写真
シンは子わんこです。
子わんこなので、とっても可愛いのです。
とっても可愛いから、ご主人様はシンの写真をいっぱい撮ります。
だから、お家にはシンの写真がいーっぱい！
旦那様が、「いいかげんにしろー！」って怒っちゃうんです。
でもでも、あれれ？
子わんこシンは思います。
アスランさんのお写真、見たことないな。
お仕事部屋に、あるのかな。
旦那様のお部屋に、あるのかな。
ほんの時々、思うんだけど。
子わんこなので、忘れちゃいます。
ジュールさん家へのお届け物やお手紙は、いったん、すっごく厳しいチェックが入ります。
「危険物を見つけるスキャナを作ったんだ！」
奥様が何かしてますが、旦那様の信頼の置ける業者さんで、ちゃんと、チェックと仕分けしてもらうんです。
「シャトル発着場で使ってもらえることになったんだ。お前が使ってる業者でも採用予定だって・・・」
「黙ってろキサマは！」
・・・チェックと仕分けを、してもらうんです。
だから、奥様のお手元には、奥様あてのお届け物とお手紙しか、届きません。
「ピザ屋のダイレクトメール、なかったか？」
「ない！」
・・・ないんです。
今日は、奥様にたくさんのプレゼントとメッセージカード。
だって、お誕生日ですもんね。
奥様、ピザ屋さんからのメールは諦めて、ほくほくプレゼントを開きます。
【伺えなくて残念ですわ。今度はあなたがいらしてくださいね】
ウサギさんのぬいぐるみは、ピンクの議長さんからです。
可愛いぬいぐるみに奥様は嬉しそうですが、旦那様は「来んでいい！」と、一声。
【行けずにすまん！】
これは、オーブの元気な国家元首からのメッセージ。
プレゼントは栄養ドリンクがいっぱいです。
アスランさんも会いたいけども、来られても、国的にちょっと困ります。
それから、それから。
次にあけたカードの中、出てきた写真に、アスランさんは目を見張りました。
「これ・・・」
「何だ？」
結構厳重に封された、厚いカードのその中に。
可愛い男の子、ふたり。
キレイな女の人、ふたり。
あわせて４人。写った写真。
【母さんが実家に送った写真が残ってたんだ。君も欲しいだろうと思ったから送るよ。今年のプレゼントはこれで勘弁してね。HAPPY BIRTHDAY】
署名は、奥様の『親友』です。
「だれ？」
奥様のお膝で、カードのリボンにじゃれてた子わんこ、聞きました。
こっちの女の人、キレイだな。
アスランさんに、似てるなぁ。
「俺と、母さんと・・・それから、キラと、キラのお母さんだよ」
アスランさんは知ってます。
シン、『フリーダム』はキライだけど、『キラ』って言っても誰だかわかりません。
「アスランさん！？」
案の定ですよ。
シンが食いついたのは、ぜんぜん違うところです。
「アスランさん、ちいちゃい！」
「そうだなぁ。５歳くらいの時だもんなぁ」
「俺よりちいちゃいね！」
だってシン、１０こだもんね！
「うん、そうだな」
アスランさんは、にっこりにこにこ頷いて。
「そんな訳あるか」
でも、旦那様はイジワルです。
写真のちいさいアスランさんの足下に、親指と人差し指でちいっちゃく隙間つくって。
「キサマなぞこれくらいだ」
「そんなんじゃないもんーー！」
とたんにじたじたになっちゃった子わんこを、お膝に乗っけたまま、奥様、旦那様の頭を、ばこん。
「大人げないぞ！」
「事実を認めさせるのが大人の務めだ！」
旦那様、頭を押さえて、がるる。
癇癪子わんこのアンヨは、ちったちった。
それをなだめてやりながら、アスランさんは、言いました。
「俺だって、赤ちゃんの時はそれくらいだったんだぞ」
「赤ちゃんじゃないもん！」
ぜんぜんフォローになってませんね。
でもでも、あれれ？子わんこのじたじた、急に治まっちゃって。
「赤ちゃんだと、アスランさんもっとちいちゃい？」
ちょっと涙目になっちゃった、うるうる大きい真っ赤なお目目。
それでじいっと見上げられ、アスランさんは頷きます。
「ああ、そうだな」
そりゃまあ、もちろんちいちゃいです。
そしたらね。
「赤ちゃんのアスランさん、見たい！」
子わんこ、ピンクの肉球両方上げて、アスランさんにおねだりです。
「見たいみたいー！」
これには、アスランさんも困りました。
「でもシン、赤ちゃんの頃の写真は、ないんだよ」
この写真だって、よく残ってたものだと思います。
後で、おばさんにもお礼を言わなくちゃ。
「なんでだよう！見たいよぅ！」
子わんこの癇癪、再爆発です。
さっきよりもっとじったじたー！
「見るー！」
じたじた子わんこ抱っこして、アスランさんは困ります。
見るって、言われてもなぁ。
残ってないもんは、ないんだし。
「そうだ！」
アスランさんは、気がつきました。
とってもいいこと、思いつきました。
「イザークの赤ちゃんの頃の写真だったらあるぞ！」
「はぁ！？」
まじまじと、写真を見ていた旦那様が、素っ頓狂な声を上げました。
「見る！」
子わんこの機嫌は、なおりました。
「隊長の赤ちゃん、見る！」
「違うわ馬鹿者！それを言うなら赤ん坊の頃の・・・じゃない！どこでそれを手に入れたアスラン！？」
いきなり自分の身に降りかかった危険（？）に、旦那様は大慌て。
「エザリア様にもらった」
アスランさん、けろりとそうお答えして。
「待ってろシン、部屋にあるから、取ってくるよ」
「うん！」
「待てキサマー！」
その夜は。
ちいちゃい旦那様のお写真を囲んで、一家団欒。
ぎゃーわーで、とってもとっても楽しかったですｖ
それから、ね。
そのお話を聞いたエザリアおばちゃんが、アスランさんに、追加のプレゼントをくれました。
はじめにくれた、赤いドレスと同じ生地で、大事に大事にくるんでくれたそれは。
赤ちゃんっていうには、もうちょっとおっきいんだけど。
ちいちゃな頃のアスランさんと、アスランさんより、ちょっぴ大きい、旦那様を。
綺麗な女の人が、二人、にこにこ見ているお写真でした。
シンはもちろん大喜びで。
今度は、旦那様も怒りませんでした。