事が終わった後でも、離れようとしないスザクの腕の中、ルルーシュはわざと邪険に言い放った。
「懐くな。暑苦しい」
「いいじゃないか。・・・・ほら」
そう言って、スザクは柔らかいキスをよこした。
その気持ちのいい唇が離れていくのを、ひどく惜しく思いながら、それでもルルーシュは文句を忘れない。
「何が、ほらなんだ」
「だって、気持ちいいよね」
すかさず言い返されて。
「・・・まあな」
それは認めざるを得ない事実だったので、うっかり認めてしまってから、ルルーシュは慌てた。
「気持ちよかったのは、キスの方だ。・・・・だから暑い」
「そのうち冷えるよ」
「・・・・熱い」
スザクの肌は、ルルーシュよりも、ずっと熱い。
その熱い体は、ルルーシュと変わらず細く見えるのに、随分硬くて強くてしっかりとして。
軍人の体なんだと、そう思って少し落ち込む。
「どうしたの？」
天然のくせに、こういうところだけは鋭いスザクに覗き込まれ、頬や耳元にキスされて。
言葉を探したルルーシュは、
「どうもしない」
と、呟くのが精一杯で。
その声のあまりの頼りなさに、歯噛みする。
この、暑苦しくて心地良い腕の持ち主に、本当の事が言えないのが、つらい。
そんなルルーシュの様子をどう思ったのか、スザクはその熱い腕でいっそう深くルルーシュを抱き込んだ。
「暑い」
「ごめん」
明らかに苦笑を含んだ声。
それでも腕は解かれずに。
「ねえ、ルルーシュ」
余計に、強く抱きしめる。
「僕、頑張って出世しようと思うんだ」
「もう少佐だろう、これ以上どうするんだ。ナンバーズで佐官になった奴なんか、他にいないだろ」
「う・・・やっぱり？」
スザクの情けない声。ざまあみろ。
「技術部だと言っていたことも、怒ってるんだからな。俺は」
「ごめん。機密だったんだよ」

機密。
だろうな、当然。
白い影が、ルルーシュの脳裏を過ぎる。
白兜。
まさか、お前があれに乗っているなんて。

「でも、僕は世界を変えたいんだ。・・・・君のために」
どこまでも、一生懸命なスザクの声。
ルルーシュは、言葉を失った。
「変えてみせるよ、きっと。君が、安心して生きていける世界に」

それは、ナナリーの言っていた、『やさしい世界』のようなものなのだろうか。
お前のやり方で、それが、出来ると本当に思っているのか？
それは不可能だ、スザク。

きつく目を閉じても、白い影は消えなかった。
ルルーシュを包む熱い腕が、消えないことと同じように。
「ルルーシュ・・・寝ちゃった？」
「・・・・・・」
黙っていると、熱くてやさしい指が背中を撫でて、髪に何度も口付けられるのがわかった。
それが、あまりに心地良くて。
本物の眠りに誘われながら、ルルーシュはほとんど無意識に、スザクの名前を呼んでいた。
「・・・・スザク」
「何？」
問い返されても、困る。
ただ、呼びたかっただけなのだから。
呼んで。
そうして、その存在を確かめたかっただけなのだから。

「なんでも、ない・・・・・」

そうして落ちた眠りの底を。
白い影が、濁らせる。