一緒に寝よう ２
どさ、と、ベッドの上に落ちた司郎の上に、更に兵部が落ちてきたのはわざとだろう。
「ぐっ・・・ちょ、少佐・・・っ」
もろに腹に入ったヒップドロップも相当だったが、そのままのっしりと上に乗られた感触と体温に、司郎は半ばパニックになった。
本気か？
本気ですか少佐！？
嘘も冗談もツッコミ待ちのボケも好きなように並べる相手だから。
むしろ、司郎はそうであって欲しいと切実に願った。
しかし。
「で、お前がする方がいいよな？」
ばっさりと学生服を脱ぎ捨て、その下のシャツのボタンを外しながら、兵部はけろりと聞いてくる。
「どーせ童貞なんだろ。僕で抜いたりしてたのか？」
現れた胸は白く、ひきつれた弾跡さえも、艶めいて見えて。
「・・・してましたよっ！」
司郎の声は、あからさまにひっくり返っていた。
「だろうなぁ」
兵部の声が、笑っている。
何年か前までは、一緒に風呂に入ったりもしていたから見慣れていると言っていい体は、しかし幾度も妄想に『使った』後の今となっては、明らかに目の毒だった。
しかも、兵部はボタンを外した半端な状態でシャツを放置し、今度は司郎のＴシャツを剥ぎにかかったのだ。
「昔はあんなに細っこかったのに、こんなに育っちゃってさあ」
めくり上げたＴシャツの下の、腹筋や胸板を眺めながら言う兵部に、司郎は無理矢理声を上げる。
「あんたは、変わんないよな・・・っ」
「ああ」
面白そうに見下ろしていた昏い瞳の闇の色が、不意にひどく深くなった。
「僕は、変わらないよ」
笑っているのに笑っていない。
兵部の、時々見せるこんな顔が、司郎はひどく苦手だった。
見ているだけで、訳も分からず泣きたくなるのだ。
しかし兵部はすぐにその色を消すと、いつもの人の悪い笑みを浮かべて、今度は真木のスボンに手をかけた。
「お前だって、いっくら好きだって言っても、僕の見た目がジジイだったら勃たないだろ？」
「な・・・っ！」
あんまりな言いように絶句した真木のベルトを外し、遠慮会釈なくボタンを外してジッパーを下げてしまう。
「・・・だよなぁ」
一体、何に同意しているのか。
なんとなくわかるような気がしてもわかりたくなくて、ひどく嬉しげに頷く兵部の顔から目を逸らす。
そんな子供の様子に笑みを深くして、兵部は目の前に現れたものを、何のためらいもなく口に含んだ。
「っ！しょ、しょうさ・・・っ！」
「ん」
喉の奥で返事をされて、しかもその振動が信じられないことに気持ちよくて、司郎はあわあわと慌てた。
敏感な場所を、濡れた熱いものがたっぷりと包み、更にぬるぬると這っていくのは味わったことのない快感で。
その上、大好きな人のほんのりと赤い唇が、自分のものを含んでいて、時折頬にあからさまな形が現れるビジュアルまで付いているのだ。
思春期真っ盛りの少年に、その刺激はキツ過ぎた。
「・・・っ！」
堪えきれずに出してしまったのは、まだ、その人の口の中。
しかも慌てた司郎の目の前で、ぬる、とまだ勃起したものを抜き出した彼の唇には、白い残滓が付いていて。
昏い色の瞳が、いたずらっぽく見上げたかと思うと。
ごく、と、見せつけるように喉が鳴った。
「しょ、しょうさ、飲・・・っ」
「ごちそーさま」
ぺろり、と口の端の白を舐め取った舌が、信じられないほどに赤い。
その色に釘付けになった司郎にかまわず、兵部はまだ目の前にあるそれを眺めて楽しそうに笑う。
「しっかし、元気だねえ」
当たり前だ。
好きな人にこんなんされて、一回くらいで萎えるなら、思春期とか言わない。
「ちょっと待ってろ。こっち準備するから」
かちゃ、と兵部が自分のベルトを外した。
ずる、と一体何着持っているのかわからない学制服のズボンが引き下ろされて、やたらと白い脚が露わになる。
「ぅ・・・・」
その白さと柔らかさのないラインに生々しさを感じて、司郎はごくりと生唾を飲んだ。
「あんた、マジで」
「そう言ってるだろ」
これ見よがしに立てた指を、さっきの赤い舌がぺろりと舐める。
そうして、それが脚の間へ入っていって。
