チューは甘いけどあんまんじゃないぜ！
ぽふぽふｖ
初出 2006/07/20


白いまふまふからはいい匂いがします。

白いまふまふは、ぽふぽふです。ほかほかでもちもちなのであります。

最近の、シンのお気に入り。
おっきな肉まん。
まふまふの肉まん。
もっちもちの皮を、シンはぽふんとお口に頬張ります。
シンのほっぺもまふまふー。
おいしいです。
シン、ご満悦ー！ 絶好調ー！
「シン、それね、ぜーったい！　カロリーオーバーだから！」
なのにそんなご機嫌のシンに、ルニャマリアったら難しいこと言うんです。
「確かに。それに、食べきれないだろう」
って、レイも。
「ちゃんと食べるよ。残さないもんね！」
だからそれが問題なんだって、レイは溜息。
食べ物を大事にするのはいいことです。子わんこ、えらいですね。
でもシンはカロリーに気をつけないと、またすぐダイエットしなくちゃいけなくなっちゃって、大好きなアイスだって食べられなくなっちゃうのに。
「シン。そういうのは買い食いと言って、あまり感心出来ることではない」
「ふーん」
「……あんまり、いいことじゃないってことだ」
「えー？」
だって美味しいのにー。
「レイだって、ラーメンおいしいって言ってたじゃん！」
それはそだけど…とレイは珍しく口ごもってしまいました。
「レイも食べたの？そのお店で」
すかさず突っ込むルニャマリアに、レイ、ますます困り顔。
「…２回ほど」
「レイが美味しいって言うなら、本当に美味しいんだ」
「おいしいよ！」
「…あたしも、行ってみよっかなー」
え？！　あの現場の男達が集う場所に？！　コーディネイターキャットの、しかも女の子のルニャマリアがですかー？！
レイ、ちょっと眩暈…。
「じゃぁ、明日いっしょに行こう！」
シンはそんなことまったく気にしないので、すかさず便乗です。
それに明後日には、またブリュンヒルデでのお仕事になるのでお店に行けなくなっちゃうし。
「じゃぁ、明日のお昼ね」
「いや…ルニャ。あまり女の子の行くようなお店ではないと思う」
「女の子は、ラーメンダメだって。じゃぁルニャはちゃぁはんがいいと思うぞ」
「いや、そういうことではなくて」
「そっかー。やっぱしカロリーオーバーよねー」
「…そういうことでもなくて…」
シンとルニャマリアの調子が揃ってしまったら、レイ一人では突っ込みきれません。
「それちょっと味見させてよ」
そんな困惑のレイには気付かず、ルニャマリアはシンの肉まんを指しておねだり。
「いいよ。はい」
って。シンは食べかけの肉まんをルニャマリアに差し出します。
子猫のルニャマリアのほっぺが、ちょっぴり赤くなったんだけど、シンは全然気がつきません。
ルニャマリアは一口、肉まんを食べます。
ぱふん。
「あ、本当に美味しい！」
ってルニャマリアが言って、シンはちょっと胸張っちゃいます。当然です。シンの好きなおやっさんの作った肉まんですからね！
「…シン、あまり無駄遣いするのは、いけないことだ」
レイは別方向から攻めてみることにしました。
「むだづかいって？」
シンのキョトンとした顔に、レイとルニャマリアは思わず顔を見合わせてしまいました。
「…シン、それ、買ったんだよね？」
ってルニャマリアが聞けば、
「買ったよ！」
って、シンが。
「…どうやって？」
ってレイが聞けば子わんこ、
「ちゃんとこれ見せたもんね！」
そう言って、ご主人様お手製の赤い前掛けの裏にあるポッケから出したのは銀色のプリペイドカード。
「…シン、買い物のシステムは、分かっているか？」
レイ、恐々。隣で「いくらなんでもそのくらい知ってるわよぅ！」ってレイに突っ込むルニャマリアの声は何処か半信半疑に聞こえて。
「知ってるよ！これ見せたらいいんだろ？俺の名前、書いてあるもん。誰が買ったか、分かるじゃん！」

