少佐のお気に入り
その取引は、滞りなく終わった。
そこそこの量のレアメタルを、そこそこの値段で。
それは、特に問題のない取引で、その後、会食になることも、相手の用意したホテルに宿泊することも、まあ、あると言えばある話だったが。
「・・・少佐」
「何だよ」
部屋に引き払ってから、「親交を深めたい」などというあからさまな誘いに乗る理由など、本来ならばないはずなのだ。
取引の間中、ずっと兵部を舐め回していた新興マフィアのボスの視線は、思い出すだけで真木の怖気を誘った。
「んー、だってさ」
しかし、当の兵部はケロリとしたものだ。
相手の部屋に向かいながら、無理矢理付いてきた右腕に、にこりと笑って言うことには。
「あいつの縄張りに、レアメタルの鉱山なんかないぜ？出所くらいは探らなくちゃ」
そう言う声は、内容に見合わずとてもとても楽しそうで。
真木は、深々とため息を付いた。
「んっ・・・ふ、あ・・・っ」
ほかの男の腰にまたがって、気持ちよさそうに腰を振る最愛の人の姿を、真木はドアの脇に立ったまま、ただ、無感動を装った瞳に映していた。
目つきばかり鋭い小太りの男の、見るからに醜悪なものが、兵部の白い尻の狭間から見え隠れするその様が、真木の位置からはよく見える。
「素晴らしい・・・」
感嘆の声は、兵部には聞き慣れたものだろう。
深く飲み込んだそこをゆるりと揺らし、艶やかな声で嗤って見せる。
「ふ・・・っ、こんなもんじゃ、ないぜ？」
真木からは見えないが、こんな時、兵部がどんな顔をしているかならよくわかる。
ここから見える男の間抜け面からしても、その予想は外れてはいないのだろう。
とたん、腰に乗っていた体をベッドに押し倒し、急な体位の移動に甘い悲鳴を上げる体を、男は一心に犯しだす。
上がる兵部の矯声は、半分近く作られたものだ。
しかしそれがわかるのは、真木くらいのものだろう。
「あっあ・・・・ああっ！」
感極まったような声を上げ、兵部の体が痙攣する。
もとより、あれは指や玩具でも簡単にイく体だ。
しかし、あの締め付けに、耐えられる男はいないだろう。
実際、男は荒く息をつき、萎えたものをずるりとそこから引き出した。
「んっ・・・もう、終わりかい？」
とろりととろけそうな声が、抜かれたそこを晒したままの兵部の口から漏れ落ちた。
もう、と言っても、入れる前に一度、兵部はこいつを口でイかせている。
それでも、この体で２回は少ないだろう、と真木でも思う。
何が気に入らないのさとか言って、暴れ出さなければ良いのだが。
「少し、病気をしてね」
男の情けなさそうな声に、きつくなりかけていた兵部の視線が気の毒げに変わる。
真木のちょっぴり同情した。
あの体を前にして、２回きりとは可哀想に。
しかし、男の声音はまた、揚々としたものに変わる。
「しかし、君を愉しませてあげることならできる」
言葉と共に、サイドテーブルの引き出しから取り出されたいくつもの玩具に、兵部はニヤリと嗤った。
「へぇ」
まずいな、と真木は思った。
普通の男なら、出し尽くして体が満足してしまえば終わりになるが、こういった輩はそうはいかない。
兵部も、興が乗ってしまえばどこまでも付き合うだろう。
自分の体調も考えずに、だ。
ちら、と見下ろした白い体はほの赤く染まり、昏い瞳は楽しそうに細められて。
薄い唇は、獲物を前にした獣のように、今にも舌なめずりしそうな勢いだった。
駄目だ。完全にやる気になっている。
「どれがいいかね？」
「選ばせてくれんだ？」
玩具を前にした子供のように（そしてそれは間違ってはいない）目を輝かせた兵部は、つい、と手を伸ばしてその中の一つを取った。
「じゃあ、これ」
