「あ・・・朔羅」

弟の部屋で、予想通りといえば予想通りの姿を見つけ、筧朔羅はため息を吐いた。

「花月・・・来ていたのね」

何故だか床に転がった花月は、こんにちは。などと言って笑っている。

正直、朔羅は花月がすごく好きという訳ではない。

その辺の基準が、どうも壊れている連中しか近くにいないのでなんとも言いがたいのだが、すごく好き、というわけではないのだ。

たぶん。

「うん、ごめんなさい。怪我が治るまでご厄介になろうかと。ＭＡＫＵＢＥＸと十兵衛にも許可は取ったし、見逃してくださいね」

よいショ、と起き上がって、背中ついた埃を払う。美しいものが好きなこの青年は、しかし自分に対しては時々ひどく無頓着だ。

仕方がないので朔羅は、長い（それこそ、朔羅よりも長い）髪に付いた、綿埃を取ってやった。

「あ・・・ありがとう」

言って、にこりと笑えるあたりが、彼の育ちの良さを、否応無く物語っている。

「十兵衛は、ＭＡＫＵＢＥＸのところ？」

「うん。でもそのうち怒られて帰ってきますよ。本当はもう少し安静にしていて欲しいんだけど」

そう言う花月も、おそらく「外」では絶対安静を言い渡されるであろう傷をその身に負っている。

そして、朔羅も。

「朔羅、怪我は大丈夫ですか？」

「ええ。あなたたちに比べれば、たいしたことではないわ」

「僕らと比べられても困るんだけどな。朔羅、女の人なんだし」

おそらく、いちばん酷い怪我を負ったのだろう、左肩に目をやって呟く花月の、その目の本当に見ているものを思って、朔羅はいたたまれなくなった。

その傷は、朔羅の弟の付けたものだと、知っていたから。

「ええと・・・ごめんなさい、朔羅。十兵衛に、あんな怪我をさせて。君にも・・・・」

「花月、あなた、気を使いすぎよ」

「そうですか」

「そうよ」

ああ、これだから。

朔羅は思った。

これだから・・・・

朔羅は花月がすごく好きという訳ではないのだ。

キイ、と音をたてて、背後の扉が開く。

「ああ、姉者、来ていたのか」

「十兵衛、おかえり」

「あなた、寝ていなさいと言ったでしょう・・・」

自分たちのことを、幼馴染、と、ひっくるめて呼ばれることがある。

便利な言葉だと、朔羅は思う。

すごく、好きでも、そうでなくても。

自分たちは、幼馴染なのだから。