安売りなんてゴメンだぜぃ！！ 子わんこシン ルニャ来襲？！ 初出 2006/03/14

シンは子わんこです。 レイは子わんこですけどシンよりちょっとお兄さんです。 ルニャマリアは子猫です。 でもシンよりやっぱり、ちょっとだけ、お姉さんなのです。 ちょっとだけ。 だけど春という季節は、猫にとっては凄く特別な季節なのです。 子猫のルニャマリアにとっても…。 アプリリウスＣｉｔｙにある戦艦ドックに白くて綺麗で、大きな艦が停泊しています。 もう間もなく、宇宙空間へと発進するシンたちの艦隊の旗艦、『ブリュンヒルデ』であります。 休暇をご主人様と楽しく過ごしたシン達同様、他のクルー達も、家族と楽しく過ごして今日からお仕事なのです。 エアロックに繋がるタラップ前で、シンとレイはヴィーニャやヨウワンと久々に会ったのでお喋りなのです。 旦那様はもう隊長に戻って、ディアッカと一緒に軍の人とやっぱりお喋りです。 …いえ、出港前の手続き中なのですけどね。 「俺、ちょっと身長高くなったんだぜ。このつなぎも、もうじき買い換えなくちゃだな！」 ヨウワンがちょっと自慢げに言います。 ヨウワンは『ダルメシアン』って種類のわんこなんです。 当然、豆柴よりも大きいんですけど、シンは秋田犬になるつもりなので気にしません！ だって 秋田犬は世界一大きな犬ですから！ シンの知識の中では！ だから今はヨウワンのほうが大きくったって、最後には自分が一番大きくなるってシンは信じてます。なので、ちょっとムムムって感じの顔になっちゃってますけど、それは気のせいなのです。 ……シンの。 それはともかく、休暇中に何処に行ったとか、どんなことして遊んでたとか、皆がいろんな話題に花を咲かせていたら、 「シンっっ！！」 突然、誰かが大きな声でシンを呼びました。 可愛い女の子の声で、それでもってシンのこと、ちょっと偉そうに呼ぶのは一人しかいません。 「あ、ルニャ」 ドックの入り口で、逆光を浴びてルニャマリア登場！　なのです。 なんか本当に登場！って感じで、腰に手を当てて胸を反らして、超偉そうなポーズでシンの方を見ています。 シンも負けじと胸張ってみました。どーだー！！ そんなシンに、ルニャマリアは高らかに大！！　宣・言！！ 「シン！　この勤務中にアンタの貞操、奪っちゃうからね！　覚悟しなさいよ！！」 カココーン……… 静まり返ったドック内に、乾いた音。 獅子脅しじゃありません。隊長が、持ってたペンを落としちゃったんです。 「テーソーって、なんだー！！」 まだ偉そうポーズのまんまでシンが言い返します。 だって本当に分からないから仕方ありません。 「男の子の大事なモノよ！」 ええ？！ 「あたしのカンではレイはもう持ってないわ！」 ええ？！　レイは持ってない？！ って、 「なんで目を反らすんだよレイーッッ！！」 「ヨウワンも無いわね！」 えええ？！　ヨウワンも？！ って、 「こっち見ろよヨウワンーッッ！！」 「だけどヴィーニャは持ってるわ！！」 って、いきなりヴィーニャがシンに抱きついてきて、 「お互い大事にしような、シン！」 ……なんで泣くのか分かりませんけど？！ 「ヴィーニャ持ってんのか！？　見して！」 「いやーん！」 ヴィーニャ、変な声上げて泣きながらタラップを駆け上げって行っちゃいました。シンは呆然と見送っちゃいましたけど、ふと我に返って改めてルニャマリアと向かい合います。 このままではシンの大事な大事な大事な（らしい）テーソーを！！奪われてしまいます！ 「ドロボーは悪い子なんだぞ、ルニャ！」 「ばっかじゃないの！　これは罪になんないもんねーっだ！」 「や、強姦はまずいよなやっぱし」 「…強姦罪が犬猫に通用するならな…」 「ばかじゃねぇ！　ルニャの方がばーかばーか！」 「シンのチービチービ！」 「…どう見る」 「えーっと、…”互いのボキャブラリーの貧困さを競う合うわんにゃん”？」 