いろいろなことがあった。

家が焼かれ、家族を失い。

新たに生きる場所は、あまりにも過酷で。

月が丸いことに気づいたのは、花月が先か、十兵衛が先か。

どちらにしろ、空の見える場所を自分たちのテリトリーとして確保した、その夜のことだった。

「満月だね、じゅうべえ」。

「ああ。・・・・花月」

「うん。しばらく忘れてたけど、大丈夫かな」

「恐らく一度か二度だ。大丈夫だろう。それよりも俺の腕の方が心配だ」

「らしくないね、珍しい」

「お前の、体のことだからな」

察したらしい朔羅の姿はない。

確保したとはいえ、ここは無限城だ。安全とはいえないから、少し心配だけれど。

いつか、筧の当主がそうしたように、十兵衛はそっと花月の髪を撫でる。

「よろしくおねがいします」

言った花月の唇に魅せられながらも、それは筧の本分ではないと目を逸らす。

「・・・ああ」

花月をスプリングの悪いベッドに横たえて、針を用意する。

朔羅がどこかから手に入れてきた、体には大きすぎるシャツを開くと、逸らしても逸らし切れない白い肌があらわになった。

手順も、針の打ち方も、・・・・やり方は、すべて頭に入っている。

慎重に、ひとつづつ孔を打ち、きめ細やかな肌に型どおりの愛撫を施す。

それでも上がる花月の息。ほのかに染まる肌。

しかしそれは、みんな筧の針のせいだ。

「はっ、ン・・・」

捩られた腰から、ベルトを抜く。着物の作法しか知識にないから、少し戸惑う。

それでも滞りなく花月の下肢をあらわにし、その白い脚を押し開いた。

中心では花月自身が硬く立ち上がり、震える足は、それを隠すこともできずに十兵衛の手の内にある。

このまま。

これを、自分のものにしてしまいたいと、オスの本能が囁く。

「十兵衛・・・」

しかしそれは、花月の呼び声ですぐに打ち消された。

「大丈夫だ、花月」

自分は、筧十兵衛。

風鳥院の宗主に仕える筧の当主なのだから。

初めて触れる場所に、恐る恐る指を差し込む。

香油などはないから、調達したのはソレ用のジェルで。

自分の指が、何の抵抗もなくつぷりと飲み込まれていくのに、十兵衛は驚いた。

中は熱くて柔らかく、しかし入り口はきゅうきゅうと十兵衛の指を喰い締めている。

「ふっ・・・」

震える花月の体。

落ち着け、十兵衛。

大きくひとつ、深呼吸をして、十兵衛はこれから打つ孔を順番に反芻した。

難しいことじゃない。できる。

まずは、ここを柔らかくして。

指を動かすたびに聞こえるにちゃにちゃという音と、心地よく指を舐める内壁のぬくもりを、一生懸命に無視する。

胸をさすって鼓動を確かめる。不意に、てのひらに突起が滑ってぞくりとしたが、知らないふりをする。

花月の体の準備は、すぐに整った。

すべては、十兵衛の父の技に、花月の体が慣れていたせいだろう。

少し切なくなった自分に、余裕が戻ったと誤解してみる。

大丈夫だ、できる。

「辛かったら言えよ、花月」

「・・・・ぅん」

頷く花月の紙を、そっと撫でてやり。

「んんっ・・・・・はぁ」

「くっ・・・・」

花月の中は、幼く経験のない十兵衛には、良すぎておかしくなりそうだったけれど、それでも一生懸命に針とそれを打つ場所のことを考えて、耐えた。

震える指と、勝手にイきそうになる自分を叱咤して､十兵衛は一字一句違えずに、覚えた文献を反芻する。

感じて喘ぐ珊瑚の唇。

蕩けた瞳に滲む涙。

手のひらに吸い付く汗ばんだ肌。

十兵衛を咥え込んでうねる体内。

淫らに揺れる脚を捕まえて、針を打ち。

筧の使命を全うする。

「あ・・・ぁ・・・・」

「うゎ」

それでも達した花月の締め付けに耐えられず、最後は失敗して､出してはいけない花月の中へ出してしまった。

「す、すまない、花月・・・」

慌てて引き抜き､おろおろとうろたえる十兵衛に、ぐったりとした花月は、それでも少し笑う。

「ううん、大丈夫。なんだ、ちゃんとできたじゃないか」

睫毛に絡んだ涙を払い、喘ぎ過ぎて口元を濡らす唾液を拭い。

それから。

下肢からこぼれる十兵衛のものも、その指に乗せて。

「心配して、損したよ」

さばさばと言い切る花月の細められた瞳は、十兵衛の知らない色をしていた。

「・・・・と、とりあえず、洗おう」

「うん」

十兵衛に抱き上げられて､水場に連れて行かれるあいだ、花月はずっと、明るく十兵衛の手際を褒めちぎっていた。