相違−相似
「童貞ってこたないだろうけど、本当にイイ思いってしたことないだろ？」
そう言って、自分の膝の上に乗り、詰め襟をくつろげる男に向かい、ギリアムはぺっと唾を吐いた。
両腕をESP錠で後ろに拘束され、何かの配管に繋がれたこの状態で、できることはそれだけだった。
潜水艦の狭い室内は、それ自体が耐ESP処置をされているらしく、ESP錠がなくともネットワークから完全に切り離されている。
「あんまり下品なことするなよ、坊ちゃん」
クク、と笑いながら可愛らしい抵抗を避けた兵部は、学生服のボタンを全部開け切ってしまうと、その手でするり、とギリアムの頬を撫で、顎を取り。
鼻先の触れるような距離で、ニイ、と嗤った。
「貴様・・・」
歯噛みするギリアムを愉しそうに眺めると、兵部はギリアムの膝から退いて足の間に体を置き、彼のスラックスの前を開けて、無造作にそれを掴み出した。
「まだ成長途中かい？可愛いのは好きだぜ？」
蹴ろうとしてくる足を軽く押さえ込み、言葉もなく睨んでくるギリアムを鼻で笑うと、兵部はこれ見よがしに口を開けて。
射殺せそうな視線を上目遣いに見返しながら、白く長い指で支えたそれを、はくん、と咥えて見せた。
「・・・・・っ！」
彼の咥内は熱く、しかも、その舌は巧みだった。
先端の凹凸を舌先でなぞり、かたちを変えてきたところで喉の奥まで咥わえ込む。
「ん、ん、ん・・・・」
女に咥えさせたことくらいあるが、そんなものとは全然違っていた。
こんな、丁寧な愛撫は。
されたことが、ない。
「好き者、め・・・」
やっとそれだけを吐き出せば、兵部も完全に勃起してしまったそれを吐き出して、ぺろりと口元を舐めて笑った。
「ああ、それはよく言われる」
それから、ひどく緩慢な動作で学生服を脱ぎ捨てて。
そうしてズボンのベルトを外し、見せるけるようにしながら、ゆっくりと、白い脚をあらわにしていく。
「目が釘付けだぜ、坊ちゃん」
言われて、はっと視線を外しても、白く滑らかな残像は目に焼き付いて、しかも、その視線の逸れた方へ、兵部は自分が脱ぎ捨てた黒い塊を投げ捨てた。
「おまえ、僕のこと大嫌いだろ」
続いて、その黒の上に白いシャツが落とされて。
視界の端に、どうしても無視できない、白い体がすべて露わになる。
「でももう、おまえは僕のこと、忘れられないぜ？」
その白い手が伸びてギリアムの首に絡みつき、滑らかな肌が、急所を滑る感覚にぞくりとする。
自分とよく似た光のない瞳がほんの間近から覗き込み、唾液に濡れたままのそれに、もう片方の手の先が添えられたのがわかった。
まさか、本当にこいつ、と思った瞬間、先端に人の体温が触れて。
「ん、ぅ・・・っ」
慣らしもしていない硬いそこを割っていく感覚は、息を詰めるような痛みと、それに倍する快感があった。
「ふ・・・っ」
歯を食いしばって声を出すことだけは堪えたものの、今度は熱く濡れた中に絞り上げられ、殺しきれない吐息が洩れる。
それをくくっとあざ嗤うと、兵部は癖毛の間にかいま見えた耳朶に、吐息を吹き込むように囁いた。
「これから先、どんな女と寝たって、おまえは僕と比べちまう。・・・ざまあみろだ」
それから、ちゅ、ちゅ、と。
まるで恋人にするような。
・・・実際恋人などいたことがないギリアムでも、そう連想するようなキスを落とし。
兵部はゆるゆると腰を動かしだした。
絞られるような中。
腰や腿に押しつけられた尻は、手のひらで味わいたいと、思わず手錠を揺らしてしまったほどに滑らかだった。
