十兵衛の恋人は、優しくて淫らで奔放で、そして、とてもとても欲張りなのだ。

久方ぶりの逢瀬に胸おどらせてみれば、見えない目に小さな画面の光を突きつけて、自分でない男の名を紡ぐのだ。

それが他の男であれば、即座に何も言えないよう口を塞いでやるのだが、それは十兵衛が最も信頼する男の名だったので、仕方なしに了承した。

まったく。

と、十兵衛は思う。

昔は、花月のことだけを考えていればよかった。

いや、今でも自分にとって、最も重要なのは花月のことだ。他の何にも代えるつもりはない。

しかし。

マクベス、雨流、申請VOLTSの仲間たち。

守らねばならないものが、いつの間にか増えていた。

裏を返せば、それくらい大きな男にならなければ、花月を守ることなど不可能なのだと、十兵衛は思う。

これも鍛錬のうち。

「だから、キミが大好きだよ」

人生之、修行也。

花月の体は知り尽くしている。

服の上からでも、好いところはわかる。

「今、十兵衛の部屋に来てるんだ。・・・・俊樹も、来ない？」

緩やかな愛撫に耐えながら、もう一人の男を呼ぶ声はとろりと甘い。

アレは断らんだろうな、と思い、その前にと首筋にいつくもの赤い花を咲かせる。

通話を終えた携帯が、背後にかすかな音を立てて落ちると、湧き上がるのは子供っぽい独占欲。

「ん・・・んふ・・・・」

脱がせることはまだせずに、Tシャツの下から手を差し込み、滑らかな胸と、ぷくりと起った突起を愛撫する。

もう片方の手は、これから味あわせる快楽を知らしめるため、双丘を柔らかく揉みしだく。

花月の体は、それだけでもう、蕩けていく。

「あんっ・・・じゅう、べ・・・・としき、来るまで待って・・・って・・・」

「ドアの前で嫌な顔をしてためらっているぞ」

「ぇ・・・・え？」

「筧キサマ・・・っ」

がん！と開けられたドアから、雨流がずかずかと入ってきて、十兵衛の上で喘いでいた花月の体を掻っ攫った。

長い髪が半分床にこぼれ、俊樹の腕に当たって、髪留めの鈴がちりりと鳴った。

「俊樹v」

横抱きにされた不自由な姿勢で、手近な雨流の腕に懐く花月の、ベッドに残された脚をつかまえ、十兵衛は手早く細い腰のベルトを外す。

そうしてひと息にジーンズから白い脚を引き抜き、滑らかな下肢をあらわにした。

「あ・・・」

既に感じはじめている花月のそれが、可愛らしく頭を持ち上げている。

その淫らなさまに、怒りの形相の雨流も、言葉が出ない。

修行不足だ、馬鹿者め。

毒づく割には楽しげに、十兵衛は花月の脚を大きく割り開き、高く抱え上げた。

花月を中途半端に抱いたままの雨流の目の前に、綺麗に整った花月の足先が、揺れる。

花月の体に無理がかからないように、首から上だけを膝に乗せたまま背中をシーツに下ろし、下肢を十兵衛に返した雨流は、細い足首を掴み、その先にぱくりと噛み付いた。

「あんっ・・・」

びくびくとおどる指。

男の膝の上に乗ったちいさな頭が、イヤイヤと振られるのに、刺激される。

十兵衛はそのまま、白い内腿に口付けた。敏感な肌がわななき、赤く染まる。

快楽の中枢、その立ち上がったモノにも、その奥のひくつく蕾にも触れずに、盲目のサムライは、ただ、滑らかな肌触りを、自分の一番敏感な唇と舌とで感じ取る。

「く・・・は・・・ん・・・・ばかっ・・・・・」

「筧、してやらんのなら代われ」

艶やかな花月の声も、不機嫌そうだが明らかに上ずっている雨流の声も、十兵衛にとっては心地よく響く。

が、これ以上長引かせても花月が辛いだけだとわかっている。だから、痛いほどの熱を孕んでいるものにも、そうっと唇を寄せた。

「はんっ・・・んんっ・・・・」

花月の喘ぎが、雨流の唇によって途切れる。

ふたりがかりで愛されて、びくびくと悦ぶ花月の体はたまらなく淫らだった。

「あ・・・ん・・・・・・」

十兵衛は蕾に焦点を移し、雨流は花月の唇を開放し、胸の小さな果実を、存分に摘み取っている。

花月、愛している。

今の自分には、それしか考えられない。

そして、雨流にも、恐らく。

じっくりと濡らした花月のそこに、自身の雄を押し込める。

「くんっ・・・・」

身悶える花月の体、伸ばされた手を雨流が取り、優しく握り返すのがわかった。

続いて激しく動かせば、いやらしい音と共に、白い体がびくびくと跳ねる。

花月の指がきつく強張り、それを雨流がやわやわと愛撫すると、その反応がそのまま、十兵衛を咥えた場所に返った。

「あっ、はぁん・・・・」

固く締まったそこを更に突き上げられ、甘やかに喘ぐ唇を雨流がなぞっている。

何をするつもりかわかった花月が、その指に舌を絡ませ、その先を誘った。

荒い息遣い、淫らな水音、触れ合う熱、連鎖する反応、伝わる快感。

二人の男に、一度に愛されて、その身を甘く蕩けさせる花月。

「じゅうべ・・・・としき・・・・っ」

蕩ける声で名を呼ばれ、湧き上がるものに己をゆだねる。

愛しいと、その想いだけがその場を支配していた。

疲れた花月は、十兵衛の腕の中ですやすやと眠っている。

しかし、時折かすかに動く指先と唇が、その眠りが深くはないことを物語っていた。

「・・・かないで・・・・・」

置いて、行かないで。

無自覚だからこそ漏れる、吐息だけの言葉に、十兵衛の胸はつまった。

花月の不安は知っている。

一度、世界の全てを喪ってから、彼はずっと、置いて行かれることが怖いのだ。

どんなに強くなろうとも、消してしまうことのできない根源的な恐怖。

それを、自分は癒してやることができないから。

花月を守って死ぬことは、何よりも確かな自分の未来だから。

だから、十兵衛はここに雨流の存在を認めているのだ。

自分と同じく、花月を命掛けて守ろうとする者。

花月を、何よりも愛している者。

「喧嘩はだめだよ、俊樹」

「す、すまない」

本気で喧嘩などしないさ。

お前が悲しむようなことは、もうしない。

できる限り、俺の力が及ぶ限りは、お前が悲しむようなことは・・・・

可愛い花月と、可愛い雨流。

俺は命の限り、花月を守り、命の限り、花月を悲しませぬよう生きる心づもりだが。

それでも、そのときには。

雨流、お前がいれば・・・

もちろん、自分の生きている限り、譲ってやるつもりなどないのだが。

それが、自分たちのかたち。

ただひとりの、幸せのための。

「それが、俺たちの生き方だろう？」

眠るふたりの寝顔にそう笑いかけ、十兵衛も眠る。

伝わる二人分のぬくもりが、幸せだった。