バージンロード ３
白い太腿にキスをする。
すると、ひくりと膝が跳ね上がる。
いきなりそこでもいいとお許しはもらったけれど、それでも周りから攻めてみようと思ったシンは、すっかりその肌のとりこになっていた。
張り詰めた筋肉の上を覆う、柔らかで薄い皮膚。
ちょっと吸えば、赤い印が簡単に残る。
それが面白くて、いっぱい跡をつけて。
「お、前、いつまで・・・・」
そこ弄ってるんだ、と問われてしまい、シンは思わず顔を上げた。
「え！じゃ、もうそこいい！？」
「そんなことは言ってない！・・・あ、いや」
つい、きつく言い返して。
それからおろおろするアスランは、なんだかとっても可愛かった。
「じゃ」
いただきます、と意味不明に呟いて、シンは、吸い付いていた脚の奥、ずっと気になって仕方がなかったところに唇を寄せた。
「ば・・・・・っか！そんなところ！」
舐めるな！と、頭上の猛抗議をものともせずに、シンはそこをぺろぺろ舐める。
がっちりと腰を抱きこんでしまっているものだから、反射の抵抗で蹴られる心配はしなくていいし。
ぐいぐいと頭を押し返そうとする手のひらには、本気の力が入っていない。
そのかわり、そこはきつくシンの舌を締め付けて、ほんとに入るのかな？と不安になるくらい狭くて。
「んっ・・・」
それでも舌を押し付ければ、きゅうきゅうと舌を食みつつも、結構奥まで飲んでくれる。
あ、イケルかも。
「シ、ン、この、いい加減に・・・！」
でも、アスランの方がイケなかったらしい。
押し返す力が強くなって、シンは仕方なく、舌を離した。
「だって、ほぐさなきゃ入らないですよ」
「はっ、入らないとか言うな！」
入れちゃダメなのかよ！と思ったけれど、真っ赤で涙目のアスランに、ああなんだ、恥ずかしいだけなんだと納得して。
「えっと、じゃ、これ使っていい？」
放り出した赤服のポケットに手を伸ばし、中から小箱とチューブを取り出した。
アスランの顔が、もっともっと赤くなる。
緑の涙目が大きく見開かれて、本気でびっくりした顔に、シンはなんだか得意になった。
「つ、かうって、お前」
「だって、舐められるの嫌なんでしょ？」
それはそうだけどもえええええ！
パニックを起こしたらしいアスランに、シンは得意を通り越して嬉しくなって。
しかし、今のうちだと思い直して、箱の方は放り出し、チューブを開けて、中身をとろりと指に取った。
舌、だいぶ入ったし、このくらい入るよな。
思って、片膝を掴んで広げ、そこに触れて、力を込めて。
「っ！」
「あ、え、ごめんなさい！」
シンが散々舐めて弄っていたそこは、思ったよりもほぐれていららしく、潤滑剤で濡らされた指を、いきなり根元まで飲み込んでしまった。
舌よりも、深くまで感じるアスランの中は、柔らかくて熱くてぐちゃぐちゃしてて・・・
わぁもう！
ダメ！えっと、いっくら俺が・・・・・・その、まだ大人の大きさじゃなくたって！
これで入れちゃダメだから！入んないから！それこそほんとに怖いからーーー！
少年が理性で持って欲望と戦っている間、アスランも自分と戦っていた。
思ったよりも、少年が自分に気を使ってくれていることはよくわかった。
なら、多少恥ずかしくて痛いくらいは我慢できるだろうと思っていた。
でも、恋人の前で、脚を大きく開かれて。
それだけでも恥ずかしいというのに、その間を舐められて弄られて挙句に指まで突っ込まれて。
しかも、どう考えても痛いだけだと思っていたそこが・・・
その。
シンが、中で指を動かす。
ずるずると中を探るように動いていたそれが、いったん抜き出されると、圧迫感を増して入ってきた。
潤滑剤をたっぷりと使っているせいか、シンの指が細いせいか、痛みはない。
ない、けれど。
ずる、と、中を擦られる。
