「美堂君、大きくないけど上手いですね」

散々楽しんだあとの体に、シーツだけ掛けて寝転んでいた花月は、蛮が火を着けかけた煙草を、フィルターギリギリですっぱり輪切りにした。

「テメェ、喧嘩売ってんのか絃巻きィ」

すかさず取り出した一本を今度は縦裂きにされ、蛮は、くすくす笑う小振りな頭をシーツに押し付け、今度こそマルボロに火を着けた。

「褒めてるんじゃないですか。だいたい、その体格で十兵衛より大きかったらおかしいでしょう」

「うるせぇ」

畜生、やっぱサムライ君のがデカイのか。いや、オレだってまだ成長中だ。も少しくらいなぁ・・・・

「その年でこれだけ上手いのもおかしいですけどね」

蛮の手のひらから逃れ、花月はくしゃくしゃに乱れた髪をかき上げる。

「黙らせるぞカマ野郎」

「首落っことしますよ、色ガキ」

乱れた髪の間から覗く瞳は、艶めいてはいても、どこまでも強い、戦う者のそれで。

「できるもんならな」

フン、と笑って煙を吐くと、それを露骨に避けて、花月は身を返した。

シーツが引かれて、腿の付け根近くまであらわになったが、気にする様子もない。

「その手で僕の首を折ったら、銀次さんが泣きますよ」

「そりゃテメーがやったって一緒だろうが」

「そう簡単に僕にやられるんですか、君は。だいたい君のほうが強いでしょう」

「・・・・・あのな・・・・・・・・・」

こうも屈託がないと、もう威張ってやる気にもならない。

「気持ちよかったって言ってるんです。素直に喜んだらどうですか？」

どこをどーすりゃ、素直に喜べるってんだ。

あさっての方向に吐き出された煙を眺め、花月はひとつ、伸びをした。

「あーあ、十兵衛とか俊樹が、コレくらい上手かったらな。十兵衛なんか、いまだに入れるときすごく痛いんですよ。さっきなんかよりずーっと。そのあとすごくイイから、我慢するけど・・・」

「ノロケかよ」

デカイのか？そんなにデカイのかヤツは？！

「俊樹はね、優しいんだけど、ちょっと弱腰なんだよね。その分君は元気だし」

「ダンナに言いつけっぞ」

つーか、何本咥えてやがんだ、このケツは・・・

「それはやめて欲しいですね。今更怒られたりはしないけど、機嫌は悪くなりますから」

そーかい。

もう突っ込む気力もなくして煙草をふかすと、花月は両手をついてがばりと起き上がり、いたずらっぽく笑って言った。

「それで、銀次さんはね・・・」

「ヤメロ、マジやめろ。聞きたくねぇ！」

とうとう全面降伏した蛮の背中を、あははと笑った花月がぽんぽん叩く。

「修行不足ですよ、美堂君」

「うるせぇ！」

がなったところで、ふと疑問が湧いた。

「オマエ、飛針のダンナと銀次と、どっちが本命なんだよ」

飛針のダンナは文字通りダンナらしいが、それにしちゃ、本気で銀次命じゃねぇか。

「ん〜」

背中に当たっていた手のひらの感触がなくなって、かわりにもっと重いものがとさりとかかる。花月が寄りかかってきたのだ。

「じゃあ聞きますけど、君、銀次さんと卑弥呼さん、どっちが大切ですか」

「んな馬鹿なコト聞くんじゃねえ」

銀次は大切な相棒で、卑弥呼は・・・まあ、邪馬人からの大切な預かりモンだ。

そんなもの、比べられるわけがねぇ。

「馬鹿・・・ですか」

くすくす。

花月が笑うと、裸の背中が震えるのが伝わる。

「馬鹿ですね」

「んだとコラ」

「誰が君のことだって言いました」

「テメーかよ」

くすくすくす。

あったかい背中がまた揺れる。

「僕ら、でしょう？」

「フザケんな」

でもまあ、認めざるをえないだろう。

コイツとオレは、似たモン同士だ。

流派の枷を大切だと言い、しかしそれを裏切り続ける花月と。

血のしがらみを捨てたと嘯き、しかしそれから目を逸らせない蛮と。

背中合わせなのだ、自分たちは。

背中合わせ馬鹿。

思ってから、花月に毒されていることに気づいて、蛮は機嫌悪く煙を吐いた。

「また、しましょう」

「二度とゴメンだ」

「え、ヨくありませんでした？」

後ろから覗き込んだ可愛いカオが、可愛い分だけムカついて、蛮はその顎をつかまえて、ちゅ、とキスしてやった。

リン

「・・・死んでください」

「うわ待て、ちょい待て、キスしただけじゃねーかよ。テメ、オレのが強いって知って・・・っ」

「風鳥院流絃術・・・」

「だーっ！」

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