セカンドバージン ２
「・・・・っ」
びくん、と兵部の体が強ばって、抜きかけていた指が、ぎゅうときつく締められた。
「え？あれ？」
見下ろす白い腹には、もっと白い体液が散っていて。
「・・・イった？」
触れられもせずにイったそれをふるふると震わせて、兵部は皆本のデリカシーのないセリフにブチ切れた。
「いいからさっさと入れろバカ！」
自分の感度の良さは知っているが、それだって指だけでイくとかあり得ない。
あり得ないが実際イっちまっててああああああもう！
いたたまれなくて、どうしようもなくて。
なのに皆本は、また眼鏡を持ち上げてのぞき込んできて。
平和ボケした茶色の瞳。
そこに宿るのは、当たり前の情欲と、好奇心とそれからなんだかわからない、ふわふわしたかたちのないもの。
その視線をどうにかしようと、兵部はがばりとその首にしがみ付いた。
うむ。これで見えない。
兵部はそれで満足だったが、皆本はそれどころではない。
首に絡み付いた腕は、滑らかで。
イったばかりの高い体温。
どきどきと、早い鼓動を刻む胸。
普通だったら不快だろう、青臭い匂いにも欲情した。
「っ、ひょう、ぶ」
腕の中に収まった体は思ったよりも華奢で、皆本の中の、【兵部京介】というもののイメージが、なんだかすっかり描き換えられた。
しがみつく腕を無理矢理引き剥がすと、怒るかと思った闇色の瞳は、意外にも寄る辺無く揺れていた。
いっそうたまらなくなって、皆本は。
熱くとろけた兵部のそこから指を抜き出すと、何かに急かされるようにして、熱く猛り切ったものを、押し込んだ。
「ひ、あーーーっ！」
ソレに犯される瞬間は、もともと、兵部の大好きなものだった。
いじり回されて焦れったく潤んだそこを、大きな質量で擦られる快感は、他の何にも代えられない。
しかし、だ。
「はっ、あんっ！う、ああ、ンっ！」
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。
体の中をそれが行き来するたびに、そればかりが積み重なって。
こいつに、こんな姿晒したくないのに。
こいつを、夢中にさせてやりたいのに。
これじゃあ、僕が夢中にさせられてしまう。
そう思って逃れようと腰を引くと、それを追うようにいっそう深くされた。
やばい。
ホント、これ、やば・・・・っ
「あ、あ、ああ・・・・ンっ」
皆本が動くごとに、兵部の唇からは耳に心地よい声が上がった。
銀色の髪がぱさぱさと打ち震われ、ムカつくはずの兵部の顔が、とろけるさまがとても綺麗だ。
白い体が淫らにのたうち、中はきゅうきゅうと皆本のものを食い締める。
こんな気持ちのいいセックスを、皆本は知らなかった。
こんなに、夢中になってしまうものだとは、本当に。
一生懸命腰を振っていると、傷跡が目立ってしまう兵部の胸の上。
赤い蕾が、ぷくんと立っていることに気がついた。
両方だ。
なんだかそれが可愛く見えて、皆本はぐっと腰を押し付けたところで、ぺちゃりとそれに口を付けた。
「ひぅ！」
ああ、胸って男でも感じるのか。
そう思いながら今度は吸い付いてみる。
「やんっ、あ、あっ」
そうすれば、びくびくと白い胸が震え、目の前の肌に赤みが増した。
もしかしたら、またイったのかも知れない。
尖ったそれは、女性のものよりも吸いにくかったけれど、そのぶん無理強い感が増して男の欲を刺激した。
「やめ・・・っ、そこ、ダ・・・っ」
ダメ、とは、最後まで言われていないので、やめない。
ぺちゃ、ぺちゃとそこを舐めながら、中の襞に絞られる感触を、十分に愉しむ。
