シン、９才！
シンは子わんこです。
なんと！
９才になった子わんこです！
９才っていったら、もうお兄ちゃんですよ！
シンはもともとお兄ちゃんですけどね！
さて。
お兄ちゃんになったシンは、今までとちょっと違います。
朝、ひとりで起きられますよ。
お片づけ、ちゃんとできますよ。
それにね。
「お手伝い、するー！」
お手伝いだってできるんですよ！
「よし、アスランを起こしてこい」
朝ごはん準備中の旦那様、うむと頷いて言いました。
「わかったよ！」
シン、ご主人様を起こしに行きました。
ご主人様はベッドの中。
すぴすぴすぴすぴ寝ています。
もう、朝寝坊さんですね！
「アスランさん、朝だよ！」
すぴすぴ
「ごはんだよーー！」
すぴすぴすぴ
それでも、アスランさんはぜんぜん起きません。
しょうがないですね。
シンは、ご主人様のベッドによじよじしました。
あ、今日のご主人様、パジャマ着てる。
上だけだけどー！
ほんとにもう、しょうがないですね！
「起きてよ、アスランさん！」
シンがてちてちほっぺた叩くと、アスランさんは、うっすら緑のお目目を開けました。
「ん、シン・・・？」
「そうだよ！」
起きようよー！って、また言う前に。
ぎゅむ。
って。
ご主人様のお手手が、シンの首根っこを捕まえました。
それから、ずずずー、って、お布団の中に引っ張り込んで。
「んーｖ」
ふこふこ子わんこ抱っこして、ご主人様はまたすぴすぴ。
「うーー」
シン、はじめは起こさなくちゃー、ってじたじたしたんだけども。
すぴすぴ眠るご主人様の、吐息はとってもいい匂い。
お手手もとってもいい匂いー！
だからね。
「くぅ」
って一緒に寝ちゃったよ！
「ええい、役に立たん！」
「立つもん」
「どこがだ！」
「立つもんーー！」
ご主人様と子わんこと、起こしにきたのはレイでした。
食堂には、すっかり朝ご飯の準備が整っていて、旦那様がイジワル言います。
「どっちでもいいだろ・・・」
席に座った奥様は、ずずずってコーヒーをすすって。
「あのな、貴様がそうやって甘やかすから、コイツは手伝いひとつ出来んのだぞ！」
「できるもんー！」
朝っぱらからぎゃんぎゃん騒ぐ一人と一匹に、まったくもうってお顔をして。
「いいからほらシン、こっち座れ。パンは蜂蜜でいいな？」
「うんっ！」
「だから甘やかすなーー！」
・・・・・うん。まったく。
って、レイが頷いてたけども、誰も見てなかったよ！
さて、朝ご飯が終わりました。
「俺、運ぶよ！」
お兄ちゃんだからね！
食べた後のお皿は運べるんだよ！
「自分の分を運べ」
「アスランさんのも持って行ってあげるよ！」
「いや・・・・」
シンのお皿は、軽ーいの。
コップもスプーンも軽ーーいの。
だからシンも持って行けるの。
でもでも、アスランさんのはちょっと重いの。
本物の陶器だからね！
「大丈夫だよ！」
シン、お椅子の上にちょこんと立って、アスランさんのお皿を、よいしょ、って持ち上げて。
それからちょっと、おっとと、ってなっちゃって。
えっと、これ、どうやって下りたらいいんだろ・・・？
って、考えてる間に。
がっちゃーん！
「キャンッ！」
お皿ごと、椅子の下に落っこちちゃったーーー！！
子わんこシンは、脂肪と毛皮を着ていますから、ちょっぴイタイで済んだけども、お皿がまっぷたつに割れちゃって。
それで。
「わぁーーーん！」
お手手をちょっと切っちゃったよぅ！
「じゅ、獣医さんに！」
「救急箱で十分だ、バカ者！」
