その日、結局永泉は、安倍の屋敷に泊まることになった。

龍神の神子の一件で、左大臣家や他の寺の世話になることも多かったため、以前よりも随分と自由が利くようになっているのが、幸い（災い？）したらしい。

そういう訳で、泰明の後について部屋へ足を踏み入れたとたん

「や・・・やすあきどの！」

くるりとふり返った泰明に、ぎゅーーっと抱きしめられて、永泉は悲鳴をあげた。

「夜、閨でならいいのだろう？」

顔は見えないけれど、見なくてもわかる。あくまでも、真顔の泰明。

「は・・・はい・・・」

答えると、泰明はそのまま引き倒すように永泉の体を膝に乗せて座り込んだ。

とりあえず袈裟は放り出され、法衣の上からかたちを確かめるように手のひらが這う。

あ・・・

先程、内裏でも思ったのだが、泰明に触れられると、すごく、気持ちがいい。

思えばあまり、こういうふうに人と触れ合うことはなかったように思う。

ぎゅっ、と抱きしめられたり、あちこち撫でられたり。

初め感じるそれは、漣のような快を呼ぶ。

その波に身を任せ、思わず、ぽうっとなってしまった。

「そういえば、どうちがうのだ？」

言われて、はっと気付く。

そういえば・・・そんな、話が。

「ええと・・・その、あの・・・友雅殿が言ったのは、その・・・男女の、仲というか・・・えと、その・・・・」

「おまえも私も男だから、違うと言ったのか？」

かあああああっ、と、真っ赤になった永泉は、なんだか違うと思いながら、それ以上の説明もできないので黙って頷いた。

「そうか」

納得したらしい泰明は、昼間のように衿の間から手を差し込みだす。

「だから、あの、くすぐったいです・・・」

そうは言ってみたものの、一度快を覚えてしまったために強く抵抗できない永泉は、おぶおぶ言いながらもされるがまま。

泰明は、永泉のきっちり着込んだ衣がいまいち邪魔なのか、今度は帯を解いて一枚一枚脱がし、しまいには、袴の中にまで手を突っ込んで。

「んふ・・・や、やすあきどの・・・・・そこ、だめっ・・・」

さすがに嫌がってわたわたと暴れるが、ふにゃふにゃにされてしまった体には力が入らない。

更に、泰明はとあることに気が付いてしまう。

「ここは、なんだ？」

「きゃう・・・っ！」

熱を持ち始めたそこを強く握られて、永泉は悲鳴をあげた。

驚いて手を離した泰明だったが、はあはあと息をつきながらくんなりと体を預けたままの永泉の様子を見て、そうっと手のひらをそこに戻す。

「や・・・あん・・・・」

ふくりと膨らんだ熱い場所に触れると、永泉の体がびくびくと震え、耳に心地良い声が聞こえた。

そう、そっと、そうっと触れればよいのだ。

手のひらにちょうど良い大きさに育ったそれは、心地良い熱を持っていて、その形を確かめるように触っていると、永泉の声が切羽詰った響きを帯びてくる。

「あ・・・あぅん、あ、あ、あ、ああああああん」

手の中のものがびくんびくんとふるえ、熱い液体を吐き出した。

「・・・・」

「ぁ・・・も、申し訳・・・」

自分のもので濡れた手を目の前に上げられて、永泉はきゅうっと小さくなった。

生理的な反応だとはわかっているけれど、でも・・・恥ずかしい。

だって、よりによって、泰明殿に・・・

ぺちゃ

「・・・甘いな」

「や、やすあきどの〜〜〜！」

濡れた音におどおどと顔を上げて、永泉は愕然とした。泰明の舌が、指に絡んだ白いものを舐めているのだ。

「き、汚いです。やめて下さい・・・」

慌てて泰明の手をとると、とろりとした雫が、ぽたりと永泉の頬に落ちた。

「う・・・う・・・」

もう、泣きたい。

泰明殿に、こんな姿をさらして。

もう、消えてしまいたい・・・・

「・・・すまない。やはり、私に触れられるのは嫌だったのだな」

永泉の睫毛が、いつもより水を含んで、更に重そうに瞬いている。その様子を見下ろし、泰明は、彼にしては珍しく小さな声で言った。

その、はじめて聞いた声音に、永泉は驚いて首を振る。

「ち・・・違うのです。あの、その、このように、簡単に・・・その、いってしまって、恥ずかしくて・・・」

口に出して言うと、なおさら恥ずかしい。永泉はまたちいさくなってしまった。

「そういうものなのか？」

「・・・・・・・・・・・・・・はい」

「そうか」

ぺろ

「・・・っ！だから、舐めないでください・・・」

「・・・・」

ぺろぺろ

「うぅ・・・」

「美味いぞ」

濡れた指を、泰明の舌が丁寧に行き来する。それはまるで、幼子が飴を舐めるような仕草。

「嘘です・・・」

泣き出すタイミングも怒る気力も失った永泉は、結局自分の放ったものがすべて舐めとられるのを、結局最後まで眺めてしまった。