子わんこシン、縁日へ行く １
シンは、子わんこです。
ザフトでお仕事してる子わんこです。
でも、今日はお休みです。
お休みなシンは、お休みなご主人様と、お休みな旦那様と。
お休みなレイと、レイのご主人様と、その奥様と。
みんなで温泉で、お休みなのですｖ
「近くの神社で縁日があるんだそうだ。行かないか？」
子わんこ、お庭セミ獲りをしてたらね、レイのご主人様が言いました。
「あら、いいわね」
マリューさんも言いました。
「エンニチって、何？」
子わんこが首を傾げると、縁側でレイと【将棋】をしていた旦那様が、偉そうに言いました。
「縁日とはな、主に東アジア共和国からオーブ首長国付近にかけての言葉で、信仰の対象になるカミやホトケ等に縁のある日に参拝すると、普段以上の利益があると・・・・」
「要は、お祭りよ」
でも、マリューさんに一刀両断にされてしまいました。
「お祭り！」
シンは、お祭り大好きです。
人がいっぱいいてね。
ちいさいお店がいっぱいあってね。
シンの大好きな、アイス屋さんのワゴンも来てね。
音楽が鳴って、花火が上がって、なんだかとってもドキドキするの。
「お祭り、行こー！」
シンは、縁側にいる旦那様のところに駆けて行きました。
でもあれ？
旦那様、なんだか渋い顔をしています。
「やめておけ」
「なんでー！？」
旦那様のイジワルーー！
旦那様は、よくシンにイジワルするんだけどさ。
お祭り行っちゃダメなんて、ヒドイよ！
「迷子になるのがオチだろう」
「なんないよ！ちゃんとアスランさんに抱っこしてもらうもん！」
お祭りって人がいっぱいで、踏まれそいになっちゃうから、シン、堂々とご主人様に抱っこしてもらえるんだもんね！
「そのアスランごと迷子になるだろうが！」
「なんないもんーーー！」
じたじたと、シンが短い手足をばたつかせて癇癪を起こしていると、お部屋の奥でお昼寝をしていたご主人様が、のたのたと起きて来て言いました。
「なるんだよ。だから我慢しろ、な？」
そうして、シンを抱っこしてくれました。
「えーー！」
なんかヘンーー！
こういう時、ご主人様はいつも、シンと一緒に「なんないもんな！」って言ってくれるのに！
「あー、そうか。すまん」
そうしたら、お庭からムウさんが上がってきて、レイの頭を撫でながら言いました。
「なら、俺たちと行こうか、チビ」
「チビじゃないもん！」
じたじたが止まったシンに、ムウさんは笑ってもう一回言いました。
「じゃあ、俺たちと行こうか、シン。それなら大丈夫だろう？国防総監殿」
「・・・・・」
旦那様、思案顔。
「ああ、お願いできますか？良かったな、シン」
「わーい！」
なのにご主人様は、あっさり喜んじゃって。
「いやしかし貴様、小僧も・・・」
「小僧じゃないもん！」
「大丈夫だろ、こいつなら。俺たちと違って、顔も知られてないし」
「大丈夫だもん」
なんだかわかんないけど、とにかく、お祭りに行きたいシンは、精一杯主張します。
「・・・・・」
じとぉーーーっとした目でシンを見ていた旦那様は、ひとつ、ため息をついてムウさんの方に向き直りました。
「頼んでいいか？」
「当然だろ」
「やったーー！」
シン、お祭り行き決定ですｖ
【縁日】はね、浴衣で行くものなんだってマリューさんが言いました。
でも、シンは浴衣が着られないんで甚平さんです。
人がいっぱいのところで、キンタローはダメだってさ。ちぇ。
子わんこの甚平さんのポケットには、ご主人様がハンカチとティッシュと、それからカードを入れてくれました。
そっか。カード忘れちゃったら、アイスが買えないもんね！
「・・・・待て」
でも、また旦那様に止められちゃいました。
「夜店でカードなぞ使えるのか？」
「使える店もあるんじゃないか？」
「いや」
旦那様、ムウさんをさえぎって、子わんこと目を合わせました。
「使えん」
旦那様、オトナの嘘をつきました。
だって、シンにカードを持たせて夜店なんか行かせたら、一晩で、もっとおでぶになるのは目に見えているからです。
「えー！カードないと、お買い物できないよう！」
だってシン、お買い物は、カードを見せてするものだと思ってます。
「だから、カードじゃ出来んと言ってるんだ」
旦那様はそう言うと、ポケットの物入れから、紙を一枚取り出しました。
「1,000アードやる。買い物はこれでしろ」
シンがもらったのは、知らないおじさんの顔が描いてある紙きれでした。
「これ何？」
「1,000アード札だ！・・・・アスラン！コイツにそんなことも教えとらんのか！」
「なんで全部俺のせいなんだよ」
「貴様のせいだからだ！」
なんだか、今度は旦那様が癇癪―！
「・・・・シン」
浴衣に着替えたレイが、後ろからそっとシンの肩を叩きました。
「カードは、この札の代わりなんだ」
「えーーー！」
シン、更にびっくりー！
「これ一枚で・・・そうだな。板チョコで十枚ほどと交換できるはずだ」
「そんなにチョコ食べたら怒られちゃうよ！」
「例えだ、例え。ハー○ンダッツなら約４個だな」
