瞳の色 ４
合わせた唇の狭間へ舌を押し込めると、アスランさ誘うように唇を開いてそれを迎え入れた。
しかも、シンの下絵と自分のそれを絡めて。
キスを、深く、して。
「んっ・・・・」
喉から洩れる、声の甘さ。
抱きしめた背が、かすかに震える。
気持ちのいいキス。
でも、それだけじゃ、もう足りなくて。
勢いに任せて、その人の肩を掴んでベッドへと押し倒す。
かちんと歯がぶつかって、慌てて離すと唾液が糸を作ってアスランの唇に落ちた。
その色は。
まるで、シンの記憶の中のように、紅く染まっていた。
ずっと思い出せなかった、翠の瞳が大きく見開き、シンを映して瞬いている。
そこに溢れる驚きの色。
「すまない、そういうつもりじゃ・・・・」
シンの方が、驚いた。
「じゃあ、どういうつもりだったんですか！」
「あの、その、な」
「何！？」
シンの怒鳴り声に、アスランがおたつく。
そのさまは滑稽で。
なんだか、可愛い。
「キスしたかった、だけなんだが・・・・」
「俺はもっとしたいです！」
シンはそう宣言して。
アスランの瞳をのぞきこんだ。
「俺、あんたが好きなんです！」
わずかに涙を滲ませて、アスランを見つめる赤い瞳。
いつだって、一生懸命で。
必死な様子が、放っておけない、シン。
どうにかしてやりたいと想っていて、結局、何もしてやれなかった少年の、触れた体はあたたかくて。
気持ちよくて。
「本気、か？」
「すっげー本気です！」
確認を取ると、少年は深々と頷いた。
なら、いいかな、と、アスランは思った。
だって、シンはあたたかくて。
可愛く、て。
間近に揺れる跳ねた毛先に、指を突っ込み掻き混ぜる。
ふわふわとした感触に、ちょっと、笑って。
引き寄せてみて。
胸に顔を突っ込まされたシンが、がばりと起き上がるのを眺めて。
「何なんですか！」
「・・・・いや、かまわないぞ」
「は？」
きょとりと瞬く真紅の瞳。
そこに、唇を寄せて。
「かまわないって言ってるんだ。したいんだろう？」
「・・・っ、はいっ！」
とたん、太陽のように破顔した少年に、アスランは見とれて。
そうして、同じように、晴れやかに笑ったのだった。
翠の瞳がふわりと笑う。
明るい明るい、オーブの緑。
その色に、ふさわしい表情。
似つかわしい色。
その色が、嬉しかった。
その色が慕わしかった。
だから、その目元にキスをして。
細められたそれが、嬉しい。
アスランの顔、ちゃんと、わかる。
シンはその顔に、めちゃくちゃにキスをした。
最後に、色づいた唇を軽く吸うと、ドキドキしながら白い軍服の襟を開いていった。
アンダーが目の色と一緒で、ちょっと笑える。
それをがばりと引き上げると、あらわれたのは白い腹。
想っていたよりも痩せたそこには、ひどい傷があって。
手を止めてしまったシンの髪を、一拍遅れてアスランの手が撫でてくれる。
「言っとくが、わき腹のはお前じゃないぞ」
「じゃ、でかいのは俺ですか」
「まあな、気にするな」
「しますよ・・・」
引きつれた跡にキスをすると、薄い皮膚がひくりと震えた。
鼻腔をくすぐる肌の匂い。
それを感じたとたん、沈んでいたはずのこころがふわふわと浮き立って、現金な自分がちょっと嫌だ。
でもさ。
そのままきつく抱きつくと、腕を弾き返すあたたかな体。
髪を引かれて見上げれば、やさしく笑う翠の瞳。
赤く色づいた、唇。
「シン」
記憶よりもやさしく、シンを呼ぶ声。
好きで好きで仕方がない。
だからシンは、剥きだしの腹にも、もっとアンダーを引き上げて、やはり傷の残る、胸にも。
したいだけの、キスをした。
「っ、こ、ら・・・・」
アスランの指が、くしゃくしゃとシンの髪をかき乱す。
その指先が、もの凄く気持ちいい。
でも、もっと。
気持ちいいこと、したい。
シンは、アスランの残像と声で、自慰をしたことを思い出した。
あんなのより、ずっと、気持ちいい、こと。
アスランのベルトをかちゃかちゃと外すと、細い腰が浮いて手伝ってくれた。
その仕草に、初めてじゃないんだ、と、なんとなくわかった。
シンは思い切り始めてだ。
ちょっと怖くて。
でも、凄く、嬉しい。
「あ・・・アスランさん、感じてる？」
きれいなきれいなこの人が、自分を受け入れてくれるのが、嬉しい。
下着を押し上げていたものに、薄地の布越しにふれると、アスランはわずかに身をよじらせた。
「言うな。この馬鹿」
艦にいた頃なら、きっと反発していただろう言いようにも、ちっとも腹が立たない。
それどころか、可愛いと思う。
すごく、不思議だ。
「じゃ、言いませんけど・・・・」
言葉はぞんざいでも、少年の声には喜悦が溢れていた。
それにアスランが気付く前に、シンはその下着も引き降ろして、半ば立ち上がっていたそれに、躊躇うことなく唇を寄せた。
「っ！」
アスランの腰がびくんと跳ねて、思いがけず深く含んでしまった。
えづきそうになりながらも、シンはちゅくちゅくとそれを舐めていく。
他人のものを舐めるなんて、ついさっきまで思ってもみなかったけれど、全然ちっとも嫌じゃない。
嫌どころか、シンの口の中でどくどくいっているものは可愛いし、時折ゆるりと揺れる腰には、ひどくそそられる。
「んっ、シ・・・ン、もう、離せ。出・・・・」
「んーーーっ」
「っ、このっ、馬鹿っ！」
警告を逆手に取られてきつく吸われ、アスランはふるふると腰を振るわせた。
この馬鹿。
そこまでさせる気は、なかったのに。
「ん・・・・・・」
案の定、少年は口で受け止めてしまったものの始末に困って口を閉じたまま唸っている。
「ほら、出せ」
仕方ない、と、側に落ちていた自分の下着を持ってシンの顎に持っていくと、少年はふるふると首を振って、それからこくりと喉を鳴らした。
「飲むな！」
「飲んじゃった」
「馬鹿！」
「だってさ」
出したくなかったんだもん、と呟いた少年は、口元に残ったものを手の甲で拭い、それから「続きしていい？」と、ねだるように聞いてきた。
「かまわないが、な」
脱力したアスランに、やった！と、飛びついて。
そうしてシンは途方に暮れた。
ええと。
ええと・・・・