「やだ、やだ、や・・・あ、あン、あ、あぅ」
嫌だと口では言いながら、熱い手足を絡みつかせ、突き込んでやるたびに甘く喘ぐ声に、兵部も気持ちいいのだとわかる。
どんな顔をして感じているのか見たくなって顔を上げれば、赤く染まった目元から、快楽の涙をほろほろこぼし、唾液をこぼした唇を、はくはくと動かして荒い息をつき。
「みな・・・と、もぅ・・・っ」
ああ、あの唇にかぶり付きたい、とそう思ったけれども原初の欲の方が勝ってしまった。
そのまま深く腰を穿ち、解けてもなおきつい肉に、摩擦される快感に身を委ねる。
「ふぁ、やっ、中・・・っ」
己の支配する体の中に種付けする快感は、男にとって無上のもの。
そうして、兵部の体も、そうされるのが大好きで。
「〜〜〜っ！」
びくびくと震える中に絞られて、残りまでを出し切って見下ろせば、兵部のそれが、ぴゅくぴゅくと射精するところだった。
ああ、こいつもこんなに気持ちよかったのだと思えば、皆本の満足も増す。
「・・・抜くよ」
「ふぁ」
本当はいつまでも繋がっていたいけれど、このままでは兵部も辛いだろう。
そう思って、気持ちのいいそこから引き出せば、ひどく擦られて赤く染まったその孔から、どどりと白濁したものがこぼれ落ちた。
その光景の卑猥さに、一瞬釘付けになった皆本は、しかしすぐに事態を把握して顔をしかめた。
しまった。
そういえば、コンドームをしていなかった。
イったばかりの兵部の体はどこもかしこも弛緩して、はぁはぁと、色づいた先端を持つ胸が上下するたびに、そこからもこぷこぷと注いだものがこぼれ出す。
どうしようかときょろきょろした皆本は、枕に掛けたタオルを剥いで、兵部の膝を再び押し開いた。
「な、にする気だてめ」
とたん、力を失っていた脚がびくんと強ばった。
しかし、閉じようとする膝には、そんなに力は入らない。
「だって、中で出しちゃったし。綺麗にしないといけないだろ？」
そう言った皆本は、どうやったらいいだろうかと悩みながら、とりあえず下にタオルを敷き、そこに指を差し込んで。
そうして、思った以上の抵抗に遭った。
「やだ・・・・っ」
「こら、暴れんな。ていうか、できればやり方教えて欲しいんだけど」
「教えるかバカ！自分でするからさっさと抜けっ！」
じたじた暴れる兵部の脚を押さえ込み、その中でぐちぐちと動かしていた皆本は、しかし、無駄に優秀だった。
「ああうん、だいたいわかった」
兵部が暴れてやりにくいが、指を二本入れて、こう、ぐるっと・・・
「わかってねぇ・・・っ」
的確に後始末をされだした兵部は、何故だかもう半泣きだった。
開いた脚の間をのぞき込まれ、そこに指を差し込まれて。出されたものの始末をされる恥ずかしさに。
そうして。
「あ、ごめん、感じちゃったか」
「感じてねぇっ！」
それにすら感じてしまう恥ずかしさに、兵部はじたじたと暴れるしかない。
ていうか、いつもだったら当たり前にさせている後始末が、なんでこんなに恥ずかしいんだ。
こんな風に、普通にセックスして、普通に後始末をして。
それが、なんでこんなに恥ずかしい。
そうだよ。
なんで。
この僕が。
初めて恋した小娘みたいに、じたじた恥ずかしがらなきゃいけないんだ・・・っ
今、まさにその状況であることに気づきもせず、兵部はじたじたし続けた。
皆本は、それを。
可愛いなぁと思いながら。
可愛いなぁと、思ってしまったものだから。
「悪い、兵部。もっかいいいか？」
「い、いい訳あるかあっ！」
「ああうん、わかったわかった」
「ひああっ！」
第２ラウンドに突入し、もっと可愛く鳴かせることに成功したのだった。
終