バージンロード ２
シャワーは浴びた。レイにもらったもん持った。やり方はばっちり学習した！
一番参考になったのが、レイに教えてもらったサイトだっていうのは、怖いからこの際おいておく。
とにかく、シンは準備万端だった。
それなのに。
意気揚々と訪れた部屋で、アスランはベッドに座って何故だかどんよりと下を向いていた。
「…・アスラン、さん？」
「ああ、シン」
やっと顔を上げたアスランは、それでもシンを手招きして呼んだ。
「何ぼうっと突っ立ってるんだ。来いよ」
「好きで突っ立ってるわけじゃないですよ」
そうしてトコトコと、その人の前に立って。
「えっと、その」
そうしてシンは言葉に詰まった。
そういやさっきも、この人様子おかしくなかったっけ？
そうだ、顔色、悪かった。
えっと、えっと、それってもしかして。
「あの、アスランさん、もしかして、俺とするの、嫌、ですか…？」
アスランもシャワーを浴びていたのだろう。宵闇色の髪が、しっとりと濡れている。
そのくせきちんと軍服を着込んでいるのがこの人らしい。
ほのかに耳が赤い。
湯上りの肌の匂いが遅れて香る。やばい。これだけで勃ちそうだ。
俺はこの人とこんなにシたい。
でも、この人は。
「いや、その、な。嫌とかそういうわけじゃないんだ、たぶん。ただ、な、その。」
そのアスランは、おろおろと視線を彷徨わせ。それから情けなさそうにシンを見上げて。
大戦の英雄とか隊長とか上司とか、そんなの吹っ飛ぶような情けない声を出して。
「怖い、んだ…」
そう、ちいさく呟いた。
はぁ？
怖い？
シンは本気で驚愕した。
２回もMSで自爆とかした人が？
ユニウス７の破砕の時、帰艦できなそうでもケロリとしてた人が？
どのツラ下げて怖いって？
どのツラ、って。
シンは、改めて眼下の恋人を見下ろした。
情けなさそうなアスランの顔。
シャワーを浴びたから、顔色の悪さはなくなってて。
頬っぺたちょっとピンクで。
あ、耳も赤いや。
緑の瞳がちょっと潤んで。
あー、うー
やっばい。
凄い、可愛い。
隊長すごい可愛い。
ああもうなんでだろ。
俺、この人、大好きだ。
「じゃあ、あの、怖くなく、しますから！」
自然と息を弾ませて。
少年は、勢い込んで。
「だから、あなたを俺にください！」
そう宣言したシンを見上げて。
アスランは、つられたように、こっくりと頷いた。
赤い瞳をキラキラさせて。
きゅっと拳を握り締めて。
目の前に立ったシンは、意外と男らしく見えた。
アスランの、可愛い子犬のような恋人。
やっぱり俺は、この子が大好きで。
だから。
「なら、いい」
シンがそう言うなら。
怖いのは、この際置いておこう。
いや、怖いことは怖いのだけれど。
「お前なら、いい」
「はい！」
アスランの大好きな笑顔で、にっこりと笑ったシンは、そのまま、ベッドに座ったアスランに飛びついた。
キスは、今までだってしたことある。
舌だって入れたことあった。
口ん中夢中で舐めたら、苦しいって殴られたけども。
だからシンは慎重に、その人の口腔を、舌先でなぞっていく。
気持ちいいトコ。
感じるトコ。
えっと、えっと…
「んくっ」
アスランがぴくりと反応した。
口蓋の裏。ココ？
「んっ…・」
あ、気持ちいいんだ。って押し出すな！舌で！わぁ！
「ふ…っ」
アスランの熱い舌で、自分の舌を押し返されて。
うっかり自分が感じてしまい、シンは慌てて舌を引き抜いた。
「うーー」
仕返しに、ぱくりと唇を噛む。
そうしたら、噛み付き返されて驚いた。
見下ろせば、しっとりと濡れた緑の瞳が、うっすらとシンを睨んでいて。
それが、とっても艶かしい。
あ、うわ。
ガマンだ俺！
「あ…の、脱がせていい？」
「脱がないでどうやってやるんだ…」
「いや、だから俺が脱がすんだって！」
上に乗ったシンを押し返して、自分で脱ごうとしだしたアスランを押さえつけて。
シンは一生懸命言ったのだけれど。
「嫌だ」
一言のもとに却下したアスランは、シンを押しのけて自分で赤服の襟をかちりと外した。
「なんで！」
「…・なんとなくだ」
それはなんだか恥ずかしい、とアスランは思う。
いや、たぶんこれからもっと恥ずかしいことをされるんだろうけれど。
でも、これはなんだか。
「いいですけど」
上着を脱いで、アンダーを首から抜くアスランを見て、シンは思う。
この人、俺の前でストリップしてることに気がついてんのかな？
シンよりはずっと厚いけれど、ちょっと下のほうには肋骨の浮いた胸が現われる。
ちょっとした動きで、鎖骨が思いがけなく大きく浮いた。
尖った肩の骨。
その上を覆う、滑らかな皮膚。
そこに大きな傷跡を見て、シンはごくりと喉を鳴らす。
気づいてない、よな。
膝の上に乗ったままだったシンを蹴って、ズボンのベルトが外された。
支給品の短パンに続いて、しなやかな脚が曝される。
曲がった膝に引かれて、ふくらはぎの筋肉が動く。
血管と筋の浮いたくるぶし。
日に当たらない、白くて綺麗な、指の先。
少し躊躇ったように手が止まり、それから短パンを引き下ろす。
妄想より綺麗な肌の色。
