口直し １
欲求不満、だった。
することは散々し倒した後だったが、それでも兵部は激しく欲求不満だった。
結局、散々搾り取ってやったのだが、それでも思い出すのは、あの、哀れむような皆本の目。
足は、自然と街へ向く。
もう日付が変わってだいぶ経つけれど、繁華街をうろうろすれば、適当な相手が見つかるだろう。
テレパシーを使うまでもない。獲物は目つきと匂いでわかる。
ちょっとでも目が合えば、もう確実だ。
男が好きな奴よりも、男女どっちでもいいくらいのが、楽しいんだよな。
いつもは多少物色するものだけれど、今日はもう、初めに目が合った奴に、決めた。
ちょうど、皆本くらいの年齢の、いかにも物色してます的な二人連れ。
声をかけてくるのを待ってもいいけれど、今日は焦れているから。
兵部は、こんな時間でも多い人をするりと避けて、そいつらの前でにこりと笑う。
「ねえ、遊ばない？」
「・・・いくらだよ」
おや。
あんまりストレートだったから、警戒されてしまったか。
「べつに金なんかいらないけど・・・そうだな。満足したら、その分だけくれりゃいいよ」
自分の体に値段をつけられるのは嫌いではない。
「さっきの相手がつまんなくってさ、口直ししたいんだよね」
そこまであけすけに言い切れば、かえって安心したのだろう。
「いいぜ」
二人のうち、上位と思われる方の男に、するりと顎から頬を撫でられた。
予想以上に滑らかな感触に、触れた指がわななく様を愉快に思い、その手を取って、上目遣いに見上げながら、その先をぺろりと嘗めて。
もう一人の方にも、ちらりと流し目を送ってやる。
大サービスだ。
そうすれば、嘗めた指で乱暴に首根っこを掴まれて。
もう片方の男に肩を押され、夜の街を歩き出す。
そう、夜ってのは、最低でもこのくらいには楽しくなくちゃ。
公園、というには狭くて小汚い場所に連れ込まれ、スプレーアートが重ねられて意味不明になった、トイレの外壁に押し付けられる。
ざらざらとした壁材に両手を付いて、されるがままに腰を突き出す。
学ランのズボンを引き下ろされて、濡れた下肢がひやりと冷える感触に、ふるりと腰を震わせる。
「何だ、使った後かよ」
そこは、皆本の精液で汚れたままだった。
ふらついているうちに零れてきたそれが内股を伝って、ズボンの黒い生地の内側も、白く汚していた。
「だから、口直しだって言ってんじゃん」
頭悪いなー、と、思ったけれど言わないでおく。
言って怒らせても面白そうだが、うっかり焦らされでもしたら、それこそうっかり殺してしまいそうだ。
とにかく今は、早く、欲しい。
「そうだっけか」
そう呟いた男にとって、それはどうでもいいことだったのだろう。
「まあ、じゃあ慣らさなくっていいよな」
そう都合よく解釈して、学ランの裾で半ば隠れた尻を抱え込まれる。
かちゃかちゃとベルトを外す音、ジッパーを下げる音。
見えない場所でなされる音が、兵部の性感を煽り、より腰を突き出せば、そこにぬとりと熱いものが当たった。
ここに来るまでに、腕を絡めたり体を擦り寄せてやったりしていたせいだろう、快感への期待だけで膨れていたらしいものは、そのまま兵部の汚れたそこを貫いて。
「っあ・・・っ」
正直、そんなに大きい訳でも巧い訳でもないのだが、閉じ始めていたところを、無理矢理押し拓かれる感覚が気持ちいい。
そのまま乱暴に抜き差しされればなおさらだ。
「どーよ、口直し」
どうやら今度は覚えていたらしい。揶揄の言葉に笑って答える。
「んぁ・・・おい、し・・っ」
「へへっ」
