正義の味方
「バカでかい」だの、「冗談みてえだ」だのと子供たちに散々言われたシャングリラは、実際広い。
ドックにJUDA組のマキナを収容しても、一人一室部屋を与えられても、それでもまだ余裕があった。
その部屋の一つ、森次玲二にあてがわれた部屋で、桐山英治は側でネクタイを緩める親友に、あれから、・・・早瀬浩一がいなくなってから、ずっと気になっていたことを聞いてみた。
「なあ、僕のコト恨んでる？」
そうすれば、漆黒の瞳をちらりと向けた彼からは、当然とでもいうような声が返ってきた。
「お前のことを、いちいち恨んでいたらキリがない」
「・・・そういやそうなんだケドさ」
そこまでハッキリ言われると、しおらしい態度を取るのもバカバカしくて、英治はだらりと玲二の背中に懐いた。
あー、玲二のニオイだ。
シャツと首筋の間に鼻先を突っ込んで、服の上からしなやかな体の感触を愉しむ。
それを放っておく玲二はわかっているのだろうか。
こうやって、どこまでも赦してくれるから、僕はもう、君から離れられないってコト。
「ごめんよ。まさか、早瀬があそこで突っ込んでくるとは思わなくってさァ」
バカだバカだと思ってはいたが、まさかそこまでバカだったとは。
ボクの覚悟を返して欲しいよ、と、おどけた独り言を聞き流して、玲二はネクタイを抜きながら、肩に乗った英治の色素の薄い頭を見下ろした。
「何だ、そのコトか」
勝手にヒトのベルトを緩め、スラックスからシャツを引っ張り出す手を好きにさせて、玲二は切れ長の瞳をついと細めた。
「あれは、調子に乗った早瀬が悪い。・・・手綱を握っておけと社長に言われていたというのに、御し切れなかった私もだ」
そういえば、玲二は早瀬が来るって確信してたんだっけ。
それを思うと今でも頬が緩むが、だったら言ってくれても良かったんじゃないかとも思う。
まったく、なんでも話してくれた子供の頃が懐かしい。
手を突っ込んだシャツの下、体の中心を縦に走る傷跡に指を這わせると、玲二の息が少し震える。
玲二の感じ易さは折り紙付きで、時々、抱いてくれるんだら誰でもいいんじゃないかと本気で思う。
「でもサア・・・・」
片手で胸を愛撫しながら、もう片方の手でスラックスを引きずり下ろす。
腰を浮かせて大人しく脱がされてくれるから、機嫌はそう悪くはないのだろう。
なら、さっさとコトに持ち込むのが吉だとばかりに、現れた白い脚を片方掴み、開かせながら腰を抱き込む。
そのまま性急に愛撫を施しながら、英治は息の上がってきた玲二の耳朶に、息を吹き込みながら囁いた。
「でも、アイツはお前の『正義の味方』なんだろ？」
「・・・そうだな」
ふるる、と、背筋が震えたのは、耳への刺激よりも、脚の間へ触れた指のせいだろう。
内腿から性器へ、その根本をほんの少し掠るようにして、双丘の奥へ。
一番感じる、最奥へ。
そんな愛撫に感じながら、しかし玲二は黒い瞳をゆるりと細め、薄い唇をほんの少し歪め。
かすかな、しかしゾクゾクするような笑みを作って。
そうして、甘く、艶やかな声で、囁いた。
「『正義の味方』が、そうそう消えていなくなるワケがないだろうが」
うわぁ。
英治は、なんだかもうがっくりときた。
月基地破壊の時といい、コレといい。
どんだけこいつは、あのバカのことを信頼しているのか。
「それ、スッゴイ妬けるナァ」
呟いてから、英治は玲二の体を押し倒した。
ギイ、と音を立ててベッドが軋む。
着せたままだったシャツを剥ぎ取り、白い体にかぶりつく。
いいようにさせてくれる玲二の、面白がるような、愛おしむような視線を受け止めて。
彼と繋がるために、そのイヤラシイ中を、揃えた指でかき混ぜて。
これ見よがしに喘ぐ彼の、とろけるようなカオを見下ろしながら、英治は思った。
まあ、僕はべつに、正義の味方なんかもうどうでもいいんだケドね。
そういうのは、あのバカとか加藤指令とか、玲二とかに任せておけばいい。
「・・・英治」
まるで、英治の思考を読んだかのように、どこか咎めるような視線で玲二が見上げる。
まったく、どこまで読まれてるのやら。
それすらも楽しくて、英治は思わずニヤニヤ笑う。
「ゴメン、もう欲しい？」
「んっ・・・」
頷いたのか、喘ぎを殺しただけか。
判然としない呻きを一つ漏らした玲二は、しかし快楽に閉じられていた漆黒の瞳をつい、と開き。
そうして、そのさまを陶然と見下ろしていた英治を見上げ、赤い唇をわずかにつり上げた。
「焦らすな」
「・・・はいはい」
平然を装った声は、自分でもびっくりするくらいに上擦っていた。
されるがままに脚を開き、英治を受け入れる玲二は、何度見ても、どうしようもなくイヤラシかった。
そうさ。
ボクは、ボクの下で、しどけなく横たわる君がいればいい。
「あっ、ン・・・・」
深々と貫いてくる英治を感じて、ただただ喘ぐ玲二はイヤラシくてキレイだった。
絡みつく襞を無理矢理逆撫でするように引きずり出し、引き留めるように締め付ける入り口に、絞られる感覚を堪能する。
それから、喪失感に震えるそこを、またいっぱいに満たしてやって。
「はっ、あ・・・・」
玲二のしなやかな腕が、英治の首に絡みつき、引き寄せるのを感じ取り、喘ぐ唇にキスしてやる。
そうすれば、玲二のナカはいっそう英治を締め付けて、歓喜するようにさざめいた。
そう。
ここに、正義だ悪だは必要ない。
ボクに必要なのは、玲二だけ。
玲二だけなんだ。