ぐいと指を開かれて、入り口の輪を開かれる。
つめたい人工の粘液に濡らされた下肢は、酷く敏感になっていて、時折、シンがそこを覗き込むのが、吐息がかかってよくわかる。
恥ずかしいのに。
体の中を弄られて、気持ちが悪い、はずなのに。
なのに。
「んっ、あ・・・・・」
アスランの唇から洩れた、甘くて深くて色っぽい声に、シンはがばりと顔を上げた。
緑の瞳が涙に潤んで、とろりとシンを見上げている。
薄く開かれた、赤い唇。
それが、きゅっと食い締められたのは、自分が上げてしまった声に、気づいてしまったからだろう。
思わず手を離してしまった膝が、シンの鼻先をかすめて。
ふわ、と、甘い汗の匂いがした。
え・・・あ、う、ええと。
「感じた？」
「言うな！」
膝が、シンの顎を直撃した。
でもあんまり痛くはなくて、そのかわり、甘い匂いがもっとした。
いつもだったら凄く怖い、睨む瞳が凄く可愛い。
ガマン、って、どこまでしたらいいんだろう。
えっと、えっと。
マニュアルじゃ、もう、大丈夫かも知んないけども。
「アスランさん、もう、いいかな」
自然と聞いてきたシンに、アスランは少し考えて、「たぶん」とちいさく頷いた。
「気をつけるけど、その、怖かったら言ってください」
「・・・・ 」
アスランは、いちど目を逸らして、それからまた、シンを睨んで。
「お前ならいいと、言っただろう」
「っ！はいっ！」
勢い込んで頷いたシンは、それでも慎重にアスランの脚を捕まえなおした。
それから慌てて放して。
放り出した小箱を拾い上げて。
「あ・・・・えっと・・・・・」
「説明書くらい読んで来いよ」
「よ、余裕なかったんですよ！」
箱の中から引っ張り出した、個包装を開ける指が、なんだか無様に震えていた。
つけるのにもだいぶ手間取って、その間に、アスランはなんだか余裕を取り戻してしまったみたいだった。
「・・・可愛いな、お前」
「怖いとか言ってたアンタのが全然可愛いです」
仕切りなおすと、二人とも、結構落ち着いていた。
だから。
シンは、抱え上げたアスランの脚の重みや手触り、あたたかさ。青い髪の張り付いた頬の色っぽさまで堪能できたし。
アスランは、自分を見下ろす少年の、細くて強い肢体やら、脚に食い込む指の熱やら。赤くて綺麗な瞳やらを、堪能できた。
シンの唇が、自然とアスランのそれに落ちて。
アスランの腕が、自然とシンの首を抱き寄せて。
それから、ゆっくり、ゆっくりと。
シンが十分に慣らしておいてくれたおかげか、痛みはさほど感じなかった。
その代わり、押し上げられる圧迫感が辛くて、しがみ付いた腕に力が篭る。
「痛・・・い？」
それに気づいたシンが聞いてくるけれど、その声の方が辛そうだ。
詰めたような息。
かすれた声。
きゅ、と、指に力が篭る。
たぶん、随分我慢してくれているのだろう。
そう思うと、少年への愛おしさが増して、アスランは腕の力を緩めて、彼の耳元へ囁いた。
「大丈夫だ。痛くは、ない」
本当は、力の入ってしまっている下肢も緩めてあげたいのだけれど、どうにも体の勝手がきかない。
だから代わりに、ただされるがままだった脚を、彼の腰に絡めて。
そうすると、柔らかな襞が硬く熱いもので抉られて、思わず息を飲んでしまって。
首をすくめ、頬をシンの髪にすり付けて、小さく息を逃がして。その弾みで、喉の奥から声を洩らしてしまって。
「ふ、・・・っ」
それが、少年の我慢の限界をぶっちぎってしまった。
「ごめんなさい！俺、もう・・・！」
「ダメ！」と、聞こえたか聞こえないか、の間で、深く深く突き上げられた。
「や…っ」
思ってもみなかった深さに、反射で目を閉じる。
そうすると、体の中の、奥のシンを、より確かに感じてしまって。