下卑た男の笑いさえ気持ちよくて、兵部は腰を揺すって更に深くへ男を誘った。
そう、こういう快感が欲しかったのだ。
ただ、純粋で身勝手な欲望に食い荒らされ、貪られる快感でいっぱいになりたい。
自分の中に出すことに夢中になっている、哀れな雄を愉しみたい。
兵部の欲望は、単純で明快だ。
それすら与えられない、あの男がつまらないだけなのだ。
「あんっ、あ・・・っ」
欲望を叩きつけるような動きに喘いでいると、もう一人、下位と思われる男が、兵部の頭の上で言う声が聞こえた。
「なあ、クチでやらせてぇ。そいつのカオ好みなんだよ」
いい好みしてんなぁと思って笑い、壁から顔を上げて見上げてやる。
こういう時の自分が、どう見えるかなんて、よくよく知った上でのことだ。
「んっ・・・して、やろっか？」
案の定、一瞬惚けた男の顔に、今以上にギラついたものが宿り、がっ、と髪を掴まれた。
その様子を嗤いながら、額の傷をヒュプノで隠す。
こんな奴らに見せてやるにはもったいないし、それに、これで萎えられたらつまらない。
しかし、兵部の中に突っ込んでいた方の男が、その腕を叩き落としてしまった。
「あぁ？こっちが終わったらな」
強く髪を引かれるかたちになって、痛いは痛いのだが、それより弾みで角度が変わった方が気持ちよかった。
それに、あん、と喘いでから。
「いっ・・・しょ、でも、いいじゃん」
せっかく二人いるんだから、咥えながら犯されたい。
そう抗議してみるも、不満を表すように強く腰を叩きつけられて、さっきよりもきつく、ぎゅうと髪を掴まれた。
「集中されねーのキライなんだよ」
その言いように、兵部は思わず笑ってしまった。
「はっ、は・・・ガキ・・・いんっ！」
それに腹を立てたのだろう、そのまま頭を壁に押し付けられて、容赦なく腰を揺すられる。
「あっ、あ・・・あ、いいっ・・・・」
狭い場所を、無茶苦茶にされる感覚がたまらない。
「こ、の・・・っ」
それでも悦がる兵部の様子に、煽られた男が奥深くを抉りながら果てる。
年齢は皆本と同じくらいだが、言っていることも行動も、比べ物にならないほど幼稚だ。
しかし、気に入ったおもちゃを独り占めしたい心理は、兵部にだってよくわかる。
だから。
「次は・・・クチ、だっけ？」
その場に崩れ落ちながら、指を口元に当てて、もう一人を見上げながら笑う。
とたん、今まで突っ込んでいた男に、また頭を掴まれた。
ああやっぱりと嗤いつつ、口を開けてねじ込まれたものをくわえ込む。
だいたい順番は逆だけれど、突っ込まれてから咥えさせられるのも兵部は好きだ。
どこまでも貶められる感覚にくらくらする。
出したばかりのそれは、しかしすぐに大きさを取り戻し、兵部の細い喉を塞いだ。
「お前、後ろいいぜ」
ぐい、と上体を引かれて膝を付く。
ズボンが膝上で引っかかっているのが少し惜しい。
それでも両手を地面に付けば、ざらりとした土と小石の感触に、屋外で犯されている興奮は高まった。
「・・・うす」
背後で不満げな声がして、それでも剥き出しにされた場所を掴まれ、そのままずるりと押し入られた
あ・・・さっきよりでかい。
んんっ、と喉を鳴らして狭いそこを押し広げられる感覚を悦びながら、その喉で押し込まれたものを締め付ける。
でも、もうちょっと・・・乱暴な方が好みかな。
そう思いながらも腰を振り、口は咥え方を浅くして、先端から滲み出ているものを、ちゅうと吸った。
その様子に気を良くしたのだろう。
「んだよ、俺の後にクチもやらせてやっから」
奉仕する兵部の髪を梳きながら、男が優しげな声を出す。
あ、結構下のもん思いじゃん。
