時折、永泉が訪れる。それ以外の何の変化もない日々が続いた。

永泉が独りで来る事はなく、常に誰かが後ろについていた。

それは当然のことだったし、泰明も特には気にしない。

永泉の、少し血の付いた唇に触れ、それをじっくりと楽しむ。

抱きしめた体が、優しく抱き返してくるのが心地よい。

触れて、離し、また触れる。

不意に、手の白さやや首筋から立ち上る匂いに気づくと、思わず噛み付いてしまいそうになるが、慣れることは簡単だった。

向こうから、友雅が見ている。

仕事だろうが、ご苦労なことだった。

「永泉様、もうよろしいでしょう」

「はい・・・」

名残惜しげに離れた唇が、他の人間に答えるのは何故か苛立つものだった。

しかし、その苛立ちを泰明は無理やり封じ込める。

無意味に苛立つ、それが自分を壊していく。

それが、怖かった。

友雅と視線を合わせ、もう一度永泉は泰明を見上げた。

「あの、泰明殿、もう少ししたら、謹慎が解けるかもしれません」

謹慎？

「それは違うだろう」

ずっとこの部屋に閉じ込められていたのだから、謹慎といえなくもないのだろうが、意味するものはまるで違うように思う。

自分は、処分されるまでこの肉体を維持するためだけに、今だ生かされているのだから。

「違いません。あの、でも、ご不快に思われたのなら・・・申し訳ありません」

話が見えない。

「その、泰明殿に、恋人になってくださいとお願いしましたでしょう？それで、あの、あれが、その、少し、行き過ぎてしまっただけで・・・その、ただの、閨ごとだったのだと、そういうことにしたのです」

恋人云々の話はすっかり忘れていた。

意味がわからなかったので、他の物事と関連付けて覚えていなかったせいだ。

「あの、いろいろな方に、付いて来ていただいて、その、噂を、撒いたのです。私と、泰明殿が、その、あ、愛し合っていると・・・」

「・・・・・おまえは賢いのだな」

「い、いえ、そのような・・・・」

思えば、永泉の連れてくる護衛は、いつも違う顔だった。

永泉が、はじめに「恋人」と言った意味がやっとわかった。

会っては抱き合って口付けを交わす。

傍から見ればそれは恋人なのだろう。

「しかし、私が壊れていることには変わりない。このようなものを京に放つことは、良いことではない」

「泰明殿は、壊れてなどいません・・・」

声が詰まる。肩が震える。

もう吊ってはいないが、厚い包帯に包まれたそこに視線を落とし、泰明は呟いた。

「私は、おまえを食らうぞ」

「食べるなら・・・人に見つからないところで食べてくださいね・・・・」

もう一度。ぎゅっと泰明に抱きついて。

それから永泉は友雅を連れて出て行った。

その後姿は、何故だかとても眩しかった。