暗い森　３

玲二には、詳細を語る気はさらさらなかったというのに、足りない言葉でも、英治はほぼ完全に、何があったかを把握してしまった。
頭がいい友人は、有難くて、それから、やはり厄介だ。
「警察に行こう、玲二」
「警察であったことなのに？」
「でも！僕が・・・」
「いいんだ」
これは、自分の力不足が招いた結果だと、玲二は言った。
それに。
「写真や、動画も撮られた」
学校ならかまわないが、姉さんに見られると、少し困る、と。
そう、力なく笑った玲二に、英治は食ってかかる。
「でも！だからって！」
「泣き寝入りするつもりはないさ。相手の顔は覚えてるんだ。今度会ったら必ずやる」
熱っぽく潤んでいた玲二の瞳が、その一瞬だけ、獰猛な光を宿して輝いた。
「もともと、警察なんかあてにしていたら、こんなことはしていない」
「玲二・・・」
それでもまだ、納得のいかなそうな顔の英治に、玲二は。
「でも、薬が効きっぱなしなのには参ったな。確かに、少しは治まっているんだけど・・・」
わざと明るくそう言って、熱く湿ったため息をつく。
英治が目の前にいなければ、恐らく自分はこの疼きをなんとかしようと、自分の体を滅茶苦茶にしてしまっていただろう。
彼がいてくれて良かった、と、そう、思ったときだった。

「慰めて・・・やろうか？」

英治が。
そんなことを言うと、玲二は思わなかった。
だから、その言葉を笑い飛ばそうとした。
できれば、全部、笑い事にしてしまいたかった。
しかし、英治の瞳は真剣で。
玲二の唇は、笑いの形を作ることができなかった。
「・・・いい、のか？」
漏れた声は、期待にかすれて。
どうしようもなくみっともなかった。
それなのに、英治は。
「言っただろ」
まだ、少し心配そうな。
それでも、玲二を安心させる笑顔で。
「僕は、お前の味方だよ」
その言葉に。
玲二は、落ちた。


ベッドの上で、脱がされかけたシャツを自分で脱ぐと、目ざとく傷を見つけた英治が右手を取った。
「酷いな」
「いや、これは自分で殴ったやつだから」
肘の少し下、潰れたパイプの先がかすった擦過傷よりも、相手の体や保護室の壁を殴った拳の方が酷かった。
青黒く腫れた拳の上の、まだ固まりきっていない体液と、もう塞がりかけた腕の傷。
それを、英治は丁寧に舐めた。
「・・・・やめろ」
「消毒の代わりだよ。他には？」
「ない」
もしかしたらあるのかも知れないが、玲二には知覚することができない。
それよりも、もっと敏感になった触覚が、英治の舌の感覚を、過剰に拾って。
「もう、ほんとに・・・」
辛そうな玲二の様子に、英治はちいさくごめんと謝った。
玲二はふるふると首を振る。
伸びてきていた髪の先が首筋を擦って、そのまま息を詰める。
そんな刺激でさえ、感じてしまうのだ。
「下も、いいな？」
聞かれても、頷くことしかできなかった。
自分でベルトを外そうと指を掛けるが、震えたそれは役に立たず、察した英治に手伝われて、触れ合った指にさえ、感じる。
「っ・・・・」
その上、触っているのは一番感じやすい場所の上。
「イった方がいいよな」
「・・・ん」
それはもうはち切れそうになっていて、下着の上から触られただけで、玲二は堪えるために歯を食いしばらなければならなかった。
下着を引きずり下ろしながら、英治の指がそれに触れる。
玲二がまた、息を詰める。
その、紅潮した頬を、英治がまた、撫でた。
「我慢するなって」
「・・・・・・・ぁ・・・・・・・っ」
性器に直接触れた指よりも。
やさしく頬に触れた指の方に、感じた。
英治は吐き出された体液を、何も言わずにティッシュで拭うと、更に一枚それを引き出して、玲二の眼鏡を外した。
「泣かないでくれよ。なんだか、続きがやり辛い」
紅くなった頬に、薄い紙切れを押し付ける。
「泣いてる、わけじゃ、ない」
玲二は強がりながら、涙の水分で張り付いたそれを頬から引き剥がした。
涙の跡が、しっかりと薄い紙に移し込まれていて、恥ずかしくなってそれをくしゃくしゃに丸める。
「なら、いいか？」
「ああ」
頷くと、やさしい力で肩を掴まれ、うつ伏せに体を倒された。
この格好は、嫌だ。
英治がやりやすいようにと膝を立てながら、玲二はそう思ったけれど。
背中に落ちてきた指先に、その思いは吹き飛んだ。
「やっぱり、背中も怪我してるじゃないか」
「たいしたこと、ない」
そろりと背筋を撫でる指。
確かめるように止まった場所に、熱く濡れた感覚。
見えないけれど。
あることさえ知らなかった傷が、癒されようとしているのはよくわかった。

