２

「わーーーんっ！」
お風呂から、シンの泣き声が聞こえて、アスランはびっくりして駆けつけました。
最近、やっと一人でお風呂に入れるようになったシンですが、アスランは、まだ、ちょっと不安なのです。
お風呂に落っこちちゃったのでしょうか。
石鹸で滑って、転んでしまったのでしょうか。
それとも、棚を引っくり返してしまったのでしょうか。

ばったん！と、お風呂の曇りガラス戸を開けると、シンはびったん！と、アスランに飛びつきました。
「アスランさーーん！」
「どうしたんだ、シン」
わんわん泣いているシンの、ぐしょぐしょの毛皮を優しく撫でて、アスランはそっと聞いてやります。
怪我をしている様子もないのですが、もしかしたら、シャンプーが目に入ってしまったのかも知れません。
「なんか腫れてるーーー！」
「どこか、打ったのか？」
心配になったアスランは、シンをお膝に乗っけて引っくり返しました。
豆柴の、白いお腹が良く見えます。
良く・・・・？

「ああ、これか？」
アスランは、シンのお腹の下のほうにある、ベビーウィ○ナーに目を留めました。
最後に一緒にお風呂に入ったときには、まだ、たけ○このさとでしたので、その成長に、ちょっとじんとしてしまいます。
でもこれじゃ、まだ普段はたけのこかなぁ。
「この前もね、なんか、朝、白いの出たの。おしっこじゃないの、おねしょしてないの！」
シンは、ちっちゃい頃に戻ったように、甘えた声で泣きつきました。
よっぽどびっくりしたのでしょう。
「大丈夫だよ、これは腫れちゃったわけじゃないから。白いのも、おねしょじゃないのわかってるよ？シンは、男の子になったんだ。だから、大丈夫だよ」
そう言って、ちゅっと鼻先にキスしてやると、シンは、やっと泣き止んで目をぱちくりさせました。
「だいじょうぶ？」
「ああ」
大好きなご主人様にそう言ってもらって、シンはやっと安心しました。
後から来た旦那様も、フン、とか言いながら、お部屋に戻ろうとしています。

でも。
アスランは、キスしてくれたお口を、すうっとシンのおなかにもっていきました。

そうして、シンの腫れちゃったそれを、ちゅるんと食べてしまったのです！

「わーーーん！俺の食べちゃやだー！」
シンは、また大声で泣き出しました。
振り向いたイザークが、ばっこん！とアスランの後ろ頭を蹴り飛ばしました。
「何をする貴様！」
「え、だって、ちゃんと出してやらなきゃ可哀相だろ」
お口を離したアスランは、そう言ってまた、シンのものを食べようとするのです。
「お前にされる方が可哀相だろうが！」
イザークは、断固阻止の姿勢で、泣いているシンをひっぺがします。
シンは、いつもご主人様にするように、ぎゅぎゅーーっとイザークにしがみ付きました。
だって、すごくすごく怖かったのです！

「何だその言い草・・・じゃあ、もうお前にもしてやらないぞ！」
「ワケが違うわ馬鹿者！」
ご主人様と旦那様は、なんだか良くわからないことで喧嘩をしています。
「やだーーーー！」
でも、シンはそれどころではありません。
「違う！・・・・ああもう、ちょっと来い小僧！！」
イザークは、シンをぶら下げたまま、寝室に篭って個人授業です。
　　　

３

えぐえぐとしゃくりあげている子わんこはまだちょっと濡れてわんこ状態でしたので、旦那様はともかくバスタオルでもってシンをゴシゴシ拭いてお部屋に連れてきました。
シンとレイのお部屋です。
実はここは、旦那様とご主人様の寝室にくっついてたウォークインクローゼットなのです。
最初にシンが来た時には、ちゃんとしたお部屋があったんです。でもシンが真夜中に寝ぼけて泣きべそでもって寝室のドアの前にいたり、ほとんど毎日ご主人様と旦那様の間で一緒に寝たりしてたので、部屋ひとつ分くらい広いクローゼットをお部屋としてリフォームしたんです。
なので、お部屋の入り口は廊下側にわんこ専用で、寝室からなら旦那様も入れるようになってるんです。
バスタオルにくるまれて、泣きべそのシンを旦那様が抱えてきたのでレイはびっくりしました。
でも。
どうやら訳ありであると、旦那様の表情で分かりましたので気を利かせてそっとお部屋から出てゆきました。
さて。
「シン」
旦那様はべそかきの子わんこを向かい合わせでお膝の上に乗せ、いつになく静かに、いつになく優しく言いました。
「いいか。お前のソレは病気ではない。男子としてある程度の年齢になれば誰しもがそのような状態になるのだ」
「…えー…」
「いいから。聞け。それはな、お前の男としての機能が正常に作動しているということなのだ。泣くことではない。泣くな」
そんなこと言ったってー。
シンは恐る恐る下を見ました。
そしたらそれは、いつものたけのこに戻っていて、ちゃんとシンの毛皮の中にしまわれてました。
「あ！　治ったー！！」
……恐怖のあまり●えたのだろうな……と、旦那様は思いましたが黙っておりました。
今の状態でこれ以上言うのは、たぶんシンには理解できないだろうと思われたのです。
それにしても問題はご主人様です。
とんでもないことをする奴だと、改めてその天然ボケぶりに感服…いやいや、呆れてしまう旦那様でした。
が。
「やっぱしアスランさんってすごいんだ！治してくれたんだ！」
ここにも天然ボケ一匹！！
「あれは治したとか、そういう行為ではない！　馬鹿者！」
「だって治ったもん」
「だから違うのだ！」
「えー？」

「だってさぁ、日頃してるのがイザークのアレであのサイズだぞ？　シンのなんか
、全然問題にならないと思わないか？」
「……少々論点がずれてませんか？　元隊長」
「そうかなぁ」

わんこは飼い主に似ると言います。
このご主人様にしてあの子わんこあり、なのです。

ジュール家は、今後ますますおにぎやかであります。