最近、泰明がとても優しい。

はじめてのとき、ひどい目に会わされたことが嘘のように、優しく、優しくからだに触れる。

夜だけではない。

共に歩くときには、いつも手を引いてくれる。

突然訪れては、花の美しいところ、景色の美しいところへ連れて行ってくれる。

時折、笛を吹けと言われる。

 

自分を、気に入ってくださっているのかもしれない。

 

そう思うと、嬉しい。

それは、夜中に突然泣きたくなるような喜びで、永泉の初めて知るものだった。

 

今宵も、泰明殿が来て下さる。

そう思うと、自然と笑みがこぼれた。

 

 

 

 

 

肌をたどる唇に、永泉は陶然となった。こんなことは、今までになかった。

硬くしこった胸の先端を、強く吸われただけで達してしまうかと思うほどの衝撃を受けてしまう。

「あ・・あ、あああっ、や、ぁは・・・」

淫らに揺れる腰を脚ごと押さえ込まれ、支配される予感に、いっそう感じて高く喘ぐ。

もともと哀しくなるほど淫乱なのに、泰明の手にかかると信じられないほどに乱れてしまう。

恥ずかしいほどにほころんだそこに、指を差し込まれ、開かれて、羞恥に震えながらも頼もしい体にしがみつき、甘い声をもらし続けた。

はやく、早くと声にならない訴えに、ちいさく微笑む余裕のある泰明は、それでも張りつめたものをそこにあてがい、与えてやる。

「あっ、あああああああ」

永泉が初めてだと言った青年の動きは、拙くとも激しくて、たちまち永泉の中は、快楽でいっぱいになってしまった。

 

 

 

 

 

「あきれてしまわれたでしょう？」

ぐったりと、泰明の膝に頭を預けたまま、手近な衣を肩まで引き上げて永泉は呟いた。

「何故だ？」

乱れた藍色の髪を、柔らかくかき回していた泰明は、不思議そうに尋ねる。

「あの・・・その・・・あのように、はしたなく乱れて・・・」

今でも、時折ずくんとうずく腰の奥を恥じて永泉がうつむくと、泰明はそのあごを捉えて、ぐい、と自分のほうを向かせた。

「何故、それであきれると思うのだ？」

「え、あの、その・・・」

おろおろと、視線をさまよわせる永泉に、泰明は畳み掛けるように言った。

「私は、今日、お前気持ちよくさせようとして抱いたのだ。それで乱れたのなら、あきれることはない」

そこで言葉を切り、ほんの少し口元を歪めた泰明は、少し視線を外して付け加える。

「・・・嬉しい」

ゆっくりと離れた指に、再びうつむいた永泉は、ちいさな声で言った。

「ありがとう・・・ございます・・・・あの・・・私・・・」

その声を追うように、泰明も屈みこむ。

「なんだ」

「どなたに抱かれても・・・泰明殿が、いちばん、・・・気持ちいい、です・・・」

「・・・・」

まじまじと。

永泉の髪の間からのぞく、あかく染まった耳のあたりを見つめた泰明は、確認するように問い掛けた。

「私がいちばん、か？」

「はい・・・」

「そうか」

簡単に処理することのできない、複雑な感情を持て余した泰明は、再び愛しいひとの髪に指を差し込んだ。

さらさらと、心地よい感触に集中する。

手に入れたばかりの、感情というもの。

その恐ろしさに、泰明は初めて気がついたのはこのときだった。