慌てちゃったご主人様、シンを獣医さんに連れて行こうとしたけれど、旦那様が止めました。
確かに。
シンの切り傷、ちょっぴりです。
ご主人様がぺろんと舐めると、血もすぐに止まりました。
「でも、どこか他に破片が刺さってるかもしれないし！」
「こんな単純な割れ方で破片が出るか！」
ぎゃんぎゃんケンカしながらも、ご主人様はてきぱきと、他に破片が刺さってないか確かめながら、シンの肉球にバンソーコーしました。
「うん、大丈夫みたいだな。これ剥がすまで、肉球舐めるんじゃないぞ」
「うー」
お手手にバンソーコー、かっちょ悪いです。
それにさ。
「・・・もってくー」
「もうレイが持っていった」
ジュールさん一家がぎゃあぎゃあやってるうちに、有能な居候のレイが、朝ご飯をぜーんぶ片づけちゃった！
「お手伝い、するんだもん！」
シンは、ご主人様の足元でじたじたしました。
だってシン、９才だもん。
お兄ちゃんだもん！
お手伝い、できるんだもんーー！
バンソーコー貼ったお手手でじたじたするシンに、ご主人様は困り顔。
「そうだなぁ」
困り果てて、じったじたの子わんこから、視線を外してお外を見ます。
今日はなんだかいい天気です。
お外は気持ちよさそうだなぁ。
ちょっぴ、逃避しかけたりなんかして。
それからはたと気が付きました。
「・・・じゃあ、シン」
じたじたやめた子わんこの、真っ赤なお目目がこっちを見ます。
ちょっぴ涙目、かわいいです。
かわいいかわいい、アスランさんの子わんこ。
もう９つになったんだって、がんばってる子わんこ。
「お手伝い、してくれ」
「うんっ！」
その心意気を買ってあげなくちゃ、ご主人様じゃないですもんね！
第一ポイントは、橋の下。
身を乗り出しちゃダメですよ。
お手手だけ、出すんですよ。
「ごはんだよーー！」
バンソーコー貼った肉球に、金魚の餌をひと掴み。
ふた掴み・・・み掴み！
それ以上あげちゃいけません。
お水が悪くなっちゃうんだってさ！
すいすい寄ってきた金魚さん、おいしそうにごはん食べてます。
うんうん、ってシンは頷いて。
「レイ！次行こう！」
「ああ」
第二ポイントは水門の前。
ちょっぴ、広くなってます。
ここは特別、ご掴みなんだよ！
えっと、それからね！
少し離れたレイが、持っていた別の餌をバラ撒きました。
金魚の餌よりおっきいです。
ばっくんばっくん食べるのは、金魚よりもおっきい錦鯉。
だから離れないと、金魚、食べられちゃうかもしれないからね！
「次ーー！」
「・・・・ああ」
アスランさんが頼んだのは、お堀の金魚の餌やりです。
鯉のぶんはレイ、金魚のぶんはシンですよ。
金魚と鯉、はじめは完全隔離だったけど、今はちょっぴ混ざってます。
でもでも、金魚もおっきくなりましたからね！鯉になる日も近いでしょう！！
芝生の上を、てってけと、金魚の餌持って走る子わんこたちを、割れちゃったお皿を片づけながら、旦那様が見ています。
「心意気は、良いんだがな・・・」
実はこれ、旦那様が作ったお皿でした。
ちょっと惜しいけど、しょうがありません。
「なんだ、捨てるのか？」
でも、奥様がそれを取り上げて。
「なら、くれないか？それ色味が気に入ってたんだ。接着剤でつければネジ入れに使える」
「・・・・そうか」
旦那様、なんだか嬉しそうです。
「心意気が、良いんだよな」
旦那様と同じこと、ちょっぴ違うニュアンスで言って。
ご主人様は、てってけ走る子わんこの、しっぽの先を見送ります。
「おおきくなったなぁ・・・」
シン、９才になりました。