少し、ピンク色した、腿。
下着も当然支給品だ。
そこにかかった指に注視して。
だからシンは、もう片方の手が、一度落とした短パンを掴み上げたのを見落とした。
「ぼうっとするな。お前も脱げ！」
ばっちーん！とそれを顔面に叩きつけられて、シンははっと我に返る。
さっきまで、あんなに可愛く怖がっていたとは思えない人の仕打ちに、しかしシンはこくこくと頷いて。
「あ、は、はいっ！」
そうしてばっさばっさと軍服を脱ぎながら、心の中で呪文のように叫び散らした。
『怖くなく！怖くなく！怖くなく！頑張れ俺！俺の理性！襲っちゃダメだ！襲っちゃダメだ！襲っちゃダメだ！えっと…・ダ、ダメだーーーー！！』
一生懸命覚えた手順を思い起こしながら、シンは暴走しそうな自分を必死になって押さえつけた。
こんなに自制をしたことなんてない。
うわぁん！マユ！お兄ちゃん頑張るから！
既に半泣きになりながら、それでもアスランと同じ、短パンまでは脱ぎ捨てて。
その下、同じ支給品の下着の下で。
もう隠しようもなくいきり勃ってしまっている自分に気がついて。
更に泣きそうになりながら、シンはアスランを見下ろした。
その人は。
さっきの威勢はどこへやら。
シンのソコをじっと見て。
顔、真っ赤にして。
「えっと、あの」
アスランは、もう下まで脱いでしまっていた。
当然、ソレは萎えたままだ。
えっとえっと。
シンは、即席の知識を手繰り寄せた。
これ。
触ってあげたら、いいのかな。
無造作にそこに手を伸ばすと、ひくり、とアスランの肩が震えた。
だから、えっと。
怖くなく。
できるだけ優しく触れると、それ自身がぴくりと震えた。
でも、アスランは黙ってじっとしていてくれる。
怖く、なく。
ってええと。
シンはそれをちょっとシミュレートして。
大丈夫！できる！と確信して。
それからぱくりと口を開けて、アスランのそれを口に入れた。
「お、お前、何やって！」
何って、えっと、フェラ？
思ってちょっと赤くなる。
アスランの脚がじたじたする。
それにつられて、ソレも動いて。
うっかりちょっと、歯が当たって。
「っ！」
それを咥えていたシンには、アスランが息を詰めるよりも、それがぐんと大きく硬くなったことの方がよくわかった。
気持ちいい、のかな。
良かった。
だったら。
恐る恐る、それの形にそって舌を動かす。
きゅ、とアスランの手が、シンの髪を掴むのがわかった。
それでもその指は、痛いほどには掴んでこなくて。
くん、くんと引かれる刺激は、なんだか凄く、気持ちよくて。
俺も、この人気持ちよくしてあげたい。
そう思ったシンは、一生懸命、それに舌を絡めて嘗め回した。
「っ、っ、シ、ン。ちょ、っ、ま…・」
アスランの声が上ずっている。
それが珍しくて、耳触り良くて。
もっと聞きたい、と思って深く咥えなおすと、それの先がぴくぴくと震えたのがわかった。
えっと。
これって…
思う間もなく、口の中に熱いものが溢れた。
うっかり吸い込みそうになって、噎せ込んで。
ひとしきりゲホゲホやった後、シンは自分の下から聞こえてきた、恨めしげな声に我に返らされた。
「い、きなり、そう来るか、お前は」
はっ！
シンはそこで、やっと思い描いていた手順…調べて覚えた注意書きを思い出した。
《相手が初めてなら、いきなり核心に触るのは、怖がらせてしまうから、ダメ》
怖くなく、って俺！
青ざめたシンとは対照的に、真っ赤な顔をしたアスランは、シンの体を膝で押し返して起き上がった。
「なら、俺もやってやる」
シンのものに、アスランの手が伸ばされる。
キレイな手、長い指。
やばい。
あんなのに触ってもらったら、俺、きっとすぐイっちゃう・・！
「あの、でも！」
実は、すぐにでもイきたいんだけど。
あの手にイかせてもらえたら、きっと、とっても気持ちいいんだろうけど。
「でも、今日は俺に全部やらせて下さい！お願いします！！」
シーツの上で土下座した少年に、アスランは途方に暮れた視線をよこす。
「でも、な。お前、それ…」
それっていうと、これのことだよな。
シンの、すっかり勃ってる下半身。
気遣ってくれてるんだ。嬉しい。
嬉しい、けど！
「もうやらかしませんから！」
でも、俺の男のプライドも気遣って欲しいなもう少し！
アスランの男のプライドは棚に上げ、シンは深々と頭を下げる。
すると、白いつま先に額が付いて。
それだけでもうドッキンドッキンだ。
「もうって…何やらかしたんだ、お前」
アスランの声は、ちょっと上ずってはいたけれど、思ったよりも普通だった。
思ったよりも、怖がらせていないみたいだった。
「えっと、その。いきなりそこ、触っちゃって…」
「いや、それはその、かまわない、んだが…」
もそもそと言い合って、顔を上げて。
お互いもの凄く赤面して。
「…じゃ、あの、もっと、触っていい？」
言ったシンが、あんまり可愛かったものだから。
恥ずかしさのあまり目を逸らして、それでもこくんと頷いたアスランは。
実は、この時点で、初めに感じていた「怖さ」なぞ、既に忘れ切ってしまっていたのだった。