃん」
そりゃあ、女の子と後ろでしたがる奴はいるけれど、そういうのはもっと慣れてからじゃないと。
そう思って、自分のそこへ指を差し込む少年を見下ろせば。
「良くは、ないです」
真っ直ぐな瞳に見つめられて、兵部はうっ、と言葉に詰まった。
そういやこいつ、僕のこと好きだとか言ってたっけ。
そりゃあ、自分で拾って育てたのだ。好かれていることくらいはわかっている。
でも、兵部は知っている。
ベッドの上での「好き」は、ただの衝動か駆け引きの言葉なのだ。
それをこの子が口にするのは、なんとなく悲しいような、くすぐったいような。
「・・・もう、いい」
兵部は腹をくくった。
居直ったと言ってもいい。
「でも」
困ったように寄せられる眉が可愛くて、思わず頬が緩む。
「言っただろ？入るって」
もともと、ぐだぐだと考えるのは性に合わないのだ。
僕もしたいし司郎もしたい。
セックスなんて、それで十分過ぎてお釣りが来る。
「でも」
それでも、司郎は言い募った。
「それだと、あんたが痛いんだろ？」
うわぁ。
やばい、こいつ可愛い。
いや、司郎が可愛いことは知っていたけれど、しかし。
「ばーか」
くつくつと笑いながら、もさもさの頭を撫でてやる。
そうすれば、困ったような、むっとしたような視線を返されて、更に笑ってしまう。
「ちょっと痛いくらいが気持ちいいんだ。僕はね」
みんなそうとは限らないから、余所ではやるなよ、と釘を刺せば、余所でなんかやらないと返された。
そっかー、やらないのかー
兵部は、だんだん楽しくなってきた。
その間も、司郎の手は兵部の言う通りに動いていて、気持ちがいい。
熱い吐息が勝手に洩れて、もうこれ十分じゃね？という気分になってきた。
「いいから、さ」
自分でもあざといとわかっている笑みを浮かべ、撫でていた硬い髪を引いて、軽く顎を上げる。
経験のない司郎も、その仕草の意味はわかったのだろう、ごくりと生唾を飲んで、唇を合わせてきた。
うん、さっきよりちょっとだけ巧い。
その成果に満足しながら。ずるりと抜けていった指を少しだけ惜しく思いながら。
そうして、これから味わう快楽への期待に体の芯を疼かせながら。
ぺたりと裸の胸に懐き、若い肌がそれだけでおののくのを楽しみながら、後ろ手に落とした薄いパッケージを拾い上げ、司郎の目の前でひらひらと振った。
「おまえ、ゴムの付け方知ってるか？」
「し、知りません」
３センチ四方ほどのパッケージから透けて見える、平べったいゼリーのようなものが何なのか、一応司郎は知っている。
知っているけれど。
そんな現実味のない物体よりも、胸に感じる素肌と体温が生々しすぎて、本当にどうしたらいいかわからない。
かすかに感じる甘い匂いは、たぶん、この人の肌の匂いだ。
ぐらぐらとしている少年の様子を可愛らしく思って笑い、兵部は手にしたそれの端を、唇に挟んでぴっ、と開けた。
「いつもなら、口で付けてやるんだけど。知らないまんまじゃ困るからな」
言ってる意味がわからない。
しかし兵部はそれを司郎に渡すと、彼にしては至極まじめな調子で付け方をレクチャーしていく。
「それ、先にぴったり付けて。空気入んないようにな。で、下に・・・そう」
自分の指に兵部の指先が触れて。
いつかのあの日、自分の頭を初めて撫でてくれた大きな手が、自分のそれよりも、随分と細く、小さいことに気が付いて。
しかも、ぬるぬるとしたそれが滑って。
兵部の指が、司郎のそれに触れて。
ただ事ではない背徳感と相まって、それだけで、イってしまいそうになって歯を食いしばる。
もちろん、兵部はそこまで推し量らない。
「しっかし、おまえのでっかいな。今ならまだこれでいいけど、そのうちワンサイズ上じゃなきゃ入らなくなるんじゃないか？」
そうけろりと言ってのけている。
その時司郎は、初めてそれにサイズがあることを知った。
ていうか、ええと。
でかい、のか？これ。
そう言われると、なんだか嬉しいのが男心だ。
確かに、眼下にある兵部のものよりも、自分のものは目に見えて大きい。
