それはついで
くたくたの体に熱いシャワーをざばざば掛けると、それだけで疲れが引いていくようだった。
「はふー」
思わず間抜けな声が出て、慌てて隣りに首を巡らせる。
隣でシャワーを浴びていた森次は、早瀬の方をちらりとも見ずに、濡れた髪を払いのけていた。
てゆかこの人、汗一つかいてなかったんだケド。
シャワー浴びる必要、あるのかな・・・
たっぷり稽古をつけられて、たっぷりアタマ使う話もして。
ぐったりの早瀬とは対照的に、森次はけろりとしていた。
いつものコトだけど。
いつものコトだから、ムっカつくんだよなー
それに。
早瀬は、ちらり、ちらりと視線を投げる。
あんなコトやこんなコトした人のハダカが、こうやって公共の場所で見られてしまうのは、結構ツライものなんだと、早瀬はここで初めて知った。
綺麗に浮き出た腰骨の上を、水流の束が伝い落ちる。
そんな光景から目を逸らし、逸らしたのに、また、ちらり。
見なきゃいいのに。
見なきゃいいのに、俺！
しかし、早瀬も健康な男子高校生なのだ。
そーゆー関係の人のハダカがそこにあれば、思わず目が行ってしまうのは当然のこと。
そうして。
「う・・・」
体が反応してしまうのも、当然のこと。
さすがにここで抜くこともできず、もぞもぞとそこを隠してシャワーを止める。
バレてないよな？と、ちらりとまた隣をうかがえば。
黒い瞳と、ばっちりと目が合ってしまった。
シャワーを浴びる時まで眼鏡をかけている森次は、たまたま顔を拭っていたのだろう。
片手に眼鏡、片手は額。
遮る物のない黒々とした瞳が、じいっと、いつもの無表情で早瀬を見下ろして。
それから、何事もなかったかのように、眼鏡を掛けなおしてシャワーのコックを閉めた。
バレてる！
ばっちりバレてるよ！
わたつく少年を背に、脱衣場に戻ってタオルを取った森次は、まず、眼鏡を拭いてから、振り向いた。
「何をしている、さっさと来い」
「あー、ハイ」
そう返事はしたものの、股間を隠した情けない姿のまま、そちらへ行くのも躊躇われて。
一人、もぞもぞしている早瀬の後ろから、ばさっとタオルが飛んできた。
「あ・・・ありがとうゴザイマス」
このヒト、いっつもどっかズレてんだけど、たまに察しがいいんだよなぁ。
惜しむらくは、それがこういう分かりやすいところで発揮されるのは、ごくごく希だということだ。
たいてい見えないところで起こっているので、早瀬はそれを、物凄く後になって気づくのだ。
タオルを腰に巻きながら、ほてほてと戻ってきた早瀬の上から、既にシャツを着込み出した森次が言う。
「私の部屋でいいな？」
「え・・・」
一瞬、早瀬は何のことだかわからなかった。
なにげに、タオルの上からでもわかる、自分のモノを見下ろして。
それから、表情の伺いにくい、黒い瞳をうっかり見上げ。
「稽古はついでだと言っただろう」
に、と、めったに見られない艶やかな笑みを目撃してしまい、少年は内心、本気でアタマを抱えた。
うわあぁぁぁ
声に出さなかった自分を、誉めてやりたいくらいだった。
このヒトの何がタチ悪いって。
これがワザとか天然か、全然わっかんないトコだよ！
それでも早瀬はいきり立った自分を無理矢理パンツに押し込めて、置いていかれないようにせっせとジャージを着込んで言った。
「アンタそれ、すっげえわかりにくいんですよ！」
「そうか」
そう言った森次は、全然反省していないようだった。
「貸せ、抜いてやる」
部屋に着くなり森次は、ベッドに座り込んだ早瀬の前にかがみ込んだ。
もう何度かされたけれど、何度されても信じられない光景だ。
だってさ。
コレ、森次玲二だぞ。
いっつもすっげえ偉そうで、上から見下しやがってる上司が、ベッドの下に座り込み、早瀬のモノをくわえてしゃぶりついている。
緒川女史には残念呼ばわりされた物体だが、最近、ぐんぐん延びてきた身長に従って、それなりにそれなりにはなってきた。
なってきた・・・と、思う。
いつもよりも、赤さが目立って見える唇から、ぬるりとそれが抜き出されてきて。
また、熱くぬめった口腔へ飲み込まれていく。
ああもう、森次さん、巧過ぎなんすケド。
そう思ったところで、濡れた瞳がちらりと見上げてきた。
遠慮会釈のない舌がたっぷりと絡みついて、「イってしまえ」と、今は声の出せないはずの、森次の声が聞こえるような気がした。
あ・・・ヤバイ。
思った時にはもう、少年のものは弾けてしまっていて。
それをすべて受け止めた森次は、ごくんと何の躊躇もなく、それを飲み込んでしまった。