それは、男性器を模した本体に、様々な突起の付いた、大きなバイブレーターだった。
よりによって一番、質の悪そうなものを選んで見せるあたりに、兵部の趣味の悪さがかいま見える。
「趣味がいいな」
「そうかい？」
ニイ、と嗤った兵部は、そのまま脚を掴まれ、深く折り込まれ。
中に出されたものを垂れこぼすそこに、そのグロテスクな物を押し当てられて。
性急にそれを押し込まれても、ただ、高い声を上げるばかりだった。
「あ、あ・・・っ」
濡らされてもいない大きな物を、男の体液で潤った小さなそこが飲み込んでいく様は・・・目に毒としか言いようがない。
びくびくと震える白い脚が空を蹴る。
その根本に差し込まれた物を、男は慣れた仕草でぐりりと回した。
「いっ！あんっ！」
びくん、と兵部の全身が跳ねた。
身に合わない大きな玩具で弄ばれる様は痛々しいが、しかし前はしっかりと立ち上がって・・・・感じているのだ。
「うんっ、やっ、ああんっ」
それが抜き差しされるたび、ぐちぐちと嫌らしい水音が立ち、白い体が哀れにのたうつ。
「いや・・・・あっ！」
体内を異物にかき回される快感は、兵部にとって、どんなに慣れ親しんでも新鮮なもので。
男に押さえられていない方の脚が、シーツを蹴って腰を逃がし、しかし角度を変えて責められて、その姿勢のままイってしまう。
「ふぇ・・・」
子供のような声が痛々しい。
まあ、半分演技なのだが、半分は本気なのだろう。
腹に散った白濁を、指先で塗り広げるのは無意識の媚態で、シーツを蹴ったまま痙攣している脚も、おそらく兵部の制御下にはない。
「・・・やりづらいな」
男の声にも、焦りに似た何かがあった。
これでできないのだから、本当に哀れだ。
「おい、おまえ」
ノーマルの男に、真木の同情など伝わる訳もないのに、唐突に呼ばれて内心焦る。
「脚を押さえていろ」
「・・・・」
あんまりな要求に、思わず見下ろした真木の主は。
「真木、おいで」
しかし、色っぽい仕草で唇を舐めると、酷く軽い声で真木を呼んだ。
男の、言うとおりにしろと言うのだ。
もうとっくに、サイコメトリーとテレパシーの合わせ技で、欲しい情報は手に入れているのだろうに。
この悪趣味な余興に、首を突っ込めと。
「・・・失礼します」
しかし、こうなった兵部が絶対に引かないことは、真木も経験上わかっている。
とにかく必死に、無表情を崩さないよう努力しながら兵部の横たわるベッドの頭側に回り、ほんの少し躊躇ってから、滑らかな両膝を掴んで大きく広げさせるかたちで、シーツに膝頭が付くほどそれを折り込んだ。
端から見れば、大の男二人が、まだ幼さの残る少年を弄んでいるように見えただろう。
しかし、この場を支配しているのは、その少年の方なのだ。
「ん・・・っ」
取らされた淫らな姿勢に、兵部の喉が鳴る。
イったばかりのそれが頭を持ち上げ始め、男の手を離れた玩具の、飲み込まれずに覗いている持ち手が、触れられてもいないのにゆるりと動いて。
彼がこの状況に感じていることを如実に現していた。
「よく躾てあるな」
「ふ・・・、僕の右腕だ。当然だろ、う・・・っ！」
両手が空いて、好きなように動かせるようになった男の手は、兵部のそこを押し広げ、玩具でいいように責め上げる。
「あ・・・ああ、うんっ、や、あ・・・っ」
にちゅ、ぐちゅ、ぐち・・・
せっぱ詰まった響きの中にも艶やかな声と、相反する嫌らしい音が、部屋中に響き。
目を落とせば、自分の手によって淫らに開かれた愛しい人の繊細な場所が、下種な男の持ったグロテスクなものによって、散々に荒らされている。
兵部の体が戦慄くたび、真木の手のひらいっぱいに、彼がこの行為に感じる様子が伝わって・・・つらい。
しかも。
「うんっ・・・ねえ、これ」
