大好きな声が聞こえる。

「・・って・・・・・・・・」

「・・・あ・・・・・が」

その上､するすると髪を撫でられて､ふんわりとしあわせな気分で､花月は目を覚ました。

「としき・・・？」

少し痛むのどからこぼれた声を､俊樹の唇がすくい取って､もう一度､さらりと髪を撫でられた。

「のど痛いだろ､水飲むか？」

のども脚も他のところも痛いけれど､それは存分に愛された証だから､辛くはない。

それでものどは渇いていたので､うん、と頷くと､すぐに冷たい水が出てきて、少し悪いことをした、と思う。

ここでは、飲める水など酒よりも高価だ。

「俊樹、仕事は？」

もそもそと起き出して､受け取ったコップに口をつけながら言うと､人差し指の背で花月の頬をつつきながら、

「今日は休みだ」

と答えた。

俊樹はこういうささやかな接触が好きで､花月はそれを好ましく思う。

常に全力で注がれる十兵衛の愛情も嬉しいけれど､控えめに伝えられる好意も､くすぐったくて気持ちいい。

「筧とじゃんけんして勝ったんだ。二人とも行かないのはまずいからな」

指は､水を飲み込んで動いた喉をたどり､その下のくぼみで止まって､離れた。

「今は俺で我慢しろ」

「じゃんけんって・・・何やってるんだいキミタチ」

大の男がじゃんけんをする様を思い描き､くすくすと笑うと､俊樹がむくれて空になったコップを取り上げた。

「どっちが残るか真剣勝負だったんだ」

「うん、わかってる。・・・ありがとう、いてくれて」

「ああ」

俊樹の、赤くなった頬が可愛い。

そんなことを思っていると､額を軽く小突かれた。

「あんなにしたんだ､疲れただろ」

そのまま大きな手のひらに瞼から額を包まれる。

「おいてかないから､安心して寝ていろ」

「・・・・・・」

言葉を失った花月に、俊樹の声が下りてくる。

「花月？」

なんの意図もない、ただ不思議そうな声に、ふるふると首を振り。

「ううん、ありがとう」

再びもそもそとベットにもぐり込むと､枕もとにすわった俊樹が、また髪を撫でてくれた。

その手をつかまえると､小さく笑う声。

「筧も､できるだけ早く帰って来るそうだ」

「うん」

「マクベスも、余計な用事はいいつけまい」

「うん」

「・・・おやすみ」

「うん、おやすみ・・・」

涙の滲んだ瞳を閉じて､優しい夢へと降りていく。

この手を。

彼らの手を、放しさえしなければ。

幸せは､ここにある。

ここにあるのだ。

終