俺の、家族 １２
初デートは、とってもとっても楽しかった。
楽しかったし、アスランの知らないところを、また、たくさん知ることができた。
帰りは、手を繋いで帰った。
はじめ、遠慮気味に添えられていただけのアスランの手が、次第にちゃんと、シンの手を握ってくれるようになっていったのが、すごく嬉しかった。
手を繋いで帰って、一緒にご飯を作って、食べて。
いつものように居間で宿題を見てもらって。
「・・・残り、明日でいいデスか・・・・・」
早々にギブアップしたシンを、アスランは苦笑いしながら許してくれた。
「仕方ないな。・・・ああ、じゃあ先に風呂入れ。なんだかお前、汗臭いぞ」
「ひっでえ。そんなに臭いかな」
袖口を口に持っていって、くんくんと匂いを嗅ぐシンに、くすりと笑って。
アスランは、少し、ためらって。
それから。
「今日は、俺のところで寝るか？」
言った声は、さりげなさを装い過ぎて、なんだか上滑りして不自然だった。
シンは、その意味をたっぷり１０秒は反芻して。
それから、こくこくと頷いた。
「は・・・はい！寝ます！！」
ほっと笑ったアスランに、シンはそのまま思わず飛びついて。
それから、汗臭いと言われたことを思い出して、飛び下がってわたわたして宿題を片付けて。
「風呂！入って来ます！！」
そう宣言して、着替えを取りに階段を駆け上がっていった。
バタバタと階段を上がる音。
ドアが開く音はかすかだけれど、閉まる音は盛大に。
そのまま、転ぶんじゃないかと心配するほど大きな足音が駆け下りて。
廊下を通って、バスルームのドアの音で、遮られた。
それらを、心地良く聞きながら。
アスランはふと、不安を覚える。
ベッドでのことには、ある程度自信はあるのだけれど。
でも、それは手馴れた相手の時だけだ。
たぶん、シンは初めてのはずだ。
淫らな体に、呆れられたりしないだろうか。
こんなのは、イヤだと。
嫌われたりは、しないだろうか。
男同士のセックスだ。綺麗なことばかりではない。
自分もだいぶトウが立っている方だし、やっぱり、可愛い女の子の方がいいよなぁ・・・・・
そんなことをぐるぐると考えていると、バタンと居間のドアが開いた。
「アスランさん！！」
「・・・・とりあえず、頭を拭け」
髪からボタボタと滴を落としたシンに、思わず冷静に突っ込む。
カラスの行水だったのだろうが、シンが上がってくるまで考え込んでしまっていたようだ。
「え、あ、はい」
首に掛けていたタオルで、ごしごしと頭をこすって。
「あの、部屋で、待ってますから！」
言ってドアを閉めたシンの、真剣な顔を思い出して、アスランは呆然と呟いた。
「着替え、取りに行きにくいじゃないか」
アスランは、綺麗だ、と、シンは思う。
良く見ると、少しサイズの小さいパジャマの裾から見える足首。
白い首と、そこにかかる藍色の髪。
長い指が、シンを招いて。
しがみ付くと、緑の目が、控えめに笑んだ。
「いいのか？シン」
「あの、それ俺のセリフなんですけど」
シャワーを浴びてきたばかりだから、体温が高くなっていて、触れるととっても気持ちがいい。
薄いパジャマ越しだから、肌の弾力までわかる。
その中の、骨の感触まで、わかる。
これから、抱く、体。
大好きな、アスランの。
「あのな、俺が誘ったんだぞ」
「でもシたいって言ったの俺だし、その」
そこまで言って、シンは視線を落とした。
落としたら、なんかもうすっかりヤル気な自分が、パジャマを押し上げてしまっているのが目に入ってしまった。
「俺、初めてだから下手くそかも・・・」
なんか、もう暴発上等な感じがするー！
そんなシンの様子をどう思ったのか、アスランはくすりと笑ってするりとシンの背中に腕をまわした。
あったかい腕。
あったかい、手。
「初めてなんだから、下手も上手いもないだろう」
そう言うと、アスランは緑の瞳を柔らかく細めて。