喘ぎの合間、ふと目を上げた兵部は、どこにそんな余裕があるのだと罵りたくなるほどわざとらしい可愛らしさで。
「動くの？」
そう聞きながら、汗に湿った銀色の髪を、枕にすり付けるように小首を傾げる。
「もちろんだ」
喜々とした男の声と共に、う゛ぅん、と、低く唸るような人工の音が重なった。
「っあーーーーっ！」
びくびくと、兵部の体が大きく跳ねる。
押さえ込んだ脚を離さずに、真木は手の中の肌が、粟立って震える様を。
その指の先に、兵部の放った熱い滴がかかるのを、ただ、感じていた。
「ははっ、こんな細い体でこれを壊すか」
感嘆と嘲笑の入り交じった声と共に、ずるり、と、そこのあまりの締め付けに、振動を止めてしまったものを引き出され。
一度甘く喘いでから、兵部は嗤って、軽く脚を跳ね上げた。
離せ、という意図を感じ取り、真木はそっと、汗ばんだ脚をシーツへと下ろす。
「あぁ・・・ごめん。お気に入りだった？」
「・・・いや・・・・・」
そう呟いた男の視線が、兵部の体をねっとりと犯す。
それを見ていられなくて、真木が目を伏せたときだった。
「しかし、君も生身の方がいいだろう。そこの彼はどうだね？」
「えー、ヤダぁ」
こういう口調は、いったいどこで覚えてくるのだろう。
女王たちか。
女王たちだな。
あれだけストーキングしているのだから、いろいろ移るのは当然だろう。
逃避気味の思考を、兵部の容赦ない声が打ちのめした。
「いつものコイツじゃ、僕が面白くない。君んとこので誰かいないのかい？」
・・・半分面白がっていて、残り半分は演技だとわかっていても、真木はへこんだ。
とてもとてもへこんだ。
「残念だが、部下に君の相手をさせて、そいつを殺してしまわない自信がないのだよ」
「熱烈だね」
無表情でへこんでいる真木などお構いなしに、話は勝手に進んでいく。
「じゃあいいや。真木、来いよ」
兵部の白い手が、ひらひらとひらめいて真木を呼びつけた。
「・・・しかし」
これが、せめてホテルの自室ならば、真木もなんだかんだと説教をしながら応じただろう。
しかし、ここは明らかに格下とわかっていても、ほぼ敵地に等しい場所なのだ。
なんとか思いとどまってもらおうと口を開きかけるも、それは念動力で無理矢理に閉じさせられた。
「僕が来いって言ってんだぜ？」
幾度もイって上気した頬に、銀色の髪を張り付かせて。
ニヤニヤ嗤う養い親の気を変えることを、真木は仕方なく放棄した。
「・・・・・はい」
結局、何を言ってもこの人は、したいことはしてしまうのだ。
「イイコだ」
『子供』の返事に満足げに頷いて、兵部は自ら脚を開く。
膝のあたりに赤い跡を見て取って、真木は眉をひそめたが、それ以上の反応は、なんとか出さずに堪え切った。
そんなに強く掴んだつもりはなかったのだ。
「ぐずぐずすんな」
まるで、いつものベッドでの戯れのように蹴られ、真木はちらりと男を見やってから、渋々と自分の前を開けた。
さっきからずっと、兵部の痴態を見続けていたのだ。
それは、既に隆々としたかたちを現していた。
「くす。・・・でかいだろ？」
ちらり、と意図を持って見上げられ、ごくりと男の喉が鳴る。
「・・・お気に入りかな？」
こんなところまで連れてくるんだ、とお返しに揶揄されて、兵部はふふ、と嗤った。
「うん。今一番のお気に入り」
玩具の話でもするような調子で評されながら、真木はただ淡々と、兵部の命令に従うために、ベッドに片膝を乗せると、宙に浮いた白い脚を掴まえた。
その脚の向こうから、いたずらっぽい視線を向けられて、こんなところで、あなたは、と、視線だけで非難した後、真木は自分の物を、ふっくらと熟れたそこへと押し込んでいく。
