「ん？何だよ」
小首を傾げて聞いてくる仕草は、可愛い飼い犬と思えなくもないが。
小麦色に焼けた体は隆々として逞しく、綺麗に割れた腹筋やら、前に会った時より確実に太くなっている腕やらが、全然まったく可愛げがない。
いやまあ、趣味が筋トレとかいう可哀想な奴だから、仕方がないと言えば、まあ仕方がないのだが。
なんていうか、こう。
うん。
ぶっちゃけて言えば、面白くない。
「ビーチでナンパでもしてそうな体だな。モナークで何してんだお前」
とりあえず悪態をつきながら、足先で腹筋をつつく。
うわ、硬い。
「あー、日焼けか？こないだの休み、ユウギリたちが海に行きたいっていうから、ボディーガード代わりに付き合ったんだよ」
「一回や二回でこうも焼けるか」
「しょうがねぇだろ、すぐ色付いちまうのは体質・・・ってこら」
腹筋が硬いのがムカついたから、兵部は足先を更に下に下ろしていた。
アンダーの上からでもはっきりとわかるかたちの上を、つま先でなぞり。
それから、足裏でむにむにと。
うむ。こっちも硬い。
打って変わって満足げな兵部に、ヒノミヤは思わず苦笑いだ。
正直、ベッドの上の戯れであっても、そこを蹴られるのはおっかない。
それでも、バスローブから伸ばした足でもって、そうされるのは、なんか、こう。
「誘ってんのかなー」
試しにそう言ってみれば、赤い唇がニヤリと笑んだ。
「フン、このくらいで誘われるのか、お前は」
「いや、誘われるだろ、てか、誘うっていうか」
むにむにむに。
兵部の足は、もう完全な意図を持ってヒノミヤのモノを弄んでいる。
「ヒトのモノで遊ぶんじゃねぇよ」
普段浮いていることが多いせいか、柔らかな足裏で踏まれるのは、ちょっと倒錯的、かつ、普通に凄く気持ちがいい。
しかも、兵部が膝を上げるものだから、割れたバスローブの隙間から、白い太股がチラ見でもう。
「頂いちまって、いいかな」
言いながら、イタズラを続ける足首を捕まえれば、フフン、と無駄に得意げな笑みが返った。
「何をしに来たんだ、お前は」
「イタダキニキマシタ」
もう棒読みになるしかない。
近くまで来た、と電話を寄越したのは兵部だが、ほいほいと呼び出されるままに指定のホテルまで出てきたのはヒノミヤだ。
だって、２ヶ月ぶりの恋する相手の声だったのだ。釣れない方がどうかしている。
ヒノミヤはそのまま、そのつま先を口に含んだ。
小指を軽く噛めば、ひく、とそれが口の中で跳ねるのが可愛らしい。
そのまま足先をべたべたにすると、「駄犬め」と、兵部が楽しそうに笑うから。
「ばうわう」
そう答えて、がふ、と脹ら脛に噛みついた。
もちろんそれは甘噛みで、あぐあぐと柔らかく歯を立てると、彼は気持ちよさそうにふふ、と笑った。
「うちのワンコは甘えただなぁ」
よしよし、と、腕を伸ばされ頭を撫でられるのは、気持ちがいいけれど物足りない。
だから。
ヒノミヤは、掴んだ脚を引き上げると、あぐ、と今度は腿の内側に噛みついた。
「ん、っふ」
普段人目に触れないそれは、滑らかで白く適度な弾力で、噛みつく歯先を弾き返し。
徒っぽい視線がヒノミヤを射て、掴み上げていたはずの脚が、ゆるり、と背中に絡みついた。
バスローブに隠されていた、脚の間はとうにヒノミヤには丸見えで、緩く立ち上がった幼げな様子の性器から、早くもひくつく下の口までがよく見える。
ごく、と喉を鳴らす若い雄にくつりと笑い。
兵部は、さっきまでヒノミヤの頭を撫でていた手で、今度はその顎下を艶を持った仕草でくすぐった。
「ほら、おいで」
「お、まえ、なぁっ」
かあっ、と頭に血が上ったのがわかった。
そのまま突っ込んでしまいたい衝動にかられ、しかしそれをすると、延々とそのネタでからかわれることを知っている賢い犬は、ぐうっとそれを我慢して。
代わりに、がふ、と薄く笑った唇に噛みついた。
「ん・・・っ」
兵部は、キスも巧い。
放っておくと主導権を持って行きそうな甘い舌を一生懸命にいなして、それでもふぐふぐとみっともない音を立てながら、ヒノミヤは兵部のバスローブの下に手を突っ込んだ。
慣れた体だ。どこに何があるかは、見なくてもわかる。
手のひらで傷跡の上をゆっくりと撫でてから、指を胸の先へと持っていく。
既につんと立ったそれを指先で押しつぶしてやれば、それだけで腰が跳ねあがってしまう敏感な場所だ。
「んっ、こら」
犬にする仕草よりも、もっと強く、髪をかき回される。
力の入った指先が、頭皮を擦るのが気持ちいい。
ヒノミヤが一生懸命愛撫する上に、兵部が体をうねらせるものだから、バスローブなどすぐにはだけて真っ白い肌が覗く。
子供から大人へと渡る途中で時を止めた、そのアンバランスな美しさに、煽られる。
ヒノミヤはたまらずその胸にかじり付いて。
兵部に高らかに笑われた。
「は・・・ははっ、本当にお前は犬だな」
「うるせぇ」
ぷくりと勃った胸の先は、こりこりとした感触を舌に返し。
匂い立つ肌と共に、ヒノミヤの欲情を誘った。
先ほどかじり付いた腿に、既に先走りをにじませたそれをすり付けると、兵部も絶妙に膝を揺らしてそれに応える。
