月
久しぶりに見た『親友』は、記憶以上に美人だった。
しかも、記憶以上に天然で、英治を泣くほど喜ばせた。
本当はすぐさま押し倒したいのを結構頑張って堪え、今世話になっている、ＪＵＤＡの国外工場の案内をして食事をして話をして、さりげなく（ここ重要）自分の部屋に案内して。
なんだか初々しいデートみたいだなぁと思いながら、なんとか押し倒すプロセスまでたどり着いたところで。
「・・・・・」
至極珍しい、親友のビミョウな顔を目撃してしまい、英治は思わず首を傾げた。
「何、イヤかい？」
そんな訳がないことは、英治にだってわかっている。
するつもりがないのなら、玲二はここまでついては来ない。
「・・・・いや」
ぺたぺたと、シャツの上から胸を触られて、そのままその手で二の腕をぎゅうっと掴まれる。
愛撫というよりむしろ、検品されているような感触に、事情がわかって、英治はにんまりとした。
「ああ、これ？」
また、胸を触ってきた玲二の手を引き剥がし、その指先に一本一本キスをして。
肌蹴られたシャツの下、玲二の綺麗な胸板を眺めながら、英治は更に笑いを重ねる。
今の自分は、きっと玲二よりも逞しくなっている。
それば微妙に悔しいのだ、玲二は。
にやにや笑う英治を、玲二は、悔しいのか嬉しいのか怒っているのか笑っているのか何というのか。
やはりなんとも言えない微妙な顔で見上げている。
「お前に自慢してやるつもりだったのに、会ったら嬉しくってすっかり忘れてたよ」
「・・・そうか」
こくり、と頷かれた喉に口づけると、緩んだ手から離れた玲二の手のひらが、また、英治の胸を這うのが、愉しくて、気持ちいい。
「実際やることなくってさ。ちょっと鍛えてみた。でもこういうのは、ファクターになる前にやっとくべきだったねぇ」
普通に鍛えたんじゃ筋肉なんかつかなくって、と呟きながら、自分よりも幾分華奢な胸元に、いくつもいくつもキスを落とす。
「後悔する場所が違う」
英治の胸を触っていた手のひらで、今度は英治の髪をかき混ぜながら、ため息のような声で玲二が言う。
「そうかな」
呟いてから胸の先をきちりと噛むと、びく、と玲二の背が浮いた。
「・・・っ、ああ」
感じやすいわき腹を撫で下ろし、ベルトを外してスラックスを脱がせにかかった英治に、腰を浮かせて協力しながら玲二は言った。
「お前はいつも、的が外れている」
１０年前も今回も、と、そう言う玲二の足先から、黒い靴下を続けて引き抜く。
右の踵を捧げ持ち、長く綺麗な指の形をうっとりと眺めながら。
「玲二にそれは言われたくないナァ」
お前天然なんだモン。
そう答えた英治は、とりあえず小指から順に口に含むことにした。
「・・・まあ」
英治の好きにさせながら、時折指先で愛撫を返し。
玲二は先ほどからの微妙な表情の中から、柔らかな笑いを選び取る。
「多少は健全な生活をしているようで、良かった」
英治は、口腔に溢れていた唾液を思わず吹いた。
幼なじみの足の指をしゃぶっている状態でその台詞。
やっぱり、外れているのはお前だろう。
言うと蹴られるような気がしたし、左も舐めたいのでとりあえず黙って口を動かす。
最後に左の親指の先を噛むと、英治はそのまま脹ら脛から膝裏を通って内腿まで、ぬるりと舌で舐め上げた。
「・・・っ！」
感じやすい玲二は、不意の刺激に弱い。
びくりとひきつった内腿に満足して唇を離すと、とろりと濡れた漆黒の瞳と目が合った。
同じく濡れた赤い唇。
引き寄せられるように唇を寄せると、べちんと頬を叩かれた。
足の指しゃぶってからのキスだと、イヤだったかな。
いやでも、後ろ舐めてからでもキスさせてくれるよなー
ということは。
「剃っただろ」
昼間のやりとりを思い出し、滑らかな頬に頬ずりすると、今度は強く胸を押し返された。
「また伸びてるぞ」
眼鏡の向こうの剣呑な眼光に、少し笑う。
実は、自分でもちょっと思ってはいたのだ。
「しょうがないだろ。・・・お前は生えないなぁ」
少なくとも、朝に剃っただけの頬に、幾度も幾度も唇を落とす。
眼鏡を取って、目元や瞼にも。
心地良い感触に、夢中になる。
「きちんと剃っているだけだ」
「ホントかな」
混ぜっ返すと、また、胸を叩かれた。
「もういい。・・・さっさとしろ」
レンズ越しよりもっとずっと、艶の増した瞳が英治を見上げる。
「欲しいんだ？」
楽しくなって聞けば、綺麗な形の唇の端がつい、と上がり。
「当たり前だ」
そう囁いて、笑んだ。
「どれだけ、していなかったと思っている」
