「い・・・痛いです、泰明殿・・・っ」

二の腕を掴まれ、ぶらんとぶら下げられて、永泉は悲鳴をあげた。

「ああ、すまない」

ひょい、と腰に手が添えられて、簀子の上へ上げられる。

珍しく内裏で見かけた泰明に声をかけようと、乗り出して落ちる永泉が悪いのだが、そんなふうに扱われたことのない永泉の心臓は、ばくばくいったままだ。

「あ、ありがとうございます・・・あの、泰明殿は、強い力をお持ちなのですね・・・・」

「そうなのか？」

「は・・・はい、あの、泰明殿・・・・手を・・・・・」

床に下ろされても、しっかりと掴まれたままの二の腕に、前のめりになりながら永泉は訴えた。はっきり言って、痛い。

「お前の手は、どうなっているのだ？」

「は？」

「妙に柔らかいな。しかしここは硬い・・・骨か？」

ぎゅ、と、肘を掴まれて。

「痛っ・・・！」

「・・・・・すまない」

ぱっと手を放されて、手すりにしがみついてぜいぜいと息をつく永泉に、表情ひとつ変えない泰明が問いかける。

「人というのは、皆、おまえのようなつくりをしているのか？」

「え・・・あの、その、個人差、というものは大きいと思いますが、私も泰明殿も、だいたいは同じだと思います」

「私は違う。こんなに柔らかくはない」

「はあ、ええと、それが個人差というものです」

「ふむ」

泰明の体が、ひらりと高欄を飛び越え、永泉の側へ寄った。

人が見たらどうだろうと永泉は思ったが、泰明はどうとも思わないのだろうと、その思いを庭の向こうへぽいと捨てた。

よほど泰明は永泉の腕が気になるのか、掴んでは放し、しげしげと眺めている。そんなに違うのだろうか？と気になって、永泉も泰明の腕を触ってみた。

違う。

驚いた。外から見ると随分と華奢に見えるのに、触ってみるとびっくりするほど硬いのだ。これならば、自分を吊り下げられるわけだと、永泉は感心してしまった。

暫し、お互いの腕に夢中になる。

・・・・・やがて、泰明が口を開いた。

「おまえは、私に触れられて嫌ではないのか？」

散々触っておいて、今さらな話だ。

「え、あ、はい」

自分とは随分違う、しっかりとしたつくりの腕をぎゅーっと握って、永泉は答えた。

「私は、人ではないのだが」

「はい、存じております」

「それでも、嫌でないと言うのか？」

「・・・そうですが・・・」

「・・・そうか」

ならば、と泰明は今度は肩から胸へ、袈裟の中へ手を突っ込みだした。

「泰明殿くすぐったいです・・・」

「そうなのか？」

言うと、今度は袖の奥へ手を差し込む。

「や、やすあきどのぉ」

きゃあきゃあと、まるで子猫が二匹じゃれあうように騒いでいると、突然頭上から声がかかった。

「そういうことは、夜、閨の中でやりなさい・・・」

見上げれば、橘友雅が見下ろしている。

「そうなのか？」

永泉の衿へ手を突っ込んだまま泰明が問い返し、

「それは意味が違います・・・」

それをなんとか止めさせよう、とわたわたしながら永泉が正す。

「どう違うのだ？」

「え、ええと、それは・・・・」

なぜなに坊やと化した泰明に、永泉が頭を抱えていると、友雅が

「人前では、あまりそのように服装を乱すものではないから、夜、閨でするのだよ。それからね、どう違うかは・・・永泉様に聞きなさい」

「〜〜〜〜〜！」

真っ赤になってしまった永泉の懐から、さりげなく泰明の手を引っこ抜いてやると、

「では、失礼します」

くすくす笑いながら去っていく。

「・・・・」

その後姿を見送った後、永泉はおそるおそる泰明を見上げた。

ばっちりと、目が合う。

「夜、閨でならいいのだな」

真顔で確認を取る泰明に、否と言える永泉では、なかった。

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