Sex and Shoot １
ごそごそと、ベッドに潜り込まれる気配で目が覚めた。
探るような手のひら。
腹の上に乗った体温と重み。
また薫か。
体ばっかりでかくなっても、ホント子供なんだから・・・
半分寝たままの頭でそう思い、皆本はいつものようにしぶしぶと起きあがった。
手を伸ばして眼鏡を取る。
それをかけながら、声をかける。
「薫、また寝ぼけてるぞ。自分の部屋に・・・」
「へえ、君ってば寝ぼけた女王と一緒に寝たりとかするんだ？」
思わぬ声に答えられて、皆本は仰天した。
「な・・・っ！」
いつもよりでかく感じたのは当たり前だ。布団からひょっこり顔を出したのは、銀髪学生服の、皆本の仇敵。
兵部京介だったのだ。
「な、なななななななんなんだてめえはー！！」
「夜中にあんまり大声出すなよ。女王たちが起きちゃうじゃないか」
言っていることは常識的なのだが、この状況でこいつに常識をぬかされると、驚きも吹っ飛ぶ勢いで猛烈に腹が立つ。
言葉も無くしてわななく皆本の腹の上に乗ったまま、兵部は、つめたい指で皆本の顎を取り。
「それに、何って」
そうして、鼻先が触れるほどの近さで、にい、と笑った。
「そんなの夜這いに決まってるだろ」
皆本にとって、兵部にこの体勢に持ち込まれることは、不本意ながら慣れっこになっていた。
だから、油断していたのだ。
黒々とした瞳が間近に来ても、何言い出すんだ子供たちは渡さんぞなどと思うばかりで。
それが、さらに近づいて。
ちゅ、と。
唇が触れてから、やっと、皆本は事態を把握した。
「な・・・っ！」
「だから、大声出すなって」
叫びだそうとした口を、また兵部の唇でふさがれる。
しかも、今度は舌が入ってきた。
なんとか離れようとしても、念動力で押さえ込まれて動けない。
口蓋をそろりと舐められて、ぞく、と皆本の背筋を何かが駆け上がる。
まずい。
皆本はひどく焦った。
これは・・・なんだか本気でまずい！！
皆本がパニックになりかけたところで、やっと唇が離れてくれた。
ニヤニヤと楽しそうに笑っているそれが、たっぷりと濡れているのを見てやっと、皆本は彼の言う、『夜這い』の対象が、薫ではなく自分なのだと気づいたのだった。
「キ・・・キサマ一体何を考えてる！」
変態だ変態だとは思っていたが、こういう方向の変態だとは思わなかった。
ロリコンじゃなかったのかこいつ！
「そんなの、君への嫌がらせに決まってるじゃないか」
何を当たり前のことを、とでも言うかのようにきょとんとしながらそう言う兵部は、皆本の想像の範囲を軽く越えている。
だめだこいつ。
話がぜんぜん通じない。
「だ・・・だからってこんな」
「やだなぁ」
思わず漏れた言葉に、クッ、クッ、クッ、と、もの凄くカンに触る声で嗤い、兵部はばっさりと学生服の上着を脱ぎ捨ててから、皆本を押さえつける念動力を強くして、彼のパジャマのズボンに手をかけた。
「僕は、君の嫌がることだったら何でもするぜ？」
「や・・・やめ・・・っ！」
「へえ」
ずる、と下着ごとひっ掴んで下ろされて、皆本は屈辱と羞恥にふるふると震えた。
その様子が、余計に兵部を楽しませることがわかっていても、こんなことは止めようと思って止まるものではない。
しかも。
「坊やにしちゃ、イイもん持ってんじゃん」
さっきのキスで不覚にも感じてしまっていたそれは、ここのところ処理などしてる暇もなく忙しかったせいで、本当に本意ではなく・・・勃ってきてしまっていたのだ。
「コレ、結構モテんじゃね？」
あえて皆本でなく『コレ』に限定して言うと、兵部はその根本から先端までを、するり、と指先で撫で上げて。
それから。
「いただきまーす」
馬鹿みたいなことを言ってから、あーん、とこれ見よがしに口を開いて。
はくり、と皆本のものを、その口にくわえてしまったのだ。
「〜〜〜〜〜っ！！！」
若い男とはいえ、出せればいいというわけではない。
若い男だからこそ、メンタルは結構大事なのだ。
顔突き合わせるだけで吐き気がしそうなほど嫌いな男に、こんなことをされて勃つはずがない。
はずがないのに、だ。
ソレが口腔深く押し込まれると、まずは先端を包み込んだ舌が、裏を伝うように一気に舐め下ろされた。
そのまま、たっぷりと舌を使われて。
時折先端に感じる柔らかく気持ちいいそれは、深さからいって、たぶん、喉の奥に当たっている。
そう自分に解説しながらなんとか保とうとした理性は、さらりと上目遣いに嗤われたとたん、じゅう、と吸われて吹っ飛びかけた。
何で・・・何でこんなに巧いんだこいつはー！
皆本だって木石ではない。
そこそこモテたし、彼女だっていたことはある。
しかしだ。
ぶっちゃけ、こんなにキモチよかったことは・・・
いや、そうじゃなくて！
「てめ、催眠能力で・・・！」