アカデミーの頃、シンは信じられないことに特待生でした。
シンが欲しいものは、大抵揃えられました。
その頃のシンには、あんまり欲しいものってなかったんですけどね。

本当に欲しいものは、もう絶対、誰にももらえないって、シンは分かっていたので。

途中、レイの元のご主人様に一時お預かりになったこともございまして。
それからザフト軍に入ってすぐ、元議長の計らいでミネルバ艦長にお預かりになりまして。
それからよりにもよってあんまり金銭感覚のなさそうな元隊長がご主人様になってしまいまして。
つまり、アレですよ。
シンはお金に不自由したことはございません。
…って言うか

「…シン、プラントの通貨って知ってるか？」
「えーっと…携帯電話」




そりゃツー●ーだーっっ！！









定期的に送信されてくる領収データは、カードの持ち主の行動を把握しきるのに充分な情報を隊長に与えてくれます。
いつの何時にどこで何して何買った。とか。
シンは、ザフトの軍犬ですので、お給料は出るけどそれを管理するのはご主人様です。
でもそのご主人様はシンの隊長である旦那様の奥様で、しかもお金に関してはまったく！普通の感覚をお持ちではないので、シンのお給料の管理は隊長 がしています。
この間、お休みの時に突然家に届いた荷物。
それは最近プラントで流行のエアポケットバイクでした。
エアポケバイは公式認定されているモータースポーツです。
半径1ｋｍの重力ドームの中に描かれるランダムなコースに沿ってスピードを競い合うのです。
結構ハードで、しかもドーム外では１５ｍまで上昇が可能なのでスーパーライセンスが必要になります。
そんなエアポケバイの、しかもプロ仕様の人気モデルが届けられたので、隊長はてっきりご主人様が買ったのかと思ったら。
犯人はなんと！子わんこのシンでした。
シンが乗ったらそれはもうポケバイじゃありません。
極々普通の(子わんこジャストフィットサイズ)バイクです。
おおはしゃぎのシンに、これはどうしたと聞いたら、
「お店で、かっちょいい！って言ったら届けてくれるって言ったんだもん」
だって！
隊長、思わず眩暈で傾きました。
これが子わんこシンの最初のお買い物であります。
銀色のカードを持たされてはいるものの、具体的にどうするのかなんてシンは知りません。
勿論、持たせている隊長の方は、それくらい当然知っているものと思っていたんですけどね。
それからシンは、カードをお店の人に見せれば(実際は渡せば)欲しいものがもらえることに気がついて、アチコチでちょこちょこお買い物？しているのですが。

「…この３０ＰＧだの５０ＰＧだのという鼻クソみたいな購入金額はなんなのだ？」
「シンだろ？　ガムとかチョコだな。おチビ共でよく菓子屋とか行ってるみたいだし」
ディスプレイに表示される数字の羅列を見て困惑顔の隊長に、ディアッカが言います。
「俺の作った菓子では不満だと言うのか？！」
「じゃなくってー。子供ってのはチープな味に惹かれちゃうモンなんだよ」
これでは隊長がどんなにカロリーの低いお菓子を作ってあげても意味がありません。
「…とは言え、そこまで規制すればストレスの素だしな…」
隊長、深く椅子に凭れて、深〜く溜息。
管理職は大変ですね。
「ん？」
データを見ていて隊長はふと気がつきました。このところ毎日、決まった時間帯…おやつの頃に、シンは300ＰＧ出してお買い物しています。
ここ、ザフト軍本部内で。
なにかなって、隊長はお店のコードを調べて…また、溜息。
そこが本部の地下にある、知る者ぞ知る名店であることに気がついて。
小さいガムだのチョコだのはともかく、ここで買う物を食べているなら明らかにカロリーオーバーでしょう。
「出かけてくる。急用ならコールしろ」
隊長はディアッカにそう言って、隊長服を脱いでラフな格好で執務室を出て行きました。
ディアッカ、ディスプレイを覗き込んで、納得の顔。
「おチビだけど、舌は確かじゃん」
ってね。




