Pass Time 2
やっと泣きやんだアスランを、シンは議事棟内にある、仮眠室に引きずっていった。
アスランがいつも使っているという部屋には彼の私物が揃っていて、ほとんどここで生活していることが伺えた。
シンはそのことにも腹を立てながら、アスランをベッドの上に放り出す。
「とにかくアンタ休んだ方がいいですよ。疲れてるんでしょ？だから涙腺弱くなってんだろ？」
「・・・いや、欲しい」
「何？水？メシ？めんどくさいのだったら誰かに頼んでく来るけど」
優しいのかそうでないのか解りづらいシンの言葉に、アスランはむっとして言い返す。
「ここで欲しいと言ったら、おまえ以外に何があるんだ」
・・・・は？
ぽかんとしてしまったシンの腕を握る力を強くして。
アスランは、少し赤くなった瞳でシンを睨む。
「だいたい、俺は今夜はするつもりであそこで待ってたんだからな。お前が相手を伸して来たんなら、お前が相手をするのは当然だろう」
「そーゆー言い方やめてくださいよ！」
思わず怒鳴って口をつぐんで。
それから少し、考えて。
「あの、俺、答え聞いてないんですけど」
少しだけ大人になったシンは、少しだけ、大人の態度でアスランに問うた。
「ヨリ、戻してくれますか？」
「・・・・・聞くな」
「ズルイですよ！」
しかしすぐに子供の声で、きゃんきゃんと喚きたてて。
「戻してくれたら抱いてあげます！ダメなら・・・っ、えと・・・っ」
抱いてあげません、とは言い切れず、シンは上目遣いでアスランを見た。
その顔のあまりの情けなさ。
いくつになっても可愛い、アスランの・・・恋人。
「・・・わかったよ」
アスランの声が変わったことに、シンは気がついた。
腕を握る手の力。
わずかに細められた緑の瞳。
その、柔らかな光。
「戻してやる。・・・だから、抱いてくれ」
「はい！」
晴れやかに頷いて、シンは、大好きな人をそのままベッドに押し倒した。
「アスランさん、痩せた？」
詰襟の議長服を引き剥がし、長くなった髪の絡む首筋に口付けて、シンはちいさく問いかけた。
ゆったりとしたデザインの服で誤魔化されていたが、そうやって目の当たりにすると、それは一目瞭然で。
「ん・・・そうか？」
しかしアスランは気のない声でそう返し、それよりもっと、と、シンの頭をかき寄せる。
シンの唇は、気持ちよかった。
シンの手は、気持ちよかった。
他の誰かなどとは、比べ物にならないくらいに・・・気持ち、良かった。
「だってさ・・・うわ、アバラ」
胸をあらわにすれば、うっすらと浮いたあばら骨が目に入る。
自覚がないらしいアスランに、教えるように撫でてやれば、ひくんと薄い背が浮いた。
「ぁっ・・・・」
上がる、艶めいた声。
それをなんとなく痛々しく感じながらも、シンは愛撫を深くしていく。
痩せてはいても、皮膚の滑らかさはシンの知るアスランのもので、その心地よい触り心地にうっとりして。
触れれば上がる、甘い声。
震える肌。
上がっていく、体温。
それは、シンの知っているもの。
ずっと、シンの欲しかったもの。
大好きなアスラン。
その、体。
「シ、ン、焦らすな・・・・」
ああ、うん、思い出した。
アスランの濡れた声に、苦く笑いながらシンは思う。
シンと付き合ってた頃から、アスランさん、すっごくイヤラシイ体してた。
それに、幼いシンは夢中になってしまったのだけれど。
このイヤラシイ人が、男なしでいられるわけ、なかったんだよなぁ・・・
悔しいけれど。
ものすごく、嫌だけれど、アスランの行状も、仕方のないような気がして。
「そんなに、俺のこと欲しい？」
それでも意地悪な気分で聞いてみると、欲に濡れた緑の瞳で、迫力満点に睨まれた。
「あたりまえだ・・・っ！」
うわぁ。
しかも、答えは想像以上のもの。
「・・・・わかりました」
そう言われては、シンだって頑張るしかない。
アスランの、半分下ろしかけていたズボンを引きずり下ろし、下着を押し上げ始めていたものを引っ張りだして。