ご主人様が時々買ってくる、安いアイスなら十個くらいだけど。
「このおじさん凄いー！」
「いや・・・」
別に、そのおじさんが凄い訳では。
「まあな。近代シャトル設計者の肖像だからな」
呟いた旦那様は、もう一回シンをじっと見て言いました。
「これ一枚で用を足せ。なくなったら、もう買えんからな」
「なくなるの？」
「なくなる」
「なくなんないのがいいー！」
「金は使えばなくなるんだ！・・・・アスラン！」
「だから何で俺！？」
「ごめんなさい、私もアスラン君が悪いんだと思うわ」
「そうだな」
「そうです」
「え・・・ええっ」
何故だか皆に責められちゃったご主人様は、わけわかんなくて大弱り。
それを横目に、そうだそうだと頷いた旦那様は、「ついでだ」と言って、シンのポケットに茶色の硬貨を放り込みました。
「賽銭は別にやる」
「茶色のオセロだ！」
「違う！コインだ！アスラン！！」
「だから、なんで俺の・・・」
「来い！・・・・・じゃあ、頼んだ」
「はいよ」
ご主人様を引きずってっちゃった旦那様を見送ってから、ムウさんとマリューさんとシンとレイは、【縁日】に向かいました。
「わー！」
【縁日】は凄いんです。人がいっぱいで、お店がいっぱいで、いい匂いがいっぱいです。
大きい【鳥居】をくぐったシンは、てこてこと一番端っこにあったお店に駆け寄りました。
「それ何ー？あ、フリーダム！」
お店では、おじさんが大きな音のする機械に棒を突っ込んで、白いふわふわを作っています。
白いふわふわは、甘くっていい匂いなのに、おじさん、それをフリーダムの絵が描いてある袋に入れちゃった！
「綿菓子だ。ひとつどうだい？」
「フリーダムやだー！」
シンは、フリーダム超キライです。
「じゃあ、アカツキはどうだ」
「うー」
うなったシンに、ムウさんは苦笑い。
「ムラサメとジャスティスもあるぞ？」
「ジャスティスがいい！アス・・・」
『アスランさんのー！』って言おうとしたシンのお口を、レイがばふんとふさぎます。
なんで、二人が縁日に来なかったのか。子わんこ、まったくわかってません。
わからせてあげない二人が、過保護なだけなんですけどね。
「お、通だな、小僧・・・はいよ、400アードだ」
えっと、えっと。
シンは、ちょっと考えて、旦那様にもらった紙切れを出しました。
カードがこれの代わりで、これがカードの代わりで、いいんだよね？
「ほい、おつり。いっぺんに食べて腹壊すなよ」
「うんっ！」
ジャスティスの袋は、シンの背丈くらいありました。
その中いっぱいに、白くて甘いにおいのふわふわが入っています！
それにね。
「ねえねえ、６つになったよ！」
おじさんの絵一枚が、銀色のオセロ６つになった！
ちょっと重くて、ちゃらちゃら音がして、なんだかすっごくいい気分！
「えーと・・・レイ、こいつは引き算できるのか？」
困っちゃった自分のご主人様を見上げ、レイは自分がもらった1,000アード札を取り出しました。
「１０までなら、たぶん暗算でも。・・・・シン、これは銀貨１０枚分だ」
「へー」
「そうして、それが銀貨４枚分だ」
シンの抱えた綿菓子の袋を指差します。
「残りはいくつだ？」
「６！あ、そっか！！」
「残り６枚分しか買えないからな。・・・・たまに５０と書いてあるやつがある。それは俺に相談しろ」
「うん！わかったよ！」
まあ、夜店の単位はたいてい100アードですから。
レイのレクチャーは、簡潔で正しいものでした。
レイは、意外と短気な隊長や、シンに甘い元隊長の代わりにシンのお勉強を見てあげていますからね。
でも、ムウさんとマリューさんは、大丈夫かなー、って顔をしています。
だからね。
「そうだ、シン」
ムウさんは、シンを抱っこしました。
高い高いｖ
「なにー？」
ご主人様の袋に入った、甘い甘い綿菓子に夢中になっていたシンは、口の周りをべたべたにして、ムウさんを見上げました。
「あと６つしかないんだ。ゆっくり見てから決めないか？」
シンは、べたべたの手で、ポケットからさっきもらった硬貨を取り出しました。
銀色が６つ、茶色が１つ。
「うん！」
なくなっちゃうって、旦那様言ってたもんね。
なくなっちゃったら困るもんね！
「ゆっくり見ながらお参りして、帰りに買って行きましょう」
「お参り？」
マリューさんに言われて、シン、キョトリ。
「ジュール国防総監に、お賽銭用の小銭もらっただろう」
「これ？」
シン、茶色い硬貨をべたべた。
「ああ、それを神様に差し上げてな、願いごとをするんだ」
願いごと？
あ、それ知ってる！
「たなばた！」
「七夕知ってるのか。あれは笹に願いごとを吊るすんだけどな。お参りは、直接神様にお願いするんだ」
「俺、アスランさんとみんなとずっと一緒にいるってお願いする！」
「ああ・・・そうだな・・・・・」
だから、その名前を大声で言うなと。
思ったムウさんは、それでもシンがあんまり嬉しそうなので、ぴこんと立った耳をぽんぽんと撫でるだけにしておきました。