子わんこシンは本日も、おいしいまふまふの肉まん買いにおやっさんの店へ。
いつものようにカードを見せて、いつものように肉まんの入った袋を渡してもらって。
でも。
あれ？
なんだか変。袋がいつもより軽くて小さいのです。
シンは、おやっさんに渡された袋の口を開けて中を覗き込んでみました。
そしたらそこにあったのは、いつのも白くておおきな、ぽふぽふの肉まんじゃなくって。
もっとずっと小さい肉まんになっちゃってますー！

子わんこショーック！！

「これじゃないよ！　大きいのだよ！」
ってシンがおやっさんに言ったら、おやっさんは
「同じさ。坊主が食べやすいように少し小さくしたけどな。ほら、これなら持ちやすいし、腹がぱんぱんになって苦しいってことはないだろ？」
って。
シンはちょっと考えました。
確かにこれならシンでも無理なく食べ切れます。それに、持って行く時にひきずったりもしないですしね。
「じゃぁ、あと４つ持ってく」
「４つか」
「うん。ルニャもおいしいって言ってたよ。レイとヴィーニャとヨウワンのも」
って言ってから、シンはまたちょっと考えて。
「やっぱ、あと、7つ」
「７つか」
「うん。ルニャとレイとヨウワンとヴィーニャと、隊長とディアッカとアスランさんにも！」
指折り指折り。
って、子わんこは全部で８つの肉まんを買いました。
小さくなっっちゃったけど、みんなで食べるまふまふはやっぱりぽふぽふで美味しいと思うので。
いつものリクライニングルームで、早速４つはレイたちにあげて。
みんなで仲良くいただきました。
あったかい肉まんは、やっぱりとっても美味しいです。
それから、シンは残り３つの入った袋を持って、隊長のいるお部屋に行きました。
隊長は、本部ではすごーく広くて大きなお部屋にいるんです。そこで忙しくお仕事なのです。
隊長がお部屋でお仕事している間、シンたちＭＳパイロットは本部の訓練施設で訓練したりとかします。
シンは現在、プールで潜水の特訓中。
潜水の訓練なんて、パイロットには必要ないんじゃないかって？
いえいえ。
パイロットスーツがちゃんと閉まるようにするのも、パイロットの任務ですからね！
「隊長肉まんー」
ディアッカもー！
って。ノックもしないでお部屋に入ってきたシンを、隊長は別段怒りません。
子わんこのすることですから。
立派なデスクに座って、難しい顔で書類をチェックしてる隊長の代わりにディアッカが袋を受け取ります。
「1個はアスランさんのだから。俺持ってくから」
「馬鹿か。アスランのところへ持って行くまでに腐るわ」
って、書類を読みながら隊長が。
「やだー！」
まふまふでほかほかで、甘くて美味しい肉まんなのに。腐っちゃったら臭い臭いで食べられませんよ！
「……冷凍保存しておいてやる。置いていけ」
べそかき子わんこにそう言って、隊長はにやにや笑うディアッカから肉まんを受け取ります。
小さいサイズになったぽふぽふ肉まん。
シンが、こっちをじーっと伺っているのが隊長には分かりました。
なので肉まんを一口食べて、ゆっくり味わって。
「…うまいな」
やりぃ！
それを聞いて、シンは得意顔。
「肉まん、俺がアスランさんに渡すんだからね！ちゃんとレートーしてね！」
「分かっている」
隊長が請け負ってくれたので、シンは満足そうに頷いてさっさと行っちゃいました。
「買い食い、やめさせるんじゃなかったのか？」
「ふん。その分しっかり運動させてやるさ」
今度帰った時、ご主人様はきっと美味しく肉まんを食べてくれるでしょう。

白いまふまふの、ぽふぽふあったかい肉まんは、小さくなってもシンのお気に入りであります。
















※ＰＧ(プラントギル)は勝手に作った通貨です。相場は日本と同じと考えてください。だはー。




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