男の物と、大きな玩具とを立て続けに飲み込んでいたそこは、真木の物も難なく受け入れていった。
「んふ・・・・」
今まで散々広げられていたというのに、割り開いた肉は狭く、きゅうきゅうと締めつけてくる。
「ん、ん、んっ・・・・」
なんだかんだで慣れたそれは安心するのか、兵部の声は酷く甘い。
それでも、好きなように荒らされたそこはいつも以上に熱を持ち、真木を心配させた。
それを透視んだのか、それとも透視まずともわかるのか（恐らく後者だ）、兵部はくい、と腰を上げ、徒っぽい視線で真木を誘い込んで来るから。
これは仕事、仕事、仕事・・・と、頭の中で繰り返しながら、とにかく主を満足させなければと動いていると、当然ながらそれはバレて、突然跳ね上がった脚に、どかりと腹を蹴られてしまった。
「っ！」
「ひんっ！」
とたん、中の変なところを突かれて悲鳴を上げるのは、自業自得と言うものだ。
その弾みでイってしまった兵部の中に、真木もたっぷりと注ぎ込む。
熱い精液を味わって、ふるふると震える媚肉から、その刺激でまた勃ってしまわないうちにと、手早くそれを引きずり出す。
どろり、と白濁をこぼすそこに、見物していた男の視線が釘付けになっているのを横目に見ながら、真木は、白い脚を丁寧にシーツに下ろした。
ああ、ゴムをしていなかったな、と思ったが、前の男にも濡らされているのだ。後で洗わなければならないのは一緒だろう。
そうして、さて、これからどうするつもりですかと、しどけなく横たわる主を見下ろせば。
「真木」
「はい」
甘くかすれた声は、しかし演技の色がない、いつもの兵部のものだった。
そのことに、真木は安堵する。
「やっちゃって」
「よろしいのですか？」
「うん」
兵部は、気に入った相手は自分で殺す。
この男は、それには及ばなかったと言うことだろう。
真木は少しだけ彼に同情しながら、炭素単結晶繊維の先を伸ばし、兵部の体に見入っている、男の首を掻き切った。
男が最後に見たのは、いやらしく濡れた兵部のそこだ。
まあ、好き物冥利には尽きるだろう。
「レアメタルは、全部レベル５以上のサイコメトラーに検品させて。１個、どっかの捜査局のテレパスの思念が入ってるのがあるはずだ。大きさはこんくらい」
ベッドに寝ころんだまま、両手で大人の拳ほどの大きさを示した兵部のそこを、拭いながら真木は答えた。
「すべて廃棄してしまえばよろしいのでは」
「でも、見つけて仕返しした方が面白くね？」
くく、と嗤う兵部の顔は、娼婦からいたずらっ子のそれへと変わっている。
「ここ、バックに中華系のマフィア付いてただろ。そっちに連絡入れてくれ。レアメタルの出所はそっちだからさ、ちゃんと詫び入れて来たらふっ掛けて。ぐだぐだ言ってきたら潰しちまえ」
優位に立つにしろ潰すにしろ、これでレアメタルの仕入れが容易に行えるようになるだろう。
そう言う彼は、間違いなく犯罪組織のボスなのだが。
「それから真木」
そう言って見上げてくるのは、ただのわがままな少年にしか見えない。
「風呂」
そう端的に要求され、真木は呆れたように答えた。
「入ったらすぐに帰りますよ」
「その前にひと暴れだろ」
確かに。
悲鳴などは上げさせなかったが、室内の異変を感じてか、ドアの向こうに不穏な気配がする。
「・・・風呂よりも先になりそうですが、よろしいですか？」
簡単な後始末だけをして、真木はドアに向き直った。
兵部は風呂が好きだから、落ち着いて入りたいに決まっている。
「しょうがないなぁ」
ごろり、とシーツを巻き込むように寝ころんで、滑らかな脚と顔だけを出した、なんだか余計にそそる格好で、兵部は猫のように目を細め、笑った。
「おまえは僕のお気に入りだからな。許してやるよ」