狂気の王が､頭を上げる。

戦慄のプリンス。

「風雅」の旗の下、次々に敵対するチームを傘下に下し、力をつけ。

冷たく､強く。

唯々、上を目指す。

「十兵衛、サウスブロックのことなんだけど」

急に背が伸びてきたせいで、ひどく痩せて見える背中にシャツを掛けながら、花月はもう、次に制圧する場所のことを考えている。

針を片付ける手を止め、十兵衛はむき出しのままの脚を眺めやった。

「せめて、これが塞がるまで待て」

そこに残った傷跡を、花月は軽く笑い飛ばす。

「塞がってるよ。心配性だな、十兵衛は」

揺れる､赤い傷。

「まだ履くな､包帯を巻いてやる・・・無理に動けば開くぞ。やめておけ」

ベッドサイドから包帯を取り上げ、赤い傷を丁寧に包み隠す十兵衛に、花月は仕方なさそうに頷いた。

「ん・・・じゃあ、俊樹と祭蔵に頼もうか。あそこを束ねていたチーム(ところ)が、分裂しかかっているという情報が入っただろう？やるなら今だ」

獲物を狙う獣を思わせる瞳で､十兵衛を見上げ｡

「このチャンスを、逃すわけにはいかない。いいね、十兵衛」

「わかった」

十兵衛の応えに花月はまたひとつ頷き、今度こそ服を纏って立ち上がる。

施術のたびに体調を崩していた昔とは、違う。

「行こう、十兵衛。朔羅さんが待ってるんじゃないかな」

さっさとドアを開けた花月の背を見送り、十兵衛は一度目を細めてから、その後を追った｡

足早に戻った、風雅の溜まり場のように使っている部屋に入ったとたん、花月は、わあ、と声を上げた。

「祭蔵、それどうしたの？」

ふわふわのカスミソウに、ピンクのバラ。

大きくはないが、無限城ではめったにお目にかかれない花束に、花の好きな花月は目を見張る。

「ん?、これから恋人に会いに行くんだよv」

いつものように、にこにこと笑顔の祭蔵は、そう言ってからバラを一輪抜き取って、花月に差し出した。

「これは、花月に」

「いいの？」

「もちろん。だから、今夜はできるだけオレを呼び出さないで欲しいな」

祭蔵の悪戯っぽい笑みに、花月も笑い返してその花を受け取る。

「わかった。でも明日は大事な作戦があるんだ」

「朝には戻るさv」

ゆらり揺らされた花束と、花月の手に残ったバラの花。

それを見比べ、十兵衛は憮然としつつも姉を探した。

朔羅に用意してもらったコップに花を生けて、嬉しそうな花月｡

その、花の顔(かんばせ)に、不似合いなギラつく瞳。

それにさえ、魅せられる。

十兵衛はひとつ首を振って、その場を後にした。