腕の中で、どきどきいってる少年の鼓動が、自分の中でも鳴っている。
それがずるりずるりと引いて、あ、と思う間もなく、また同じ深さで侵入ってくる。
思わず身悶えると、腰を押さえつけられた。
そのまま二度、三度と突き上げられれば、自分の中が今、どうなっているのか、アスランもワケがわからないなりに理解した。
今、俺の中。
シンを包んで。
ぐちゃぐちゃしてて。
それで。
それで・・・
「ふ、くう・・・・っ！」
上のシンが、不意に呻いた。
とたん、中の感触が変わる。
イっちゃった、と、ふたり、同時に理解して。
はぁはぁと、荒い息を吐いて。
「俺は、もしかして怒るべきなんだろうか・・・・」
「わ、わ、ごめんなさい！」
慌てたシンが、慌てて抜き出したものだから、その乱暴さにアスランが呻く。
更に、慣れないゴムを慌てて外したせいで、中に溜まっていたものをシーツの上にボトボトとこぼしてしまい。
「わ、わー！」
「・・・もういい」
「よ、よくないですよ！」
「いや、だから、シーツはいいから」
俺の方をなんとかしてくれ、と言われて、シンはキョトリとアスランを見下ろして。
半端ながらも、それでも立ち上がってしまっているソレに、気がついて。
「あ、うわ、はいっ！」
答えて、それから。
「え、アスランさん気持ちよかった！？」
そう叫ばれてしまい、アスランはできるだけ力いっぱい、足元に座り込む少年を蹴り飛ばした。
「そんなにいきなりいいわけあるか！生理現象だ！」
でも、力の入らない脚での蹴りは、そんなに痛いものではなくて。
怒鳴り返したそのセリフも、半分くらい、実は嘘で。
もちろん、調子に乗らせて痛い目を見るのはアスランなので、そこは白状しないけれど。
「じゃあ、ええと、また口でしていいですか？」
つ、と、自分の口を指した指は、さっきこぼしたもので濡れている。
それが、妙に淫靡に見えて、アスランはこくりと息を飲み。
それから努めて作った仏頂面で、ああ、とひとつ、頷いた。
とたん、ぱあっと笑った少年は、躊躇いもなくそれを口に頬張って。
「それ、たのしいのか？」
「ん！」
「・・・・じゃあ、今度してやる」
「え！？いいの！？」
「今度だ、今度。今じゃない。離すなよ。さっさとやれ！」
「ふぁーい」
「ん、ふっ」
一生懸命しゃぶりつき、イかせたそれを、こくんと飲んで。
それからシンは、満面の笑みで、アスランを見上げた。
「ねえ、アスランさん」
「・・・何だ？」
なんとなくバツの悪い思いをしながら、アスランはずるずると毛布を引き寄せる。
あんなにいろいろ触らせたのに、終わってしまえば、やっぱり下肢を曝しているのは恥ずかしい。
そんなアスランの今更の恥じらいに気づかずに、しかしその仕草の色っぽさだけはきっちり気づいてしまいながら、シンはどきどきしながら、聞いた。
「今度って、いつ？」
アスランは、自分の失言に気がついた。
今度。
今度って。
「・・・・・来年の誕生日、だな」
「え、えええっ、嘘！」
嘘、だけれど。
「ね、ねぇアスランさん！」
「わかったからもう寝ろよ。それとも出て行くか？」
「何がわかったんですか！行かないですよ！・・てか、シーツ濡れてる！」
「ああ、拭いておけよ」
「あっ、て、ねえ！」
自分の下着でごしごしとシーツを拭いながら、ベッドの端で毛布を被り、小さくなった人の顔を、シンは必死に覗き込んだ。
「拭いたら、一緒に寝ていいですか！？」
「・・・・さっさとしろよ」
「はい！」
その後、狭いだの何だのと騒ぎながら、それでもふたり、一緒のベッドに収まって。
シンは、何年かぶりの、幸せな誕生日を堪能した。
大好きな人の、やさしい匂いのするそれは、今までで一番の、プレゼントだった。
Happy Birthday Shinn !
終