何故、この子供は最近自分を見ると怯えるのか。

八葉の務めを果たしていた頃・・・はじめの頃はよく憶えていないが、札を集め終わった頃は、こんな風ではなかったように思うのだが。

内裏で見かけた永泉が、また酷く不安定に見えたので、気を分けてやろうと手を伸ばすとびくびくと震えて縮こまった。

不安定だった気が更に乱れ、左目から頭蓋の中まで身食いしている。

「どうしたらそうなるのだ？」

左目に手のひらを当て、少しずつ気を送り込んでやりながら聞いてみるが、

「え・・・あ、あの、何のことでしょう・・・・？」

ぎゅっと瞑っていた瞳を開き、おどおどと逆に問うてくる。

「わからないのか。」

なら、いい。

そう言うと、手のひらに集中する。

この前は勝手がわからずに力を押し込んだが、報告した師匠に怒られた。少しずつ、慎重に与えなければ、相手に負担が大きいのだという。相手が、霊力が高く同じ玄武の気を持つ永泉だから耐えられたのだと言われた。

だから言われたとおりに、少しずつ、慎重に・・・・

「ん・・・・ふ」

また、だ。永泉の体がふわりと解かれる。また、気持ちのよい腕が自分に触れる。衣を着けているからあの白い腕に触れられないのが残念だが、自分にかかる重みと髪の匂いは、やはり気持ちがいい・・・・・

「永泉様、お加減でも？」

通りすがりの文官に声を掛けられ、二人して夢から覚めたように目をしばたたかせた。

「いえ、その、大丈夫です。あの・・・・泰明殿、こちらへ」

俯いた永泉に袖を引かれ、近くの空いた部屋へ導かれた。人が通るところは煩わしいということなのだろう。

泰明は膝に力の入っていない永泉を座らせ、先日永泉がしたように背中に腕を回してみた。あの時は気持ち悪くないと言われて驚き、初めて触れることを許された体を、落ち着いて確かめられなかったから。

甘い匂い、ほのかなぬくもり、柔らかな質感。

人の体は、みな、このように気持ちの良いものなのだろうか。

思いついて、艶やかな髪に指をくぐらせる。見た目は濡れたようなのに、触れてみるとさらさらと乾いた感触が指を滑った。その髪に鼻先を埋め、まわした腕に力を込める。

体全部で感じる、永泉。

ただ、じっと身を預けているだけの少年の体が、何故こんなに気持ち良いのか、泰明はずっと考えていた。

陰陽寮の者が呼びに来るまで、ずっと。

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