「シンだから、いいんだ」
そうして、自然に顔を近づけて、ふっ、とその目を閉じた。
うっすらと開いた赤い唇。
キスは、何回かした。だからどうすればいいかなんて、シンだってわかる。
ねえ、それ、『お客さん』にもやった？
あまりにも魅力的な仕草に、ふとそう思ってしまった自分を恥じる。
そんなの、アスランのせいじゃないじゃないか。
唇を寄せると、今だに慣れない柔らかな感触。
鼻腔をくすぐる、湯上りの肌の香。
背中にまわったままだった腕に、きゅ、と力がこもる。
シンも、ぎゅっと抱き返す。
すると、触れた唇に、濡れた感触がして。
それが、アスランの舌だとわかったとたん、それがぬるりとシンの口腔に侵入ってきた。
触れるだけじゃない。
これ、オトナのキスだ。
アスランの舌は、まずシンの歯に触れて、それから唇の裏側を柔らかく舐めて。
初めて感じる快にたまらなくなり、シンは思わずそれに噛み付いてしまう。
とたん、アスランは喉の奥を、小さな呻きで鳴らした。
「んっ・・・」
ぞくん、と、シンの背筋を、凶暴な何かが駆け抜ける。
捕えた舌に、自分のそれを押し付けると、さっきよりももっと気持ちよかった。
アスランの舌は、甘くて美味しくて、だからそこに繋がる場所は、もっと美味しいんじゃないかと思って、柔らかな唇を割る。
無遠慮なシンを、アスランの口腔はやさしく迎え入れてくれた。
「ん・・・・っく、ふ、ぅ・・・・・ん」
くちゅくちゅと、直接頭に響く水音がする。
その意味を理解して、シンは我に帰って慌てて口を離した。
「んっ 」
「上手いじゃないか」
てらりと濡れた唇で、にこりと笑ったアスランは、シンを褒めてくれたけれど。
その表情に生唾を飲んでいたシンは、喜ぶどころではなかった。
やばい。
やばいよこの人、色っぽ過ぎ！
「え、えっと、あの！」
「・・・ああ」
真っ白になってしまった頭をなんとかしようと出した声は裏返っていて、しかもアスランはそれをどう取ったのか、ふわりと笑ってシンのパジャマに手をかけた。
ボタンをふたつ、開けられたところで、シンも慌ててアスランのパジャマに手をかける。
手を動かしていくごとに、白い胸があらわになって。
下まで開けきってしまうと、シンは赤く色づいている場所に、思わず吸い付いてしまった。
舌に感じるわずかな凹凸。
鼻腔いっぱいに、アスランの匂いが充満して。
「・・・っ、ん」
アスランの指が、シンの背中に縋る。
その感触に興奮を煽られて、シンはそのままアスランの胸を体ごとで押して、シーツの上へと押し倒した。
どうしたらいいかなんて、わからない。
わからない、けど。
普段見えない胸や腹を、手のひらでたどるのは病みつきになりそうな気持ちよさだった。
細く見えた腕には、意外にちゃんと筋肉が付いていて、筋の上をたどると、ひくひく動くのが楽しかった。
時々、触れるのをやめて顔を上げると、アスランはちょっと笑ってシン引き寄せてくれる。
そのたびにキスをしては、シンはアスランの体に没頭した。
「・・・シン、シン」
でも、わき腹の柔らかいところを舐めるのに夢中になったところで、アスランに呼ばれて。
どうしたの？と顔を上げると、アスランはゆっくりと体を起こして。
「・・・ごめん。我慢、できない」
そう呟いて、シンのズボンに手をかけた。
「え、あ、うゎ・・・・！」
アスランの手によって暴かれたシンのものは、もうすっかりがちがちになってしまっていて。
やばい、呆れられるかも。とちょっと焦ったとたん、にこりと笑ったアスランは、それの上に顔を伏せた。
「わ、うゎ、って、えええ！」
ぬる、と、あたたかく濡れたものに包まれる感覚。
それだけでももの凄く気持ちいいのに、それは柔らかくシンのものに絡み付いて、しかも一番敏感な先端を、ぬるりと強く擦られて。
・・・これって、舌？
そう思ったとたん、少年は我慢も忘れてイってしまっていた。