英治は、やさしい。
彼に、こんなことをさせている罪悪感。
それから。
嫌悪のない行為の醸す、純粋な快感に、涙がこぼれて止まらない。

「あ・・・・っふ」
上がった声を、シーツを噛んで堪えようとする。
そうするとまた、頬に触れられる。
触れられると、力が抜ける。
泣きたく、なる。
「は・・・・ぁ・・・・・」
背を伝っていた指が、もっと下に降りていって。
昨夜、散々辱められた場所に触れた。
びく、と、玲二の背がひきつる。
しかしその手はするりと内腿を滑って降りて。
離れて。
また、玲二の頬に触れた。
「大丈夫だ、玲二」
ぼろりと落ちた涙を拭われる。
「僕だ。だから、怖くない」
やわらかい声音で、そう言われて。
あのとき、自分は、とても怖かったのだと。
言われて、初めて、気がついた。
「・・・・ああ」
やっとそれだけを答えると、英治は打って変わって困ったような声を上げた。
「何かで・・・濡らした方がいいのかな」
「大丈夫、だ」
どのみち、玲二は痛みを感じない。
「それより、早く」
言ってから。
自分が何を言ってしまったのか気がついて、玲二は額を枕にすり付けた。
そんな。
こんな。
恥ずかしい。
強請るような、ことを。
「・・・うん」
しかし、英治はただ頷いて。
先ほど触れた入り口に、また触れた。
おっかなびっくりと触れた指が一度離れ、それから、何か濡れたものが。
「・・・っ、英治、やめろ！」
舐められているのだと気がついて、玲二は慌てて体を起こした。
振り向いて見た英治の顔は、ごくごく普通にきょとんとしていていた。
「だって、ここも傷になってるぞ、玲二」
「だからって、そんなとこ舐めるな！」
汚いだろうとわめく玲二の背を、なだめるように桐山は撫でた。
「わかったよ。わかったから」
「わかっ・・・・、ぁ」
言い募ろうとした言葉は、そこに指を差し込まれることで中断させられた。
未だ閉じきっていないのか、英治の指は肉を割り、すんなりと玲二の中に収まった。
「ぁ・・・ぁ・・・ん」
「腫れてるみたいだけど、大丈夫か？玲二」
「だ・・・から。大丈夫、だから」
今更ながら、親友にそんな場所を曝して弄られているという現実を、玲二は身を堅くして堪える。
しかし。
「わかった、よ」
「ぅ、あ」
加減を知らない英治の指が、敏感になりきったところをずるりと擦って抜けていき、その刺激にまた、力が抜けた。
そうして。
後ろで、かちゃかちゃとベルトを外す音。
腰を抱き支える手。
確かめるように、もう一度、英治の指が、そこに触れて。
期待と羞恥と、それからなんだかわからないものに耐えきれず、玲二がシーツに頬をすり付けたところを見計らうように。
「ふ、あ・・・・っ」
入ってきた英治を、玲二の体は何の抵抗もなく受け入れた。
それどころか。
「れい、じ。これ、やばい」
まるで歓喜するように英治を締め付け、蠢き、もっともっとと、勝手に腰が動いて。
堪え切れなくなった英治が、自分のものを激しく襞に擦りつけ出したものだから、たまらない。
「あ、あ・・・ああっ」
たちまち、奥に濡れた感触。
それから、自分の下腹にも。
「・・・・ごめん」
かすれた英治の声に、玲二はただ、首を振った。
それから、その姿勢のまま英治を見上げると、中に入ったままの彼が、ずくんとまた、大きくなったのが、わかった。
「そんな目で、見るなよ、玲二」
「そんな、目、って」
整わない息でやっと返すと、英治は「なんでもない」と小さく返し。
それからまた、玲二の背中を、撫でた。
「・・・っふ」
「今度は、ちゃんとするから」
こくこくと頷くと、ずるりと中を擦られる。
その快感を耐えながら、玲二はこの行為を、かけらも嫌悪していない自分を不思議に思った。
不思議に思って、それから、まったく不思議ではないことに、気がついた。
「・・・玲二」
背中を這っていた手が、また、玲二の頬を包む。
「ごめん、キスしたい・・・」
その言葉に応え、首をよじり。
英治と、目が合って。
ずる、と、いっぱいに押し込まれていたものが抜き出されて。
体を返したのは無意識だった。
圧し掛かってきた英治の首にすがりついたのも。
キスの瞬間、目を閉じたのも。