さっき足裏でされたときよりも、もっと気持ちのいいそれに、すぐさま突っ込んでしまいたい衝動を押し殺して。
ヒノミヤは片手を伸ばして、脱ぎ捨てたジャケットのポケットを漁る。
そこから引っ張り出したのは、小さなローションのボトルだった。
出掛けに慌ててひっ掴んで来たそれは、パンドラ印の兵部推薦の品で。
物覚えの良いわんこを褒めてやろうと頭を撫で、ついでに邪魔な眼帯を剥いでしまえば、すっかり雄臭くなった視線にがっつり射られ、ぞくりと背筋が震えた。
「っとに、お前」
眼帯を握ったままの腕を取られて、シーツの上へひっくり返される。
ぼふ、と何の抵抗もなく押し倒されてやれば、ヒノミヤは手早くボトルの蓋を開けた。
その余裕のない様子に笑った兵部は、自分から大きく足を開いて見せて。
「早く来いよ」
「わかってら」
言うなり、濡れた指がそこへ触れた。
それはすぐには入って来ずに、ゆるゆるとそこのあたりを濡らしていくから。
「この」
げし、と肩を蹴り付けて、とっとと来いと先を促す。
そうすれば、ヒノミヤは憎々しげに兵部を見下ろして、それからだぽっと兵部のそこに、残ったローションをぶちまけた。
わんこが必死なさまって、なんでこんなに可愛いんだろな。
そう、にんまりする間もあればこそ。
「あんっ・・・」
ずるり、と節の立った指がそこに入り込んで、兵部は高い声を上げた。
敏感な襞を、濡らしたとはいえ堅い指でいきなり擦られるのは、気持ちが良かった。
でも、もっと。
「もっと、だ。ヒノミヤ」
そう言って、更に脚を開いて片膝を上げた。
両手も開いて、傷も急所も全部を晒す。
見ろよ。
今だけなら、僕の全部をくれてやるぜ？
その意図を察したものか、ヒノミヤの指が、兵部の中に深々と突き刺さった。
「あんっ」
跳ねる腰を押さえつけるように、節の立った指が中をかき回して。
とても、とても気持ちがいい。
「んっ、んふ・・・」
気持ちよさに思わず閉じてしまった目を開ければ、自分を見下ろす男の、獣のようなオッドアイと目が合った。
イラスト：keiさんあ・・・あ。
食われる。
そう、とっさに思うほど、それは飢えた獣の色をしていて。
その予想に違わずに、熱い息を吐いたヒノミヤは。
「悪ぃ、ちっと我慢できねえ・・・」
そう唸ると、兵部の両膝を掴み上げた。
そこに雄を迎え入れる時には、さすがの兵部も少しきつい。
それでも、そのきつささえも快感に転じて。
大きなものに、狭い入り口を無理矢理拡げられた時に感じたのは、甘い被虐の味だった。
やっとそこを通り過ぎれば、体の奥に向かって、ずるずると侵入される心地よさ。
ああ、ヒノミヤだ、と思うだけで、ひくり、とそこが震えるのがわかる。
「ちょ、締めんな」
「る、せぇ・・・」
さっきのは、わざとじゃない。
そうは言いたくなくて、今度はわざと締めようとするも、更に奥を抉られて、情けない悲鳴を上げる羽目になった。
「っ、あんっ！」
誘うために上げられたのではない、本物の嬌声に、ヒノミヤがぐうっっと喉を鳴らすのがわかる。
ていうか。
「でかくすんな・・・っ」
今だってやっとの大きさなのだ、あんまり大きくされると、さすがの兵部も壊れてしまうのでは、と怖くなった。
「アンタ、の、せいだろ」
それだというのに、ヒノミヤは。全部を兵部のせいにして。
余裕なく、兵部の中を荒らしていく。
「あっ、あんっ、ぃン・・・っ」
怖くなるほど大きなものは、当然、怖くなるほどの快感を兵部にもたらした。
成長し切れない体の狭い襞を、強引にずるずると擦られるのも。
感じる場所をごちごつと、その硬さで容赦なく抉り抜かれるのも。
敏感になった入り口に、硬い陰毛がざりざりと擦れる感触まで。
全部がぜんぶ、きもちいい。
「兵部、ひょうぶ」
呼ばれる名前さえも気持ちがよくて、兵部は思わず、その唇にかぶりついた。
鋭い犬歯で舌を噛まれながら、絶頂まで駆け上がるのは。
やっぱり、とっても、気持ちが良かった。
情事の後の体を綺麗に洗ってやり、さらさらの髪にドライヤーを当てて。
機嫌良く脚を揺らす兵部の、その子供っぽい仕草にまた上がりそうな熱を噛み殺しながら。
ヒノミヤは、思う。
犬扱いでかまわない、と、そう言えるほど、達観してはいないけれど。
それでも。
『うちのワンコ』とそう言う彼の声音は、ほかの誰を呼ぶよりも、愛おしげに聞こえる。
それはきっと、うぬぼれじゃなくて。
こいつが、自分をそう思ってくれていると。
そう、信じることができるから。
そう思いながら愛しい人の体を抱きしめると、兵部はにこりと笑って目の前の赤毛をわしゃわしゃと撫でた。
それは、やっぱり愛犬の頭を撫でるようで、ヒノミヤはやんわりと苦笑いをこぼしたのだけれど。
その癖っ毛を指に絡めた兵部は、とてもとても上機嫌だった。
自分の隣に立とうと一生懸命で、それでも、呼びつければ一生懸命都合をつけて馳せ参じて。
せっせと腰を振って、気持ちよくさせて、こうして撫でれば嬉しそうに尻尾を振る。
うん。
うちのワンコは、世界一可愛い。