ていうか、少佐のこれ・・・
「んっ・・・」
ピンク色をしたそれを握ると、ゴムに包まれた司郎自身に、直に響く声が洩れた。
「触るな、こらっ、んぅ！」
しかも、握ったままの手首を叩かれたものだから、うっかり手の中のものを強く握ってしまって、なんだかもっとやばい声が上がる。
「でも」
手の中のそれは、びくびくとしていて、熱くてちょっと柔らかくてこう・・・
「触られたら先イっちまうから、マジやめろ」
可愛い、という感想は、幸い、透視まれずに済んだらしい。
「どうせイくなら、一緒がいいだろ」
しかも、更に何か可愛いことを言ってくれている。
「僕は、タイミングを計るのだって上手いんだ」
だから司郎は、付け加えられたそれは、聞かなかったことにした。
「ほら、早くしろ。焦らす男は嫌われるぜ？」
そんなことを言いながらこれ見よがしに脚を開いてくる兵部の腿を、両手で掴んで更に開かせる。
さっきの店長の言うとおり、一度これに触れてしまったら、あんな女の体なんて、どうでも良くなって当たり前だと司郎は思った。
すべすべとしたその皮膚は見た目よりも柔らかく、しかしその内側には、しなやかな筋肉が包まれているのがよくわかる。
思わずその内側に口付ければ、ひくん、とその脚が、その付け根の腰ごと震えた。
「ん・・・それ、巧い」
ゆるりと笑って手を伸ばし、司郎の頬をするりと撫でた兵部は、その手のひらを意味深に、頬から首、胸、腹へと撫で下ろし。司郎をゾクリとさせてから、柔らかな指先で少年のそれを根本から支えた。
「でも、押さえといてやらなきゃ、入らないだろ」
「・・・・っ！」
そのとき見せた養い子の、幼いながらも雄の表情。
イイなぁ、これ。
欲しいなぁ。
そう思いながら貫かれるのは、とてもとても、気持ちが良くて。
「っ、あ・・・・・っ！」
気が付けば、根本まで飲み込んだと同時に自分の腹を、自分の白濁で濡らしてしまっていて。
兵部は、呆然となった。
「ふぇ？」
しかも。
体の中には、慣れた感触。
「は、はは・・・っ！」
「わ・・・笑わないで、くださいよ・・・・っ、笑うな！」
顔を真っ赤にして怒鳴る養い子も、入れただけでイってしまっていたのだ。
「いや、だって、っあ」
笑うと勝手にそこが締まり、イってもまだ中を強く押し開いているそれを感じて思わず喘ぎ。
「突っ込んだだけで、僕をイかせたなんて、おまえそれ、自慢していい。つかしろ。すっげえしろ」
硬い腹を押してとりあえず引き抜かせ、けらけらと笑いながら、とりあえずゴムの始末の仕方を教えてやって。
「あーもういいや。おまえだし」
兵部はそう呟くと、ひょいと司郎の膝にまたがった。
間近に来た白い面はわずかに紅く上気して、少年の視線を奪う。
しかも。
「言っとくけどな。結婚するような相手以外とは、生でするなよ」
そう、司郎にとっては意味不明なセリフを囁くと、勃起したままの少年のそれを、先ほどのように指で支えて。
まさか、と思うまもなく、それは、何の隔てるものもなく、兵部の中へと飲み込まれていった。
「ん、っ・・・やっぱ、こっちのが、イイ」
直に感じる兵部の中は、熱くぬめってしかも柔らかな襞がやわやわと締め付けてくるものだから、さっきイったばかりだというのに、司郎はまた、歯を食いしばって堪えなければならなかった。
というか、さっきのは何を感じる間もなかったのだ。どちらがいいとか、そういうことはわからない。
でも。
兵部が、こっちのが気持ちいいっていうのなら。
「俺、も、いいです」
「ん・・・・」
その言葉に満足したらしい兵部は、司郎の腰と腿に、絶妙な弾力と、すべすべとした感触を持つ尻を擦り付けて。
可愛らしく赤らんだ少年の頬に、自分のそれをぴたりと寄せて。
「でも、もっと、な？」
する、と胸をすり付けられて、そこに残る弾痕と、つんと立った乳首の感触にぞくりとする。
上目遣いの眼差しは、とろりとした艶を湛え。
濡れた赤い唇が、なにを欲しがっているのか。初めての司郎にもちゃんと伝わった。