「いい線だ」 なんてディアッカと話して、もうそっちには興味ないって感じで、まだ固まっているドック管理官と話に戻ろうとした隊長でしたが、 「じゃぁじゃぁ、隊長は持ってる？！」 「持ってる訳ないでしょー！とっくの昔にポイよ！ポイ！あたしのカンだと相手は年上の女性よ！」 ガッターンッッ！！ 隊長、頭からこけました。 「じゃぁじゃぁじゃぁ、ディアッカはー？！」 「ディアッカなんか、ドブに捨てちゃったー！みたいなモンよ！」 「なんで知ってる俺の過去？！」 子猫の爆弾発言に半泣きになる元ザフトレッド。 「そーならないように、あたしが貰ってあげるって言ってんのよ！　親切よ！」 更に胸張って再び高らか宣言のルニャマリア。 シンはもうどうしていいのかわかんなくってあうあう状態であります。 ピーンチ！！ その時です！ 「ルニャなんかに奪われたら、それこそドブに捨てんのとおんなじだぞー！　シン！」 と。 先ほど男の沽券を著しく傷つけられたヴィーニャが、エアロックの入り口から顔を覗かせて大声で反撃であります。 「にゃんですってー！！」 フカーッッ！！ たちまちルニャマリアのお目目がカッ！と大きくなり、爪が飛び出しました！ 怖い！　はっきし言って怖いのであります！ わんこたちはキャーキャーのワーワーで、ドック内を逃げ回り、ルニャマリアは戦艦内に逃げ込んだヴィーニャを追っかけて行ってしまいました。 ルニャマリアの怒鳴り声とヴィーニャの悲鳴がだんだん遠く小さくなって、わんこたちはようやく、各々隠れていた場所から元の場所へと戻ってきました。 「…困ったな、ルニャマリアは」 真っ先に冷静さを取り戻したレイが、深くため息をつきます。 「なーなー」 そのレイのお袖を引っ張って、シンが聞きました。 「レイのテーソーは、無いの？なんでー？」 「さ、今のうちに部屋に行こうか」 「なんでなんでー！？」 レイが何事も聞こえなかった振りでシンを無視するのは、レイのよく使う手なんです。 でもシンだっていつまでも誤魔化されませんよ！ しつっこく食い下がってレイに聞いちゃうんです！ 「…シン」 その内、根負けしたのかレイがシンの方を向いて、そっとその肩に前足を掛けて言いました。 「いいか世の中にはお前が触れてはならない、聞いてはいけない、話してはいけないことがいっぱいあるんだ。例えば隊長のお相手が年上の女性だったなんてことは絶対に元隊長には言ってはならない重要機密だ」 すげぇ！超かっちょいい！！ なんだか軍人さんみたいです！←子わんこは軍人です。 レイの話は難しいけど大人の会話〜ｖみたいでかっちょいいので、シンは知ったかぶってうんうん頷いちゃいます。 隊長が銀色の頭を抱えてますけど、シンには関係ナイナイナイ！　です。 「そういうわけだから、もうルニャマリアの言ってたことは気にするな」 さ、部屋に行くぞと促すレイ。 でも…子わんこ、やっぱり気になっちゃうんです。なので、ここはしっかり確認！なのです。シンは背負っていたナップザックを下ろしました。 これはご主人様が作ってくれたんです。赤い、シンの目と同じ色です。 お仕事に出かける時は、この中に着替えのパンツとかパジャマとかシャンプーハットとかアヒルさんとか入れてくんです。 ご主人様が入れてくれる、マル秘おやつ袋も入ってます。 もちろん、『あすランさん』は別ですけどね。 シンはそのナップザックの中をごそごそ、点検してみました。 出かける前に、ちゃんとご主人様と確認してるから、忘れ物なんてない筈ですけどでも でも、やっぱし『テーソー』も入ってません。 今日は持ってこなかったのかな。でもいつも持ってないと思うんだけどな うーん、と悩んで、シンが取り出したのは最終兵器！ 携帯電話です！！ なんと、シンは携帯電話が使えちゃうのです！　 子わんこのくせにとかあの肉球でどうやって？！とか突っ込んじゃいけませんよ。 何しろ『コーディネータードッグ』ですからね、シンは！　