「んっ・・・・」
一体、何をやっているのか。
見たこともない養い親の表情と、揺れる肢体のいやらしさ。
時折響く、かすかな水音。
真木からは白いシャツに阻まれて、ギリギリ見えない場所でなされていること。
それを想像するだけで、司郎の頭に血が上る。
そんな彼の様子にふと思いついて、兵部はとろりと濡れた瞳を上げた。
「ん・・・お前も、してみるか？」
シーツに突いて、体を支えていた白い手が、浅黒い司郎のそれをついと取った。
そうして、先ほど自分のそれにしたように。
いやむしろ、司郎のソレを舐めていたときのように。
赤い舌が、ぬるり、と司郎の指をくわえ込んだ。
「ん・・・」
くちゅ、くちゅ、と。
熱い舌が、司郎の指に絡んでなぞる。
時折、軽く吸われる感覚は、どうしようもなく気持ちよくて。
気がつくと、司郎は二本の指でその舌を擦り、硬いような柔らかいような、不思議な感触を味わっていた。
「・・・やるじゃないか」
ニヤ、と笑った口の端からは、とろりと唾液があふれて。
それが、司郎の指を伝って落ちる。
「もういいだろ。ほら、こっち」
しっかりと手首を掴まれたまま、見えないそこへ導かれて。
「・・・・っ」
たまらず、白いシャツを掴んで引き上げると、少し驚いたようなその人の顔を一瞬見上げ、まだ、自身の指を含んだままのそこへ、濡れたそれを押し込んだ。
「んっ・・・こら、乱暴だぞ」
「あなたが、こうしたんでしょう」
彼の中は、想像以上に熱く、狭かった。
指を食まれる感覚は、それ以上を思い起こさせるには十分で。
ずるずると奥まで入れれば、ひくり、と中が震えるのがわかった。
指先で襞を擦れば、びくびくと引きつれる感覚に陶然となる。
いつの間にか抜け落ちた兵部の指が、司郎のTシャツを掴み締め。
透明な唾液をこぼした唇が、ちいさく「ぁ・・・」と喘ぎをこぼす。
・・・・たまらなかった。
「っ！少、佐」
思わず腕に力が入り、中を強くえぐるようになって。
少しだけ眉を寄せた兵部は、それでもすぐにニヤリと笑った。
「何だ、もうガマンできないのか？」
自分が欲しくてたまらない。そんな欲を隠さない雄の顔に、指だけでは届かない、体の奥がぞくぞくする。
この子、こんなに大きくなってたのか。
それが嬉しくて、楽しくて。
「いいぜ」
自分の中に入り込んでいる、司郎の手を握って引きずり出す。
抜け落ちていく感触に、少し惜しく思ったが、しかし兵部の体はもっと悦いことを知っている。
ついさっき達ったばかりの司郎のものが、十分に勃起していることを確かめて、それをさっきまで、自分の中に突っ込んでいた指で後ろ手に支えた。
そうして腰を落としていけば。
「ん・・・っ」
慣れたそこは、容易に司郎のものを飲み込んでいく。
「っ・・・・！」
ぬるりとした感触に、熱く、きつく締め上げられて。
少年は、ぐっと歯を食いしばった。
でないと、イってしまいそうだったからだ。
初めて味わう恋い焦がれていた人の体の内は、熱くて狭くて気持ちよくて。
「ん？・・・っ、気持ちいい、か？」
しかも、とろりと瞳を潤ませて、そんなことを聞いてくる。
「あ・・・たりまえです・・・っ」
「そっか」
にこ、と。
滅多にない、他意のない笑みを浮かべて。
「じゃあ、もっとよくしてやるよ」
ちゅっ、と司郎の額にキスをして。
そうして兵部は、その場で腰を上下に揺すりだした。
「え、ちょ・・・っ」
ず、ず、ず、と、狭い体内で激しく擦られたからたまらない。
「〜〜〜〜〜っ！」
少年のものは、たちまち弾けてしまって。
しかも。
「あは・・・・っ、凄いな」
まだ、自分を押し開いたままの司郎のそれに、兵部は機嫌良く笑った。
そうして、司郎の腕を掴み、猫のようにするりと身を寄せてくる。
「っ、しょう、さ」
シャツ越しの体温が、何故だか繋がっている下肢よりもリアルで。
司郎は思わず、その薄い背中をかき寄せた。
それは、司郎が思っていたよりも、ずっと、細くて熱くて。
銀色の頭に頬を埋めると、どうしようもなくいい匂いがして。