「飲まないで下さいよ・・・」
なんとか絞り出された声に、森次は早瀬のモノから唇を離す。
白っぽい糸が、早瀬のモノと森次の唇を繋ぎ、たちまち、真ん中にできた粒の重みに耐えきれないように、落ちて切れた。
「なら、外で出せるようになるんだな」
「うぅ・・・」
我慢が利かなかった自覚はあるので、仕方なく早瀬は黙る。
その目の前で森次は、ばっさばっさと豪快に服を脱いでいく。
何の情緒も色気もないはずのその行動に、しかし少年の目は釘付けになった。
たちまち露わになる白い肌。
最後に脱ぎ捨てられた下着の下は、既に兆し始めていた。
俺の、咥えただけで感じてたんだ。
そう思うと、早瀬の体も、もっと熱くなった。
すべてを脱ぎ捨てた森次の、まだ白いものの残る唇の端が、つい、と上がる。
「元気だな」
「えーえー、それダケが取り柄ですよ」
憎まれ口を絞り出し、早瀬も森次に倣ってジャージを脱ぐ。
さっさと脱いで押し倒さないと、逆に乗られる危険があった。
いや、乗ってもらうのもイイんだけどさ。
早瀬の上で早瀬を飲んで、腰を振られるのもキモチイイし、いい眺めなんだケド。
やっぱり、オトコとしちゃ上になりたいじゃないか。
いつもなら、さっさと早瀬を押し倒しにかかる森次は、今日は大人しく、ローションを取り出しながら待っている。
下になりたい気分だったのかな。
ちょっと、それは有り難い。
自分よりも大きな手からローションを取り上げ、こちらを見た眼差しの間から、かけたままだった眼鏡を取り去る。
伊達なのに、めったに外されないそれに、少しだけ、嫉妬する。
「壊すなよ」
「壊しませんよ」
片手で器用に眼鏡をたたみ、早瀬はそれを、ローションの仕舞われていたサイドボードに丁寧に置いた。
壊したら、たぶん、お説教じゃ済まないし。
その手で滑らかな肩を押すと、おそらく、本当にそんな気分なのだろう、素直に押し倒されてくれる。
そんな森次の様子に満足し、まず、色づいている唇にキスをする。
少し苦いのはご愛敬だ。
たちまち絡む熱い舌に、すぐにどうでもよくなる程度のものだ。
たっぷりと唇を味わうと、唾液のこぼれる口の端を舐めて、それから首へと唇を落とす。
首が弱いのは知っている。
ていうか森次さん、全身性感帯だし。
他に経験がない早瀬でも、森次がひどく感じやすい体をしていることは、なんとなくわかった。
あちこちにキスをしながら触っている胸は、もう、その先端を固くしている。
二の腕の内側に噛みつけば、ぐいと髪を掴まれた。嫌がってるんじゃない、ぐしゃぐしゃとかき回すその動きは、気持ちいい時、特有のもの。
その手がついと下に落ち、早瀬の背中を撫で回す。
ぞくん、と背筋が粟立って、思わず舐めていた肘裏から唇を離した。
「思ったよりも、育っているな」
かすかに笑った口元が言う。
どうやら、肉付きを確かめられていたらしい。
「思ったよりって・・・ヒドイですね」
見下ろした森次の体は、もちろんまだ、早瀬よりもしっかりとしている。
なのにエロい。
何でだよ。
「アンタに鍛えてもらってますから」
イロイロとね。
頑張って付け加えた余裕を、森次は笑みを深めただけで吹っ飛ばした。
「なら、もっと鍛えてやらないとな」
濡れた瞳をゆるりと細め。
赤い口角をつい、と上げる。
いつもがアノ無表情だから、こういう顔はホントにクる。
「お手柔らかに頼みますよ」
いやもうマジで。
しかし、そんな早瀬の心中なぞ知らぬげに、森次はひどく無造作に、早瀬のものに手を伸ばした。
「うわぁっ」
「元気が取り柄なんだろう？」
今度は、意地の悪い笑み。
ああもうヤバイ、こういう顔もイイ。
「そうですよっ！」
すっかり育ったソレから手を離させて、代わりとばかりに、手つかずだった下肢へと手を伸ばす。
慣れたふうに膝を預けてくるさまが気に食わないが、やり易いから、正直助かる。
やっぱり、感じやすいことを知っている腿の内側の、皮膚の薄いところに跡を残し。
それから早瀬は、放り出していたローションのボトルを拾い上げた。
森次は、膝を開いて間に早瀬を置いたイヤラシイ格好で、笑みを含んだままの瞳で早瀬を見ている。
うう、なんか試験受けてる気分。
緊張しながらボトルを開けて、たっぷりそれを絡めた指で、丁寧にそこを濡らしていく。
少し思い切って押し込めば、そこは簡単に早瀬の指を飲み込んで。
「・・・・ふっ」
ひく、と腰を揺らす様子に勇気を得て、熱い襞をかきまわす。