ＭＳにも乗りますしね！ 早速、ぽちぽちっとかけた先は当然、 「あー、アスランさん！」 で、あります。 「シン？　どうしたんだ？」 先ほど出かけたばかりのシンから携帯で連絡が入ったので驚いたらしいご主人様の声がスピーカーから聞こえてきます。 シンはお耳がくすぐったくなるので、受話器をお耳にくっつけてお話するのは苦手です。 なので、いつも携帯はスピーカーＯＮ状態なのです。 「あのね、アスランさん。俺、忘れ物しちゃったかも」 「忘れ物？　何を？」 「あのね、俺のテーソー」 ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… 「…はい？」 「あのね、ルニャがね、俺のテーソー奪っちゃうって言うんだ。だけど、俺、今持ってないんだよ。レイとヨウワンも持ってないけど、そうじゃなくってぇ、俺は持ってるけど今は持ってないんだって！」 ヴィーニャも持ってるよ！ 「大事な物なんだよ。俺の何処にあるのかな。アスランさん知ってる？」 「………………………………………………………………………………ルニャ………………………………………………………………………ルニャがお前の貞操が奪って大事なレイがなに？！！」 ご主人様のこんなに慌てた声を聞くのは久しぶりです。 「おおおおおおおおお落ち着くんだシン！冷静になってことに当たれ！分かるな？！」 「お前が落ち着け」 隊長、脇から突っ込み。でも電話の向こうのご主人様は聞いちゃいません。 「ちゃんとしまっとかないと、ルニャに奪われちゃうよ」 シンが不安そうに言うと、ご主人様は更に更に声を高くして、 「大丈夫だ！　お前の貞操は俺がちゃんと預かってるからー！！」 ………………………………………………………………………………… ………………………………………………………………………………… 「そっかぁ、アスランさんが持っててくれたんだね！」 じゃぁもう大丈夫だ！ 子わんこ、嬉しくってしっぽはパタパタしてしまいます。 「あー…ま、ある意味あってるか？」 「笑えん」 まだぎゃあぎゃあ言っているご主人様と、シンはうんうんお話中。 隊長はまたため息をついて、ディアッカに言いました。 「いい機会だ、ルニャマリア・ホークはコロニー２のファクトリーに向かわせよう」 「ああ、『ミケ』の微調整か？」 『ミケ』と言うのはルニャマリアの乗ることになった新型ＭＳです。 正式名称は『ニケ』ですけど、乗るのがにゃんこなのでミケってみんなは呼びます。 「シホを付けておけば問題はあるまい。…まぁ、時期が過ぎるまではな」 そう。 にゃんこの恋の季節が過ぎるまで…とにかく、艦内の秩序を守るのも隊長の…いえ、艦長の大事なお仕事ですからね。 「シン、そろそろ行くぞ。来い」 もうどうにも収集が着きそうにないパニック中のご主人様との電話を切り上げさせようと、隊長はシンに命令しました。 お仕事中は、隊長の命令はちゃんと聞かないといけません。 隊長は、前の隊長だったご主人様と違って命令違反してもお尻ぺんぺんしたりしませんけど、でも…もっと、おっかないんです。 「アスランさん、俺もう行かなくちゃ。俺のテーソー、ちゃんと預かっててよ」 「分かった！だからシン、ちゃんとパンツ履いて…いや、じゃなくっていいか！　とにかくルニャと２匹だけになったりとかそういう」 「じゃぁ、今度帰ったときに見せてね。バイバイ」 「……は？　見せ……って、シン！　待…っ」 プチｖと電話を切って、シンはそれをナップザックにしまいました。それからまたそれを背負って、『あすランさん』を抱っこして、レイたちと一緒に隊長の後に続いてタラップを上がります。 あと１時間もしたら、シンたちは星の海の只中。 今回のお仕事も、どうか無事に終わりますようにと 子わんこの大事なものが、守られますようにと。 星に、願いをｖ

そのタラップは、大人への階段なのだよ、シン…。