ちいさな背中 Bitter
ちくちくと、頬に感じる刺激で目が覚めた。
腕の中のぬくもり、胸に当たる吐息。
シンの髪に頬を埋めて、そのまま眠ってしまったのだろう。
頬をつつく、好き勝手な方を向いた髪に苦笑し、それもまた心地良いと思ってそのまま少年の髪の感触を愉しむ。
夜明けは、まだ。
窓のない部屋、デジタルの表示だけが、このあたたかな時間のリミットを教えてくれている。
素肌にぬくもり。
昨夜、アスランに好き放題してくれた少年は、今はすっかり大人しく、腕の中で眠っている。
細い肩だなあと思う。
ちいさい背中だなあ。
アスランも、決して体格が良い方ではないけれど、それに比べても、まだ、華奢な印象しか与えない、シンの体。
それでもアスランは、戦う彼が、どんな動きをするのかを良く知っている。
このちいさな背中が、既に数多くの命を背負ってしまっていることを、知って、いる。
少年を抱く腕に、ちからを込める。
繰り返させないようにと心を砕き、言葉にし、終いには、手まで上げて。
それでもまだ、わかってくれないことを、悲しく思う。
もうこれ以上、この背に何も負わせたくないのに。
ちいさい背中。
少し、骨の浮いた。
身を折って、肩口に口付ける。
細い肩。
守りたい、のに。
硬い髪に頬を擦り寄せ、自分よりも高い体温を体中に感じて。
それでも、今彼が、こうして穏やかに眠っていることを、幸いに思う。
緩く波打つちいさな背中。それを、いっぱいに抱きしめて。
この背に負ったものを、少しでも、俺が肩代わりできればいいのに。
どうせ俺の手は、もうどうしようもなく汚れているのだから。
「・・・アスラン、さん？」
「ん？起こしたか？」
耳元で聞こえた声に、しまったと思う。
彼も、疲れているのに。
「ごめん」
でも、頬に口付けて、髪と背を撫でて。
優しくあやしてやれば、きっとまた、すぐに眠ってしまう。
そう思って、いたのに。
シンはがばりと起き上がり、両手を付いてアスランを見下ろした。
「したいんですけど」
「・・・お前な」
「あんなふうにされたら勃っちゃいますよ。責任とってくれたっていいじゃないですか」
シンの言いように、アスランは目を見張った。
「いつから、起きてた」
「今ですけど。え、何か俺にしましたっ？」
むしろ期待に満ちたまなざしで見つめられ、してないよ、とだけ答えて。
アスランは、シンの背に腕を伸ばした。
「一回だけだぞ」
「はいっ」
嬉しそうにキスをしてくる少年の背を抱き、その重みを心地良く思いながら、アスランは、思う。
この背中に、これ以上の命を乗せないためなら、何でもしよう。
この愛しい少年に、罪を負わせないためなら。