泰明は、前からすることを好む。

それは快楽に歪む永泉の表情が良く見えるとか、普段、つつましく隠された場所を酷く曝す姿であるとか、さまざまな理由があるが、何よりも細い腕が一心にすがりつく様が、泰明を喜ばせる。

「あっ・・・あ、あ」

柔らかな二の腕が、脇にすり寄せられる。

熱い手のひらが、汗で滑る背中をさまよう。

しなやかな脚が腰に絡みつき、きつい内側が、自分を締め付ける。

 

気持ちいい。

 

それは、永泉と肌を合わせるようになって、初めて知った、熱く、凶暴な快楽。

「あ・・・ァ、もぅ、も、だめ・・・っ」

腕が、脚が、熱い襞が。きつく泰明を締め付けた。

その心地良さに酔い、その快楽を吐き出す。

永泉のそこは、泰明のものをすべて飲み込み、自身も悦びに打ち震えた。

 

 

 

もう、幾度夜を重ねたのか。

泰明は、永泉の寝顔を見下ろしながら、ぼんやりと考える。

神子を、無事にもとの世界へ帰したのは、夏の頃。

その後も逢瀬を重ねて。

既に、木の葉も赤く色づく季節になっていた。

 

はじめは、そのからだから得られる快楽に、夢中になっていただけだった・・・ように、思う。

永泉とのことを考えるとき、どうしても、上手く言い表せない曖昧な部分がある。

言葉にしてしまったことは、すべて嘘になってしまったかのように、その曖昧な部分ばかりが泰明の中に溜まっていく。

いつか

その曖昧さの中に、永泉を見失ってしまうかもしれない。

そう思うと、たまらなくなって永泉の髪に指を差し込んだ。

さらさらとした感触は、まるで夢のように泰明の指を滑っていく。

頬に触れ、唇に触れ、思いついて、寝息を掠め取る。

 

「ん・・・ぅふ・・・」

身じろいだ永泉の、夜色の瞳が開かれて、それからふんわりと細められた。

その様子を、とても美しいと思う。

 

聞けば、様々な男と関係を持ってきたのだという。はじめての相手の話になると、決まって言葉を濁す。

抱けば、当然のように乱れる。淫らなからだ。

それを、とても美しいと思う。

 

「やすあきどの・・・？」

喘ぎ続けて、かすれた声も。

常に聞く、彼の笛の音のよう声も。

どちらも、とても美しいと思う。

 

夜の中、白く浮きあがったような指がゆらりと伸びて、頬に触れた。

「泣いて・・・・？」

言われて、初めて気付く。

両の目から、熱い雫がこぼれていた。

 

何故だかわからない。

 

私は、壊れてしまったのだろうか？

自分が制御できていない。

 

何かに駆られるように、永泉を抱きしめる。

柔らかなからだが、従順に腕の中に収まった。

髪から、肌から良い匂いがする。

触れ合うようになってすぐの頃は、ふわふわするような心地良さばかりを誘ったそれが、今は酷い胸の痛みを感じさせた。

腕の中のからだが伸び上がり、あたたかな唇が目尻に触れる。ちゅ、と涙を吸い取られ、いっそう涙が止まらなくなった。

「泰明殿、お顔のまじないが・・・・」

 

永泉の、声が。

からだ、が、

この、理解できなかった曖昧な部分が

 

 

これが

 

愛しい、と

 

 

「やすあきどの・・・」

額に、瞼に、呪いの消えた頬に。

永泉の唇が触れる。

先程まで、快楽を訴えてすがり付いていた腕が、今度は泰明を慰めるために、背中を撫でている。

その腕を取り、肘の内側に頬をすり寄せ、口づける。それから、からだを自分の下に敷きこんで、泰明は、涙をながしたまま。

そのからだを、

愛した。