体に、熱が宿っていた。

以前であったなら、迷わず永泉のもとを訪れていただろうが、今は、少し迷う。

他の誰かに抱かれる永泉。

それを思うと、熱は上がるのに行く気は萎える。

永泉の、柔らかい肌、甘い匂い、赤い唇。

思い出せば、また、熱が上がる。

終いには、仕事に集中できなくなっている自分に気付く。

柔らかい肌、甘い匂い。・・・赤い、唇。

それを求め、泰明は御室へと向かった。

「永泉？」

「あ、泰明殿・・・」

これから休むところだったらしい永泉は、小袖一枚で泰明を迎えた。

艶めいた疲れを残す表情、少し下肢を引きずるような動き。

泰明の熱を受け入れた翌日に見られていたそれらが、今は他の誰かの存在を示し、泰明は来たことを後悔する。

また、あのように扱ってしまうかもしれない。そう思うのに、衿の合わせや白い手から、目が離れない。

「泰明殿・・・・」

ふわりと抱きつかれれば、香る黒方にくらくらした。思わず抱きとめて、くちづけてしまう。

「ん・・・ふ・・・・」

自分だけの唇。それは自分だけの永泉。

そう思うと、胸が痛む。・・・・何故か、心地良い痛み。

ようよう離れた頃には、永泉の腰は砕けきっていた。座り込む彼の上にのしかかると、細い体はすっかりほどけて、すべてが泰明に開かれている。

今思えば、それは、『慣れている』ということだ。

他の誰かの下で、こうして、開かれる永泉。

泰明は首を振ってその想像を追い払った。

「泰明殿・・・？」

伸ばされた手を取り、指先にくちづけてから床に縫いとめ、小袖の帯を解いて肌をあらわにする。暗い永泉の部屋では、他の男の跡は見えない。そのことに安堵した。

「泰明殿、あの、その・・・・」

「・・・・」

柔らかい腹部を撫でながら、泰明は行為に没頭しようとした。言葉など、どうでもいい。この体が今自分の手の内にある。それだけで、いい。

「あの、私、他の方と、その・・・っあ、もう、しないように・・・ええと・・・んっ、お願い、しているのです。その、今度、お会いするまでには・・・・」

声がするたびに、薄い皮膚が緩やかに波打つ。そこに手のひらを置いたまま、泰明は永泉の濡れた瞳を覗き込んだ。

何かを言いたいのに、なんと言っていいかわからない。胸に何か、重いものを詰め込まれたようで、気管が塞がれて余計に言葉が出ない。

「・・・そうか」

ただ、それだけを絞り出したが、今度はどうしていいかわからなくなってとりあえずくちづけた。柔らかく応える舌に、満ちてくる何か。

熱い吐息を残して唇が離れたとき、ようやく言うべきことを見つけて泰明は永泉の耳元に唇を寄せた。

大きな声で言うことに、何故か抵抗があったから。

「ありがとう・・・・」