「ああ。・・・触りたいか」
それが抜け落ちてしまいそうなほどに腰を上げていた兵部は、軽く笑うとそのまま深く腰を落とし。
「残念。これでガマンしな」
そう言うと、兵部はギリアムの肌に、その滑らかな尻を擦り付けるようにして腰を揺らした。
「ん、ふ、ふ、ぅんっ・・・・」
肩を押さえ込んでいた腕が離れ、するり、と首に巻き付いてくる。
滑らかな肌に、ひきつれた弾痕が艶めかしい胸が目の前に迫り、ギリアムは何も考えずに口を開いてその跡に唇を付けていて。
そのあまりの心地よさに、くすくすと笑い声が落ちるまで、自分がその肌を食んでしまっていることに気がつかなかった。
慌てて離した唇に、また、あの恋人のような口づけが降ってくる。
忍び込んできた舌を噛んでやろうとしたが、上顎の一点を舌先で舐められただけで顎に力が入らなくなった。
髪の間には、あの長い指が差し込まれ、軽くかき混ぜるように動いている。
指に髪が絡み付き、軽く根本を引かれながら、いたずらな爪先が、時折くすぐるように撫でて来るのが気持ちいい。
飲まれた性器だけでなく、体全部に与えられる・・・いや。
精神さえも、侵していく快楽。
たまらなかった。
この体、を。
シーツに押しつけ、抵抗を許さず、好き放題に犯したい。
そこを慣らさず無理矢理引き裂き、悲痛な声を上げさせたい。
屈辱的な姿勢を取らせ、それを揶揄して泣かせたい。
もう嫌だと、やめてくれと懇願させて、その声を聞きながら更なる暴虐を加えたい。
気がつけば、ガチャガチャとみっともなく手錠を揺らし。
そうして、腰を揺らしている自分に気づいた。
その上。
「あ・・・ははっ」
ちゅく、と淫らな音を立てて離した唇で、兵部は高く声を立てて嗤い。
「それもいいなぁ」
そう、ひとりごちてギリアムの瞳を覗き込んだ。
先ほどの思考を透視んだのか。
そうだ。
きっと、そうしてやる。
その意志を乗せて必死に睨むも、兵部はただ、艶やかに嗤うだけだった。
「でも、いいのかい？そんなことしたら、本当におまえは、僕無しじゃあ居られなくなっちまうぜ？」
それは、下手なプレコグよりも確かな未来予想だった。
それを聞かされたギリアムでさえ。
きっとそうなるだろうと確信できてしまうほどの。
そのギリアムの表情を見てくつくつと嗤い、兵部はまた、腰を揺らす。
「おまえには、これっくらいで十分、だよ」
そう囁いた唇が。
また、ギリアムの唇に触れて。
きゅう、としがみついてきた腕が、あやすように髪を撫でる。
それは、確かに仇敵にする仕草ではなかった。
まるで愛しい恋人とするようなセックスだった。
誰にでも。
自分にさえも、こんなキスをするのかと。
それは、散々与えられた屈辱よりも、こうして好き放題に犯される悔しさよりも、ずっとギリアムのこころを揺さぶった。
やがて、堪えきれずにその中を濡らすと、兵部も触れもしなかったものから、白濁を吐き出して。
「あ・・・は」
そうして、笑いながらイったばかりのそれを、ギリアムの腹に擦り付け、未だに屹立を咥えたままの中を、ゆるゆると締め上げて見せた。
「イったばっかなのに、すっげえ硬ぇー」
わざわざ下卑た言い方をして、笑ってじゃれつくこの存在を。
自分だけのものにしてしまいたいと。
そうして。
あんなキスを、他の誰にもさせたくない。
こんなセックスは。
他の誰とも、させたくない、と。
その渇望は、恋情に似ていた。
とても、とても良く、似ていた。