少佐のお気に入り ver.ヒノミヤ １
新生カタストロフィ号に戻ってくるなり、ヒノミヤは兵部に捕まった。
「ようヒノミヤ、丁度いいとこに来た」
「げっ、兵部」
満面の笑みの兵部なんて、なんかもうイヤな予感しかしない。
一瞬跳びすさったヒノミヤに、兵部の笑みが深くなった。
ヤバイヤバイヤバイ。
そう、ビビり切ったヒノミヤに、兵部はけろりと言い放った。
「今日、真木がいないんだ。おまえでいいや、ヤろうぜ」
つまり、いつもの相手がいないから代わりをしろ、と。
ヒノミヤは大きく安堵の息をついた。
なんだ、そんなことか。・・・って、え。
思わずまじまじと無駄にキレイな兵部の面に見入ると、彼はニヤニヤといつもの笑みを浮かべている。
「返事はどいうした、ヒノミヤ」
どうやら、ヒノミヤの反応を見て楽しんでいたらしい。
あんまりあけすけな誘いは萎えるものだが、コイツにされると飛びつきたくなるのは、その先にあるのがとんでもない快楽だと知っているからだ。
「・・・了解だ、ご主人様」
それ以外の返事はあり得ないと、二人とも知っている。
兵部はぱちんと指を鳴らすと、ヒノミヤを自室へと一息に運んだ。
「うぉっと！」
いきなりベッドの上へと落とされて、受け身をとり損なったヒノミヤは、そのまま柔らかなスプリングに沈んだ。
「おい、ベッドに乗るならブーツを脱げよ」
「お前がここに落としたんだろうが！」
言いながらも、せっせとブーツを脱ぐ忠犬ぶりが可愛らしい。
「シャワー浴びないのか？」
「だから！お前がここに落としたんだろうが・・・」
がっくりとうなだれながらブーツを放ったヒノミヤの背中に懐き、兵部はわざとらしく甘えた声を出して見せた。
「だってさー、早く欲しいんだもん」
「いい年してだもん言うな」
「僕は永遠の１７歳だぜ？」
「ああそうかよ、カンレキ過ぎ」
「おや、難しい言葉を覚えてきたね」
後ろから、耳朶に息を吹き込まれるように。
囁かれると、ぶっちゃけ勃つ。
でも。
「で、還暦って何歳だか知ってるか？」
「・・・・・」
意地悪をされて、ちょっと萎えかけた。
もっとも、低めの体温と甘い肌の匂いに、後ろからぺったりと張り付かれたままでは、萎える訳がないのだが。
「６０だよ」
「とうの昔じゃねえか！」
年寄りの代名詞だと言われて覚えたのだが、思ったよりも若くてびっくりした。
いや違うだろ。
背中に張り付いた、自称１７歳を振り返る。
兵部がジジイ過ぎるんだ・・・
めっちゃ美人な８０代に微笑まれ、ヒノミヤはもうなんだかどうでもよくなって、その肩を掴んで押し倒した。
「で、シャワーはいいんだよな？」
「うちの犬は臭くないからね」
ヒノミヤのジャケットを掴んでクン、と嗅ぎ、兵部はニヤリと笑って見せる。
ていうか、そこまで臭かったらマジ困る。
「一応、毎日シャワーは浴びてるからな」
「偉いえらい、誉めてやろう」
「嬉しくねー」
嘘だけど。
少しつめたい手のひらで、頭を撫でられるのは、実は結構気持ちがいい。
子供の頃に与えられなかったものを、今頃与えられて嬉しいなんて、さすがに恥ずかしくて言えないけれど。
兵部の体は、とても美しいとヒノミヤは思う。
少年らしい細い骨格の上にしなやかな筋肉が付き、その上にふたつ、消えない傷跡の花が咲いている。
体を壊している上に不摂生をするものだから、肌は青白いがそれでもくすみなく、艶やかだ。
「いつまでジロジロ見てんだよ」
べし、と額にチョップを食らい、悪い悪いと謝れば、謝り方が悪いともう一発叩かれた。
「いーだろ見とれるくらい。お前綺麗なんだから」
開き直れば、今度は兵部が頭を抱えた。
「怖ぇな・・・コメリカ産の彼氏力」
「何だよそりゃ」
訳が分からない。
わからないなりに誉められたらしいことはわかったので、お礼も兼ねてキスをする。
兵部は、キスが大好きだ。
すぐにヒノミヤの首に腕を巻き付けて、もっと深くとねだりだす。
「んっ、ふ、ぅ・・・」
甘い舌を柔らかく噛んで吸い、気持ちよくなった兵部がぼうっとしてきたところでやっと離す。
そうすれば、とろんとした目でヒノミヤを見上げ、薄く微笑んで呟いた。
「んっ、まぎ・・・」
「こらこらこら」
がっくりきた。
「ああ、悪い」
兵部は、全く悪いと思っていない顔で笑い、口の端に溜まった唾液を指で払う。
「お前それわざとだろ！」
「うん。だってお前、反応良くって」
こうも悪びれないと、なんかもう気にする自分が悪いような気になってくる。
「真木もなー、昔はこのくらい可愛かったんだけどなー」
わしわしと頭を撫でられる。
嬉しいけども、嬉しくない。
「アンタの相手ずっとしてりゃ、そりゃあ悟りもするだろうぜ」
「僕のせいだって言いたいのかい」
「おめーのせーだろうが、どう考えても」
とりあえず、しゃべっていると兵部のペースのままなので、それを回避するためにもう一度キスをして。
「頼むから、もう黙ってクダサイ」
胸に手を這わせれば、小さく息を飲む気配。
基本、兵部は感じやすい。
快楽が大好きな体なのだ。
「だったら、僕が黙るくらい気持ちよくさせろ」
それでも減らない口に、またキスをして。
今度は胸の赤みに吸い付けば、耳に心地よい声が上がった。
「あ・・・っ」
可愛らしいそれはすぐに芯を持ち、舌先に快感を伝えて来るから、ヒノミヤも熱心になる。
片手でもう片方を摘み、両方一度に愛撫してやれば、兵部は胸を跳ねさせた。
「んっ、や、胸ばっかり・・・」
「・・・ん、了解」
余所も触れという指令に素直に応じ、髪をぐしゃぐしゃに乱していた指を取って、口付ける。
テレポートの時に指を鳴らす癖のせいか、少し固くなった指の先を含み、軽くかじるとそれが口腔で跳ねるのが気持ちいい。
「の、バカ」
手のひらで顎を押し返され、たっぷりと唾液の乗ったそれを離すと、自分の口と兵部の指の間に透明な糸を引くのが卑猥だった。
「噛んで回るな、バカ犬」
ご主人様の可愛い罵倒に「ばう」と返すと、兵部は目を丸くする。
犬と言ったのは自分のくせに。
そう思うと可笑しくて、ヒノミヤはにこりと笑った。