しかし、その頭はするりと逃げて、その代わりにとろりと濁った闇色の瞳が、どうしようもない艶をたたえて司郎をのぞき込んできた。
「これで・・・終わりじゃないだろ？」
まだ大きくなってるぜ、と囁く濡れた唇。
ひとつ大きく息をついてから、その唇にかぶりつく。
キスなんて、どうしたらいいかわからなかったけれど、受けとめたそれは慣れた様子で司郎の舌を誘い込み、甘く噛みついて歓待した。
そのまま腰を突き上げれば、兵部の喉が甘く鳴り、司郎の口腔へ吐息が吹き込まれ。
名残惜しく唇を離すと、代わりにぞくぞくずるような声が聞こえた。
「あっ・・・・ん」
一度放たれて濡れたそこは、ぐちぐちといやらしい音を立てて、滑らかに司郎を飲み込んでいる。
そうして、ふわ、とシャツを引っかけたままの腕が、司郎の首に絡んで。
「しろう」
耳元に、濡れた吐息がかかって。
「今度は、もう少し持たせろよ」
くすくすと、笑いを含んだ声でそう言われ、司郎の頭に血が上った。
「・・・わかってます」
そう唸ると、また、耳元で笑い声がして。
そうして与えられた快楽に、少年は相当の我慢を強いられた。
蠢く中は、まるで彼を搾り取るかのように動き、少年がわななくたび、耳元では笑い声が漏れ。
そうでないときには、甘い呻きがひっきりなしに注ぎ込まれるのだ。
「ん・・・っん・・・・ん、ぅん・・・・・っ」
それをなんとか堪えながら。
腕の中の、誰よりも大事な人の熱を感じながら。
なんとなく。
なんとなくだけれど、真木はわかってしまった。
ああ、この人は。
たぶん本当に、自分のことを愛してくれているのだろう。
子供のように。
自分自身のように。
そうして。
ただ、それだけなのだ。
「・・・っ、あ・・・ん・・・・・っ」
好きなように動くその人に背中に手を添えると、ひく、とその背が仰け反った。
「ん・・・っ、い、い・・・・」
こんなに簡単に投げ与えられる体のように。
いつだって捨てていいと思っている命のように。
彼の注ぐ愛情は、彼にとっては何の意味がない。
この、自分にとっては何よりも大事なものは。
彼にとって、悲しいほどに意味を失ってしまっているのだ。
「・・・少佐」
抱きしめて顔を寄せると、それだけでキスが返ってくる。
真木には大事なこのキスも、きっと、彼には今の快楽のためだけの、どうでもいいもの。
でも。
だから。
あんたが大事にしないなら。
俺が、大事にするから。
俺が、あんたを大事にするから。
誰よりも、何よりも。
きっと、きっと、大事にするから。
「・・・しろう」
「ーーーーっ！」
そんな必死の想いなど知らぬげに、囁かれた声に止めをさされ。
少年はまた、その人の中を濡らして。
たっぷりと注がれる感触に満足しながら、兵部の淫らな体も高みを見る。
もちろん、お互い足りなくて、そのままどろどろになるまで抱き合った。
どこまでもどこまでも、司郎の熱を受けとめて。
司郎の大事な人は、ただ、淫らに笑っていた。
後始末のし方を教えてもらい、その間にまた元気になってしまったものの始末もしてもらい。
「なあ」
やっと落ち着いたベッドの中で、早々に寝入ろうとしている兵部を司郎は一生懸命にのぞき込んだ。
「また・・・一緒に寝ていいか？」
そういえば、兵部はにこり、と。
まるで、こっちの方が子供のように笑って。
「ああ、もちろん」
そう答えて、ぱたりと目を閉じた。
やっぱり、子供と一緒に寝ると気持ちがいいな、と兵部は思った。
高い体温。
少し早い鼓動。
確かに、生きているものの気配。
もう、とうに死んでいるはずの自分が、そんなものを欲しがるのは、少し不思議だったけれど。
気持ちいいから。
よく眠れそうだから。
まあ、いいか。
眠る兵部の口元に、かすかに浮かぶ笑みを見て。
それさえ、大事に思う少年は、その口の端にキスをした。
そうして、その人を抱きしめて一緒に眠った。
これからずっと、こうしようと思った。
触れるぬくもりも、かすかな寝息さえ。
司郎には、大事なものだから。
終