少しだけ感心した兵部の後ろからは、もう発情し切った男の荒い息しか聞こえて来ない。
あー、やべ、きもちいー
地べたにうずくまって、上も下も、男の欲望で塞がれて。
それだけでもう、頭の中が白く霞んでくる。
「おい」
そんな中、ぺたぺたと、冷たいもので頬を叩かれて、飛びかけた意識を引き戻される。
何だよイきそうだったのに、と口を塞ぐ男を見上げると、頬を叩いたスマホの画面を操作して、そいつはニヤニヤ笑いながら誰かと話し始めた。
「おう、そこ何人いる？３人？丁度いいな。面白いもん拾ったんだ。来いよ」
３人、のところを声を大きくした男の意図を察して、兵部はくわえたままだった口を笑みに歪めた。
合わせて５人。うん、そいつはイイね。
「え？ほれ、こんなん」
言ってから、ずるりと兵部の口からそれを抜き出し、携帯を唾液の滴る口元に持ってくるから。
「あ・・・あ・・・いや・・・っ」
殊更大きく喘いでみせると、男の顔が喜色に歪んだ。
小さなスピーカー越しに、何やら騒ぐ声がする。
その響きすら気持ちよくて、またひとつ、喘いだ唇に、また唾液にまみれたものを押し込まれた。
「ぅん・・・っ」
その声までを聞かせてから、男は携帯を戻して現在位置を伝えて切った。
それから兵部の頭をぐっと掴み、好きなように犯し始めた。
喉を突かれる苦しさと、そのせいで締め付けてしまう後ろに叩きつけられる激しさに、遠のいていた絶頂がすぐ目の前に戻ってくる。
皆本のところで何度かイった後だから、前はもう無理かと思ったが、案外そうでもないらしい。
そう思って片手を自分のものに絡めると、手に付いた土のざらりとした感触と、前から聞こえる嘲笑と、後ろから聞こえる荒い息と。もう随分と濡らされた中に、更に放たれる感触と、喉の奥の、一番苦しいところに溢れる青臭さ。
そんなものを感じながらイくのは、とてもとても気持ちよくて。
出したものは、もう随分と薄くて、それをまた笑われる。
咳込んでしまった口を手で塞がれて、口いっぱいの精液の味に舌を蕩けさせながら残ったものを飲み込むと、猫の子のように首根っこを掴まれて、くるりと体を返された。
今まで後ろを犯していた男の前に座らせられて、男の意図を悟る。
「おう、他の来ちまう前に、クチやっとけ」
「はいっ」
あー、ホントにいい兄貴だなおい。
けらけらと笑いながら、兵部はあーんと口を開けた。
好みだっていうのなら、すっげえイイ顔見せてやろう。
思ったところで後ろに指を突っ込まれ、意図せずに『イイ顔』になった兵部の口に、たまらない、といった様子でそれが押し込まれる。
中から溢れるものを揶揄されながら後ろを弄ばれ、口腔を好きに犯されながら、他の男を待つのはとても楽しくて。
そうして現れた男の仲間は、最初に言っていたより数が多くて、兵部を更に喜ばせた。
そのまま順に犯されて、幾度もイってどろどろになる。
さすがにもう後ろしかイけないけれど、そうなってからの方が深い快感を味わえるようで、兵部はそれをとても気に入っていた。
まるで女のように後ろでイき続け、次々と男を貪る兵部に、男たちも色めき立った。
このまま溜まり場に連れて行って飼おうぜとか、そんな声が聞こえてくすくす笑う。
まあ、２、３日なら、予定もないし付き合ってやってもいいかな。
ああでも・・・無理か。
そう思いながら、もう幾度目かわからない絶頂を味わったところで。
「もうそのくらいにしませんか」
兵部がイくまで待っていたのだろう。
不機嫌全開な真木の声に、兵部は口の中のものを吹き出して、大笑いしてしまった。