泰明が、二度目に永泉を抱いたのは、玄武を得た日の夜。

成功が不思議な高揚を呼び、それを分かち合う相手と方法を、泰明は傍らに見出した。

 

 

熱く、いやらしく濡れたそこに幾度めかの精を注ぎ込む。

「あ・・・は・・・は・・・」

すっかり弛緩したからだからそれを抜き取り、まだ熱の冷めない泰明は、解放後の自失を起こしている永泉の顔を覗き込んだ。

はじめてのとき、やりすぎて失敗したことを思い出しての行動だったが、表情を取り戻した永泉は、うっすらと笑って目の前にあった鼻先に口付けた。

その感触に、ぞくりとするのを感じながら、ちいさな頭をそっと抱く。

「大事ないか？」

「はい・・・」

甘くかすれた声と共に、甘い吐息が胸をくすぐった。

心地良い感触に誘われ、いっそう強く抱きしめて、細く白い首筋から立ちのぼる、甘い香りをいっぱいに吸い込む。

「おまえは、良いな」

それは、泰明の嫌う漠然とした言い方だった。

不思議そうに顔を上げた永泉の、禁色の瞳に覗き込まれ、泰明はらしくなく狼狽して言葉を探した。

「おまえは、柔らかくて良い匂いがして・・・気持ちが良くて、小さくて興味深い。とても、良い」

言葉にすると、重要な何かを取りこぼしてしまったような気がした。

しかし、それが何だかわからない泰明は、奇妙な喪失感と共にいっそう強く永泉を抱きしめる。

すると、腕の中でちいさな声が聞こえた。

「ありがとう・・・ございます・・・」

もう一度、今度は唇に自分のそれを寄せる永泉に、失った物を取り戻そうとするように深く口付けて、身をすり寄せ、なめらかな肌を全身で愉しむ。

くちゅ・・・と、淫らがましい音をたてて唇が離れる。

赤く染まった唇が、小さく喘いでから言の葉を紡いだ。

「あの・・・でも、女性の方のほうが、もっと柔らかくて、いい匂いがいたしますよ」小首をかしげた永泉の、罪のない笑顔。

「私が初めてと仰っていましたけれど、そういうのがお好みなら、女性の方ともお付き合いなさったらどうでしょう？泰明殿なら、きっとおもてになるのでしょう？」

「・・・・・」

じいっと、永泉の顔を覗き込んだままの泰明に、永泉はまた何か失言をしてしまったのかと悲しくなった。

「あの、泰明殿、申し訳・・・」

「女なら、試してみた。あれはあまり良くない」

思いがけない言葉にさえぎられ、呆然とした永泉に、泰明はたたみかける。

「なにやら柔らかすぎて気持ちが悪かった。化粧の匂いで胸が悪くなる。ただ処理するだけならばあれでも悪くはないだろうが、良くはない」

言い切った泰明に、永泉は首をかしげる。

「そう、ですか？」

男ならば、自分を生み育てた母性に、惹かれぬ訳がないと思うのだけれど・・・そこまで考えて、永泉は泰明が普通に母親から生まれたわけではないことを思い出した。

「男も試してみたが、あれは固すぎてだめだ」

「えーと・・・」

泰明は、確かにもてるだろうが、先日の永泉とが初めてならば、そんなに相手が多いとは思えない。考えられることは、ひとつだ。

「お買いになったのですか？」

「ああ」

「そうですか・・・」

性の経験の多い永泉も、相手は宮中に出入りする者か寺の者、それに仕える武士がせいぜいだった。それは、どんな相手だったのだろうと思うのだが、まったく想像がつかない。

そんなどうでもいいようなことを考えていると、目の前に、ずい、と色違いの瞳が迫ってきた。

「やはり、おまえがいい」

見つめられたまま真顔で言われ、永泉はぱあっと赤くなった。胸がどきどきして、酷く苦しい。

「あ・・・ありがとう、ございます・・・」

先程と同じ言葉を、つかえながら言う。

泰明は、何故だか頬のあたりがもぞもぞとするのを感じた。くすぐったいが、気持ち良い。

自分の中の雄は、十分には満足していなかったが、泰明はもっとあたたかな欲求を感じていた。それに従って、永泉を腕の中に収めたままで横になる。

「泰明殿？・・・あの、あともう少しだけなら、お付き合いできると思いますが・・・」

身じろいだ永泉の言葉に、暫し迷うが、良い匂いの髪に鼻先を埋めて答えた。

「いや、このまま眠りたい」

「はい・・・」

やがて、腕の中から穏やかな寝息が聞こえるようになった。

泰明も、永泉の柔らかなからだや甘い匂いや、あたたかな吐息や肌の感触や・・・それらが原因で起こると思われる、奇妙にふわふわとした心持ちを愉しみながら。

眠りに、ついた。