「・・・まったく、お前はサァ」
たまらず英治は、その唇にかぶりついた。
今度は少し舐めてやるだけで、そこは英治の舌を従順に迎え入れ、しかし大人しく蹂躙されるでもなく酷く手荒に舐め返し、いっそ痛いほどに噛みつかれて。
最後に押し返してきた舌先の意図を察して、やっと唇を離した英治は、唾液のたっぷり溜まった口腔に指を差し入れて。
絡みついてくる舌からも、滴るほどにそれを掬い取り、くすくすと笑いながら、先ほどから欲しいと訴えている場所へずるりと差し込んだ。
「ん・・・・っ」
とたんに上がった声に、痛みはない。
ある訳がない。
もっととばかりに浮いてくる腰を宥めながら、英治はゆるゆると指を動かして、そこを開いていく。
何せある程度緩めないと自分が痛い思いをするのだし、出血すると、きっと洗濯が面倒くさいと思う。
所帯じみたよなぁ、自分、と思いながら、二本の指を奥まで入れて、くちゅくちゅと襞をかき回す。
そこを眺めているだけであふれてくる唾液を幾度か落とし、激しく出し入れすれば、組み敷いた体がびくびくとのたうった。
「も、う・・・・」
「だーめ」
「んっ・・・」
「まだだってば」
玲二を焦らしているのだか、自分を焦らしているのだか、なんだかもうよくわからない。
わからないけれど。
淫らな快楽に身を染めて、のたうつ玲二は綺麗だった。
綺麗で、いやらしくて。
どうしようもなく興奮する。
たまらなくなったらしい玲二が、英治の腕を掴んで強引に引き寄せてきた。
同時に、英治の体を挟み込んでいた脚がそのまま腰に絡みつき、ぎゅうとばかりに締めにかかる。
「いて、いてて、痛っ、わかったよ玲二、ごめんってば」
体格で勝ってはいても、力づくで来られたらかなわない。
それはよくわかっているから、ここは素直に謝って。
淫らな熱に濡れそぼった瞳が、いやらしく睨みつけてくるのにへらりと笑い。
英治は長い脚を大きく開かせると、自分のものを取り出して、熱を持ったそこに押し当てた。
ここまで来て焦らすと、この天然は何をするかわからない。
だから、遠慮なく、一息に奥まで飲ませてやる。
「ん、ーーーーーっ！」
息を飲んで、目を閉じて。
まだ十分に慣らされていない肉を割られる衝撃に耐えている玲二は、とっても綺麗だ。
綺麗すぎて、可愛くて、気持ちよくて。
とってもとっても、虐めたくなる。
「玲二、締め過ぎ」
そう囁いて軽く揺すり、余計に力の入ったところで、勢いよく引きずり出す。
「あ・・・・っ！」
ああまずい、うっかりボクがイくところだった。
あまりの締め付けに冷や冷やしながら、また、奥まで突き入れる。
今度は角度をつけてみて、玲二の感じるところに先端を擦りつけるように。
「っあ！」
そう、玲二は不意の刺激に弱いのだ。
いきなり気持ちよくしてやれば、ガマンなんかできるワケがない。
「あーあ、もうイっちゃった」
英治を飲んだまま浮かされた腰の、触ってもいないそれから、白濁した体液が勢いよく放たれる。
「あ・・・・ぁ・・・・・」
解放の余韻に身を震わせて、甘苦しく喘ぐ玲二を堪能し、さて、今度は自分がと思ったところで、まだ息の整わない玲二に睨まれた。
「・・・おい」
「ゴメンってば」
くすくすと笑いながら、抱えた脚を押し広げ、ぐちゅぐちゅと中をかき混ぜてやりながら、英治は意地悪く囁いた。
「でも、早くしろって言ったの、玲二だろ？」
言うとおりにしてやっただけだよ、と笑うと、中を意図的に締め上げて、玲二は甘い喘ぎを無理矢理に尖らせた。
「一方的にされて、嬉しい訳がないだろう・・・っ」
「うん、ゴメン」
そう、軽く、軽く答えて。
英治は、やはり軽く聞こえるように、告白する。
「お前のそういうところ、大好きだよ」
玲二は一度、目を見張り。
それから、とろけるような笑顔を見せた。
それがなんだか悔しかったから。
英治は、玲二を啼かせてやるために、凄くがんばって腰を使った。
幾度もイって、ぐしゃぐしゃになって。
イき疲れて気を失うように眠ってしまった玲二は、やっぱりとっても綺麗だった。
三日ほど前に、加藤久高から連絡が来ていた。
要約すれば、「月に特攻かけてくれないか？」という打診に、既にＯＫは出してある。
だって、サ。
英治は玲二の、満足しきった寝顔を眺めてにんまりと笑った。
それを知った時の玲二の反応を思うだけで、もう楽しくて仕方がない。
玲二の心を一番動かせるのは、ボクなんだ。
それは、世界中に言って回りたいほど、心躍る事実だった。