初めてのキスは、とてもとても気持ちよくて。
すがった背中も、触れてくる指も、もちろん、中の疼きをを慰めてくれるものも。
英治の体は、ただただ、気持ちが良くて。
玲二の、心と体を、慰めて、くれた。



自分の親友が、とてもきれいな体をしていることを、桐山英治は知っていた。
それでも。
今日の玲二は、いつもよりも、ずっとずっと、きれいに見えた。
「ありがとう、英治」
日の光の中、立てた膝に頬を乗せて。
腕だけを伸ばし、転がっていた眼鏡を拾う、指先。
「お前がいてくれるから、俺は・・・」
そう言った玲二の、きれいな笑顔。
あんなに苛んだというのに、滑らかな動きで床に脚をつき、するりとまっすぐに立ち上がる肢体。
「俺は、戦えるんだ」
そのうつくしさに。
言葉のつよさに、英治は打ちのめされた。

いろいろな方法を試した。
高校生や大人に襲わせても、玲二は簡単に返り討ちにしてしまう。
これ以上エスカレートさせると、殺してしまう危険があった。
なら、違う方法で暴行させてみたというのに。
英治にすがりついて、英治の与える快楽に喘ぎ泣く玲二は、とても可愛らしかったのに。
とてもとても、英治に従順で、やっと、自分だけの玲二を取り戻せたと思ったのに。
この方法も、ダメなのか。

そう。
昨夜の男や薬を手配したのも。
百合子の事故を起こさせたのも、すべて、英治だったのだ。
すべては、玲二を手に入れるため。
玲二のため、なのに。
「・・・当たり前だろ」
なら、どうすればいいんだろう。
どうすれば、玲二は僕だけのものになる？
「俺はお前の味方だって」


英治が、玲二の体の特異性を知ったのは。
この、少しだけ後のことだった。

リク詳細
リク２：リアル少年森次さんつか桐山お坊ちゃま
リク１の翌朝、お姉さんと一緒に森次さんを迎えに来る桐山お坊ちゃま。
事情（仕事？）があってその日は傍にいられないお姉さんは後ろ髪を引かれながらも森次さんを桐山
お坊ちゃまに任せて出掛けていき、残った桐山お坊ちゃまは森次さんを“慰め”るのです…が…。
実はお姉さんを足止めした（若しくは来られない日を狙った）り男達を手配してリク１の状況を作っ
たのは全て桐山お坊ちゃまの差し金であったと！

ものがたりらいんばれるへ戻る　　　２へ