このヒト、どこもかしこも感じやすいケド、やっぱりココは、反応がイイ。
下手をすれば、既にだいぶ勃ってきている前よりも。
そう思って、そちらの方にも愛撫をくわえる。
ちょうど目の前にあるものだから、舌を出して、ぺろりと舐める。
「・・・おい」
そうしたら、ぎゅう、と、気持ちのいい腿で挟まれた。
肌触りは気持ちいいんだけど、その力は強烈で。
「ふぐ・・・っ」
妙な声を上げて、早瀬は固まる。
「集中させろ」
「ハ、ハイ」
どうやらお気に召さなかったらしい。
たまにする失敗は、それでもすぐに挽回できる。
指を増やして幾度も突けば、それだけでそこは気持ちよくほぐれた。
奥の奥まで、ローションを塗り込んで。
自分のものにも、たっぷり垂らして。
それから早瀬は、森次の様子をうかがった。
体をすっかり早瀬に預け、しどけない様子で横たわるさまは、エロいっていうかとにかくエロい。
早く、入れたい。
「えっと、いいですか？」
「・・・ああ」
こく、と頷くさまが、いつもと違って幼げで、それにも酷く煽られながら、早瀬は森次の中に、自分自身を入れていく。
どんなにどんなに緩めても、やっぱりキツイその中は、少年の熱をきゅうきゅうと締め上げて。
「・・・・っ」
しかも、そこをびくびくと痙攣させるものだから、すぐにイってしまいたくて困るのだけれど。
それでも、ぐっとガマンして。
とにかく奥まで入れきって。
「森次さん、気持ちいい？」
伏せた睫を震わせて、浅く喘ぐヒトに聞いてみる。
聞かなくってもわかるケドさ。
それでもやっぱり、聞きたいじゃないか。
長い睫をゆっくり上げて、濡れた瞳でまっすぐに、ひたりと早瀬を映した森次は。
浅かった息を、ひとつ、深くして。
中をゆるりと蠢かせ、少年に息を詰めさせてから。
「いいに、決まっているだろう・・・」
そう、珍しく急いたように吐き捨てると、早瀬の腰にきつく脚を絡めてきた。
それに気を良くした早瀬は、気持ちのいい中を割り開き、擦り立てる作業を開始する。
「・・・っ、は・・・・・っ」
はじめ、「擦っている」感覚のあった肉襞は、たちまちとろけて「かき混ぜている」感覚になる。
それでも、入り口だけは、変わらずきつくて。
急に締め付けてきたりするから、気が抜けない。
「っあ・・・・・ぁ」
今も、不意に腰が浮いて、押しつける動きと一緒にきつく絞られて。
「・・・っ！」
歯を食いしばった早瀬は、それでも深く突き込んでやりながら、思った。
ああ、そうか。
森次さん、「稽古はついで」って言ってたっけ。
それって、森次さん、スゴく欲しかったってコトじゃん。
今まで気がつかなかったのも間抜けだが、早瀬だって、自分が欲しいことでいっぱいいっぱいだったのだ。
そうして今も、自分がイきたいのでいっぱいで。
この、気持ちのいいナカに出したいので、いっぱいで。
それでも、びく、びく、と、森次のナカが痙攣しているのがわかる。
もう、イきそうだと、わかる。
だから、自ら濡れだした前を触ってみて、今度は怒られないのを確認して。
それを一生懸命扱いながら、必死に腰を打ち付けた。
自分が満足したいのか、この人を満足させたいのか、それももううやむやで。
手の中のものが弾けたのが先か、二度目にしては多いものを注ぎ込んでしまったのが先かも、もう、よく、わからなかった。
はぁはぁと、稽古中よりも荒い息で、ゆっくりと早瀬は森次の中から退いた。
ぐちゅ、と、イヤラシイ音。
出したものとローションの混じった粘液が、とろりとこぼれ落ちるさまも、イヤラシイ。
早瀬の前で、脚を開きっぱなしで。
余韻に身を震わせている森次さんが、イヤラシイ。
そんなことをぼんやり思っていると、うっとりと余韻に身を浸していたと思っていた森次が、不意にその黒い瞳を開いた。
そうして。
「これで、終わりじゃないだろう？」
そう言った、赤い唇がつい、と笑んだ。
ぞくん、と、早瀬の背筋に何かが走った。
「元気が取り柄、なんだろうが」
気がつくと、早瀬は森次を見上げていた。
いつ引き倒されたかなんて、まったく全然わからなかった。
そうしてそのまま、勃ったままだった前を掴まれて。
イヤラシイそこに、ぬぷ、と、飲まれて。
そうだよな。
スゴく欲しがってる時の森次さんが、このっくらいで満足するワケないもんな。
でも。
でも、次こそ、最後まで俺が食ってやるー！
ずぷずぷと、気持ちいいそこで責め立てられながら、早瀬が心の中で叫んだことを、知ってか知らずか。
早瀬の上で、森次が、なんだかやたらとキレイに、笑った。