瞳の色 ５
どうしたらいいかわからなくて困ってしまったシンに、アスランはベッドに作りつけられた引き出しから、シンも見覚えのある汎用救急セットを取り出して、その中から消毒薬のチューブを選んで少年に突きつけた。
「シン、これを使え」
ええと。
「潤滑剤代わりだ、わかるか？」
「あっ、はいっ！」
小さなそれを受け取って、シンはその蓋を開けた。
ドキドキしながらそれを指に取り、緩く開かれたアスランの、脚の間に目をやった。
イったばかりのものの奥、そこを使うのだということは、知っている。
「アスランさん、あの・・・・」
「ん、わかってる」
立てられた膝に手を掛けると、アスランは少し恥ずかしそうにして、体を倒した。
膝を押せば、あらわれた場所。
ごくりとシンの喉が鳴る。
はじめは、恐る恐る、そこに触れて。
ひくりと反応を返すことに気が付くと、塗りこめる指は大胆になる。
「ん・・・・」
アスランの喉が艶めいた響きで鳴って、それを合図にするように、シンはそっと、そこへと指を差し込んだ。
「あ、っ」
上がった声に、しくじったかと思ったけれど、そこはずるりと指を飲み込んで、アスランは甘く息をついた。
「ふ、はぁ・・・・・」
しくじってない、大丈夫。
シンはほっと安堵して、それからそろそろと指を動かしてみる。
熱く濡れた襞が心地よくシンの指を包み込み、時折きゅうっと締め付ける。
少年のつたない愛撫に焦れるのか、細い腰がゆるりと揺れた。
「シ、ン。もっと、して、も。大丈夫だぞ・・・・？」
やさしい声が、シンを呼ぶ。
やさしいことを、言ってくれる。
恐る恐る見上げれば、翠の瞳がゆれていて。
見たこともないような、艶めいた色で、揺れていて。
「は、いっ！」
答えた少年は、それでもゆっくりと、一度抜き出した指を、二本に増やして押し込んだ。
「ふ・・・っ」
アスランの息が上がる。
きっときついと思ったのに、そこはシンの指を、二本とも易々と飲み込んだ。
新しく差し込んだ指に、その心地よさを覚えさせてから、もう一本。
ぐいぐいと、できる限り奥まで押し込めば、アスランが腕を伸ばして、シンの髪を撫でてくれた。
「もう、大丈夫だ」
何が？と、一瞬思って。
それからその意味を理解して、シンはこくんと頷いた。
指を抜き出したそこは熱く熟れて、ひくりひくりといやらしく震えている。
自分のものを取り出すのに、少し手間取った少年を、アスランは濡れた瞳で見上げてから、覆いかぶさってきた少年とキスをするために、そっと、目を閉じた。
「ん、んんっ、ん、あ・・・・」
シンの腕の中で、アスランは。
身を悶えさせて、少年のものを受け入れた。
しなやかな腕が予想以上の力でシンの背を抱きしめる。
腕に感じるアスラン。
背中に感じるアスラン。
そうして、繋がったところから感じる、アスラン。
それから。
「アスラン、さん」
名前を呼ぶと、長い睫毛が震えて。
そうして現われた、翠の瞳。
それらをすべて、自分の中に、刻み込むように。
アスランを、ぜんぶ、覚え込むために。
シンは、その人の中で、一生懸命律動を刻んだ。
アスランの中は、あんまり気持ちよすぎて、あんまり我慢がきかなかったけれど。
シンを包み込む襞の中に、たっぷりと射精してしまった少年を、アスランは叱らないでくれた。
代わりに。
「・・・・シン」
「っ、はいっ！」
「シン」
覚え込んだ、やさしい声で、シンの名前を呼んで。
そうしてやさしく、抱きしめてくれた。
「アスランさん、あの、俺」
「ん・・・・何だ？」
少年の情熱は、結局なかなか収まらず、アスランの許しを得て、その後何度も抱き合った。
それでもきゅうきゅうとしがみ付いて離れない少年を可愛く思いながら、彼の、細く引き締まった背中を撫でていたアスランは。
「俺、さ、あんたのこと撃ち落して」
「だから、気にするなよ」
「そうじゃなくて・・・・その後、俺、あんたの顔忘れちゃったんです」
シンの小声の告白に、撫でていた手をぴたりと止めた。
「あんたの声とか、後姿とか、それからあの、唇、とか。そういうのはだいたい覚えてたんです」
それで自慰をしたとは、さすがに言えないけれど。
「でも、顔とか、目の色、とか・・・・思い出せなくって」
しがみ付いていた少年が、顔を上げる。
きらきら光る、赤い瞳。
その輝きが、浮きかけた涙のせいで、更に増す。
アスランは、思わずそこに唇を寄せて。
こぼれる前に、吸い取って。
そんなことをしたから、シンは目を閉じてしまったけれど。
「・・・・すまなかったな」
「だから、なんであんたが謝んだ」
「いや・・・・・」
アスランは、きゅう、とシンの体を抱き返した。
救いたいと思って、守りたいと思って。
結局、何もしてやることができなかった少年。
この子は。
「すまない・・・・」
「だから、あんたさぁ」
この子は、自分を撃ち落したことを、そんなに辛く思っていたのか。
そんな思いを、させてしまったのか。
俺は、言葉だけでなく。
そんなことでも、この子を傷つけてしまったのか。
アスランにきゅうきゅうと抱きしめられて。
ちょっと痛いな、と思いながら。
シンは、それもちゃんと覚え込む。
もう二度と、忘れないように。
この人のこと、全部。
だから。
「アスラン、さん」
「・・・ん」
「顔、見せて」
くしゃくしゃになった、青い髪の先が、目の前で揺れて。
それから、消えて。
現われた、翠の瞳が瞬いた。
この色を、忘れないために。
・・・・守る、ために。
シンはもう一度、その人の唇にキスをした。
宇宙（そと）ではまだ、戦火の名残が燃えていた。
そうして、シンの胸の中には。
アスランの、瞳の色と同じ色。
翠の炎が、燃えていた。
終