プレゼントは何にする？
ああ、もうすぐはイザークの誕生日だな、と、アスランはカレンダーを見上げてそう思った。
ジュール邸のあるマティウスの住宅地では、過ごしにくくない程度に四季の変化が設定されている。
外では、夏の光がさんさんと降り注ぎ、イザークとシンの持ち込んだ蝉が、ジージーと勢い良く鳴いていた。
なんとなく、イザークにふさわしい季節だ。
そう思うと、少し、おかしかった。
もうすぐとはいっても、本人は今、１０万キロほど離れた小惑星のあたりで仕事中だ。祝ってやろうにも、帰ってくるのは、たぶん、２週間ほど先になるだろう。
何か、プレゼントしてやろうかなぁ、と、帰ってきそうな日付に視線をさまよわせながら、アスランは思う。
今週末に今作っている試作品を出したら、あとはプレゼン資料をまとめるだけだ。時間ならば結構ある。
手持ちの材料を思い浮かべ、昼食のレーションをかじりながら、アスランは動物園の熊のようにうろうろと居間を歩き回った。
その後を、「ナクゴハイネガー」と鳴きながら、イネガ掃除機が追いかけて落ちた食べかすをきれいにしていった。
ハロを作っても、なんだか怒られるだけだというのはさすがに学習しているので、何か、実用的なものを作ろうか。
シンの毛が落ちているのを気にしていたみたいだから、自走式の掃除機をもう一体・・・でも、これもなんだか怒られたんだよな。
シンの追尾機能を強化すればいいのかな。それとも、鳴き声を変えてみようか。
アスランは、ついてくるイネガ掃除機をじっくりと眺めた。
「ナクゴハイネガー！」
うん。鳴き声のために、イザークの書斎で資料を探してみよう。候補１、だ。
頷いて、ソファに座り込んで。レーションのカケラを、口に押し込んで。
それからふと、イザークの城であるところのキッチンを思い浮かべた。
それとも、また冷蔵庫を改造してやろうかな。
そう思いながら、レーションの最後の一口をごくんと飲み込む。
瞬間冷凍室付けたときには、なんだかやっぱり怒ってたけど、俺、知ってるんだ。
作りすぎたおかずは、必ずあれで冷凍してるんだってこと。
でも、解凍機能はもともと付いてたし・・・付けるとしたら何だろう？
俺、料理しないからわからないんだよな。ダメか。
レーションのかすのついた指を舐める。教育上良くないので、シンがいるときにはできない真似だ。
まあ、あの子はどっちにしろ肉球舐めちゃうんだけどさ。
子わんこのぶきっちょな肉球を思い出し、思わずにこりと笑ってしまう。
あのお手手で、でも、お手伝いするよぅ！って、イザークの後を追っかけたりするんだよな。
イザークの後を追っかけるシンと、その後を追っかけるイネガ掃除機を思い出し、更に、にっこり、にっこりして。
ええと、そうか。
ハロはハロでも、役に立つハロなら喜ぶかもしれない。
そうだなぁ。どんな機能がいいんだろうなぁ・・・・
また立ち上がって、カレンダーに向かい。
それからきびすを返して、居間を出て行く。
お掃除ハロ・・・は、イネガと一緒か。
食事をテーブルに出す時に、ワゴンになるハロとかいたら、便利かな。
でもそれって、形状的にハロでできるかな・・・？
ずんずんとずれていく思考のままに、アスランは考える。
足は勝手に、仕事場に向かう。
ワゴンはワゴンで、上にハロを付けて、蓋みたいにしたらどうだろう？大きすぎるだろうか。どうだろう。
大きいハロは、シンが怖がるんだよな・・・
仕事場のドアを開けて、作業机の上から、最近、ハロの外殻に使っている、シリコンゴムの切れ端を手に取って。
家事にこだわることはないかも知れないな。あいつが喜べばいいんだから。
でも、あいつの喜ぶもの、喜ぶもの・・・
自分の「旦那様」の顔を思い浮かべて。
彼が、喜んでいる顔を、思い浮かべて。
何故だか、やたらと嬉しくなって、にやけた顔を、ぺちんと叩く。
一人でにやにやして、不気味だろう、俺。
でも。
でも、と思って、アスランは机の上にジャンク箱をぶちまけた。
何を贈ろうかと考えるのって、凄く楽しい。
何をしたらあいつが喜ぶかって考えるのは、少し困って、それから凄く凄く、楽しい。
貴重品の真空管。これで何か作ったら面白がるかな。
製造番号の削られたスターター、これで強火力ライターとか・・・怒られるな。やめておこう。
うきうきしながら、傍からみれば、ガラクタの山にしか見えないお宝をかき回して。
アスランは、楽しい考えに没頭していく。
愛する人を、祝うために。
愛する人の、笑顔のために。
それは、とてもとても楽しいこと。
とてもとても、大切な、こと。
やがて、こくんと頷いて。
アスランは材料を漁り、足りない物をメモしながら、頭の中で設計図を描いていった。
それはやっぱり、とてもとても、楽しい作業だった。
結局、作ったのは携帯電話だった。
ザフトと連合、それから民間の中継基地を拝借して、人類の進出範囲内ならば、ほぼ９０パーセントをカバーできる優れものだ。
これで、仕事でちょっと遠くに出かけているときだって、「誕生日おめでとう」くらいなら言ってやれる。
知ってるんだ。
イザークは、下手な物をもらうよりも、結構そういうのに弱いんだってこと。
俺の一言で、一喜一憂一怒する、可愛い奴だってことを。
プレゼントを贈ったその日。
アスランは、凄く凄く怒られて。
そうして、凄く凄く、愛された。