そうとしか考えられない。
コイツは、他人の脳内物質を自在に操れる、催眠能力も持っているのだ。
しかし、ちゅ、と先端を吸いながらやっと口を離してくれた兵部は、その口先を子供っぽく尖らせてむっとしながら言った。
「やだなぁ、なんでそんなつまんないことしなきゃなんないんだよ」
してないのか！？
皆本は本気で驚愕した。
いや、こいつはどうしようもない嘘つきだ。そう自分を納得させようとするも、兵部の言う『そんなつまんない』の説得力が半端ない。
こういう奴だ。
兵部京介という男は、面白いとかつまらないとかそういうことに、無自覚に命だって賭けてしまう大馬鹿野郎だ！
「こういうのは、自分のテクでイかせるから面白いんだからさー」
敵に対する無駄な理解にじたじたする皆本にかまわず、兵部はニヤリと嗤って口を開いた。
「お前だって、そっちのが屈辱だろ？」
そうして、その口でまた、皆本のものを咥え込んでしまい。
自分でテクなどと言うだけあって、やはりそれは、どうしようまなく巧くて。
気持ちよくて。
「・・・うわぁ」
白い粘液をまとわりつかせた唇を、指の背で拭い。
兵部は、その唇を笑みの形に歪めた。
「ボロ泣きかよ？」
心底嫌いな相手の口の中に出してしまった衝撃で、皆本は、ぼろぼろと涙をこぼして、声を殺して泣いていた。
しかも、兵部は皆本の出したものを何のためらいもなく飲み込んでしまったのだ。
出してしまったあの瞬間と、続く、ごくりと喉の動いた感触は、悪夢に見ると本気で思った。
嫌だ。
もの凄くイヤだ！！
何が嫌って、少しでも気持ちいいと思ってしまった自分が一番嫌だ！！
そのまま泣き声を殺して泣き続ける皆本を眺めて、兵部は笑いが止まらない。
やばい。これ凄い面白い。
正直、兵部だってここまで嫌がるとは思っていなかったのだ。
これで、自分のナカで絞り尽くしてやったらどうなっちまうんだろ。
それにこの様子なら、あと２、３回搾り取ってやれば、きっと半永久的な催眠もかけられるだろう。
これで、このボウヤは僕のもの。
まったく、笑いが止まらないとはこのことだ。
それに。
涙の伝い落ちる顎を取ると、軽くキスの嫌がらせをしてからのぞき込む。
この泣き顔を見ながらイったなら、きっと、とってもキモチイイ。
その瞬間を思うだけで、背筋がゾクゾクと震えるようだ。
しかし、皆本は涙をぼろぼろこぼす目で兵部を睨み、ボロ泣きのまま叫んで見せた。
「こ・・・こうやって、抵抗もできない人間をいたぶるのが楽しいのか！？」
「ふうん」
全くもってその通りなのだが、この男に言われるとなんかムカつく。
なので、兵部はこの部屋のどこかにあるものを、触れた皆本を通して探し出した。
「じゃあ、ほら」
ひゅ、と、間近でテレポート独特の空間の歪みが生まれ、皆本の傍らに、どさりと重いものが落ちる音がした。
「・・・・」
それが何なのかを認識して、皆本は息を飲んだ。
鈍色に光る銃身は、蕾見管理官から渡された熱光線銃（ブラスター）。
皆本が、唯一エスパーに対抗しうる武器。
「使いたきゃ使ったらいいさ」
ブラスターの側の手だけを自由にしてやり、兵部は嗤う。
「貴様・・・僕ができないとでも」
「ああ、できないね」
必死に睨む涙目を、愉しく眺めて兵部は言う。
「ここで僕の死体が出たら、女王はどうするのかな？」
はっ、と皆本は息を飲んだ。
薫が、このエスパーだけには優しい犯罪者を、ひどく大切に思っていることを、皆本は知っている。
「僕はどっちだっていいんだぜ？伊号の予知じゃ、僕はこの後黒い幽霊に切り刻まれて、実験材料にされるんだそうだ」
そんなことをさらりと言って、兵部は皆本の手を取ると、ブラスターの上に重ねさせた。
「奴らにこの体が渡らないようにしたら、少なくとも、未来は奴らの不利に書き換えられる。そしたら」
間近に迫る暗闇の瞳。
この後何をされるのか、わかっていても、皆本は動けない。
手の中のブラスターは、ただ、二人分の体温を吸ってぬくもるばかりで、本来の使われ方を忘れたままだ。
「未来は、女王の死から少しは遠ざかるかも知れないぜ？」
言った唇が、皆本のそれに触れる。
口腔内を丁寧に舐めるようなキスは、相手がコイツでなければ、と思わずにいられないほど気持ちがいい。
コイツだって、僕のことが嫌いなはずなのに、なんでこんなキスをするんだろうと皆本は思った。
それも、嫌がらせの一環か。
どうやら、そんな思考を読んだのだろう。
「お前さー」
緩く離れて息をついだ唇が、変わらない至近距離で囁いた。
「僕の、初めての男に似てんだよね」
「なっ・・・」
何か言いかけた皆本の唇を再び塞ぎ、言い返す言葉がなくなったところで再び離す。
「まだ子供だった僕に、いろんなこと教えてくれた変態野郎」
一瞬、皆本の頭の中が真っ白になった。