その唇を塞ぎ、腕の中にすっぽりと収まった、愛しい体を抱きしめて。
司郎は、ゆっくりと、腰を動かした。
「ん、ん、ふ、あ、はんっ」
若い雄に貪られるのは、決して嫌いじゃあない。
ましてや、可愛がっている子供ならなおさらだ。
手ぇ出しちまう気は、なかったんだけどなぁ。
そう、快楽に霞む頭で思ってみても、出してしまったものは仕方がない。
だから兵部は、今はとにかく、この快楽を愉しむことにした。
目をかけていた子供は、布団の上でももの凄く物覚えが良くて、兵部を十分に満足させてくれた。
「ていうか、やりすぎ・・・」
ぐったりとしてしまった兵部の体を、教えられたように綺麗にして、言われるままに風呂に浸けて。
そのまま湯船に引きずり込まれ、背もたれ代わりにされたまま、司郎は膝の上でのんびりと伸ばされた体を抱き支えていた。
一緒に風呂に入ったのは、子供の頃以来だ。
あの頃は、この人に、こんな想いを抱くなんて、思ってもみなかったけれど。
「さっきさ、結婚する相手以外とは、生ですんなって言ってたよな」
「ああ？言ったかも。男の責任だぜ？」
兵部は、半分湯に浸かっていた顎を上げ、ちらりと司郎を見上げて笑った。
「病気もあるしなぁ。もし変なの拾ってきたら、治す前に思い切り笑い倒してやる」
優しいのか酷いのかわからないことを言う彼に、司郎は至極、真面目に問うた。
「じゃああんた、俺と結婚してくれんの？」
一拍置いて。
兵部のほんのりと上気していた頬に、更なる朱が上った。
「・・・・ばーっか」
酷く甘い罵倒と共に、腕の中にあった心地良い体が消えた。
ひゅぱ、と脱衣場に現れた彼は、ろくに体も拭かないまま、同じくテレポートで学生服を着込む。
髪から垂れた滴が、ぼたぼたと学ランの肩を濡らすのに呆れて、司郎もざばりと湯から上がると、とりあえずタオルを取った。
そのタオルを被せると、兵部は意外にも、大人しく髪を拭かれてくれる。
きっと自分でも、やるんじゃなかったと思ったのだろう。
「僕の分はいいから、部屋代だけは払ってけ」
指名料まで込みだと、おまえに払える額じゃない、と、恐ろしいことをさらりと言って。
「後片づけも大変だし、消耗品もいいもん使ってんだし・・・それから」
水を吸ったタオルと、くしゃくしゃになった髪の間から、兵部の闇色の瞳が、ふい、と司郎を映した。
「復習だ、司郎。まずはキス」
そう言った唇に、吸い寄せられるように口付けた少年に。
「今度、余所の色気に負けたりしたら、ただじゃおかないぜ？」
どこまで本気だかわからないセリフを残し、兵部はまた、そこからテレポートで消えた。
取り残されてしまった司郎は、兵部の髪を拭いていたタオルを抱いて、思わずしゃがみ込んでしまった。
何だったんだ、今のは。
ていうか。
「さっきのとこ戻るのか・・・」
戻れば、見ず知らずのお姉さん方にはやし立てられるのは目に見えている。
しかも、だ。
「やっちまった、んだよな」
少佐と、セックス。
うわあああああ、どうしよう。
帰って、どんな顔して兵部に会えばいいのかわからない。
怖い。
帰るの超怖い。
もっと怖いのは、そのとき自分が冷静でいられるかどうかだ。
その場で押し倒さない自信がない。
だって、あの胸とか尻とかふとももとか・・・
うわああああああああ！
そんな、思春期のわりと繊細な少年を放置した兵部も、その上空３００ｍほどのところで、同じように赤面していた。
さあ、帰ったらどうやって顔を合わせようか。
そうだな。
とりあえずその前に。
「不二子さんのとこに、なんか嫌がらせして来よう」
なんか、もの凄く下らないのがいい。
クール宅急便で蛇を送るつけるとか。ああ、送るならアダルトグッズがいいかなぁ、すっごい下品なやつ。
うん、そうしよう。
そう決めて、兵部は急いでそこから姿を消した。
少年がすぐにあそこから出てきたらと思うと、そこに留まるのは、たぶん得策ではなかった。
後日。
自分にそっくりのダッチワイフを送りつけられるという嫌がらせに、不二子が怒り狂ったのは、また、別の話。
終