「ち、がう・・・・」
そっちじゃない、との抗議をハイハイといなしながら、ぱくんとくわえてたっぷりと舌を絡める。
とたんに細い腰が跳ねて、うっかり喉を付かれて、慌てて離し。
「もう、ウッカリ吐いちゃいますよ」
「言うこと、聞かないお前が悪い」
息の上がったアスランの、かすれた声に抗議して。
「アンタの言うこと、いちいち聞いてたらキリないじゃないですか」
それでも、言われたとおりに、とばかりに、後ろに愛撫を移していく。
いろんな男に愛されたアスランの体は、シンの指など簡単に飲み込んで、蠢いて。
「すご、ヤらしい」
「んっ、何、今更・・・」
「・・・ですよね」
なら、と、指を深くすると、大きく開かれたアスランの脚がひくんと跳ねた。
それにうっかり蹴られないようにするのは、シンにはもう手慣れたもの。
「い、あ・・・・・」
「いい？指だけなのに？」
指を増やして探ってみても、そこは難なく飲み込んで、包んで絡んで締め付けて。
それにも、シンがいない間の男の数を感じてしまい、シンはやっぱり悲しくなった。
「馬・・・鹿、さっさと、しろ」
そんなに触ってもいないのに、すっかり勃って濡れているモノ越しに、きつく睨まれると、怖いよりも、卑猥な印象が先に立つ。
「さっさとされる方が好き？」
「シ、ン・・・・」
「前は、いっぱい触られるの、好きだったのにさ」
仕方ないことはわかっている。
自分が、２割くらいは悪いことも。
それでも、ムカムカくるのが止められなくて、シンは乱暴にアスランの脚を抱えあげた。
イヤラシイそこに押し当てたシンのモノは、もうすっかり準備ＯＫになっていて。
それでも、こんなに欲情してしまう自分も、情けない。
「・・・・この、馬鹿」
しかし、やさぐれ始めたシンの頭を、アスランはぎゅっと抱き締めて。
年下の恋人の、熱い体温と、懐かしい匂いを、いっぱいに、感じて。
「こんなに欲しいのは、お前だけだ」
そう、甘く囁かれて、単純なシンの機嫌はたちまちのうちに治ってしまった。
「そんなこと言われたら・・・もう、アンタって人は！」
騒ぎながら押し入ると、アスランの中は、嬉々としてシンを迎え入れて、締め付けた。
「んっ・・・んぁ・・・・・あ」
体内に感じるシンの熱に、感じ入って喘ぐアスランは、いっそうきつくシンにしがみついて。
たまらない、とでも言うかのように、シンにあわせて腰が揺れて、熱い中はきつく緩く、絶妙なうねりでシンを翻弄して。
そして。
「それ、に・・・・」
うっかりもって行かれそうな一瞬を、なんとか堪えたシンの耳朶に、甘い声が、いたずらっぽく囁いたのだ。
「こんなに締めても、オチないのは、お前だけだ、ぞ」
痛い苦しい締まってる。でもいつものことだし感じてる証拠だし、と思って我慢していた、首に回ったすべらかな腕が、もっときつくなって。
「・・・・この、オトしてやるー！」
久しぶりだからやさしく、なんてことを考えていたシンは、その一言で完全にキレて、骨の浮いた腰を、がつがつと激しく突きはじめた。
それこそが、アスランの欲しかったもの。
いつもいつでも一生懸命な、可愛い、恋人。
血が下がっているところで締められて、二回くらいオチかけたけれど、それでもシンは頑張った。
頑張って、アスランを気持ちよくさせた。
もう、俺だけにしてくださいよって、何度も言って頷かせて。
そうして、シンに満足して、腕の中でとろんとしているアスランに、ずっと聞いてみたかったことを聞いてみた。
「アンタさ、議長の仕事、嫌い？」
「そんなわけないだろう」
即答されて、そっかと呟く。
「俺は、プラントが好きだから。だからプラントのために働けるなら、何でもするよ」
「あんな気晴らししてたくせに・・・」
低く唸るようなシンの声に、アスランは怒気をはらんだ声を上げた。
「それは」
しかしすぐさま言葉を切って。
下を向いて、それからまた顔を上げた。
さっきとは、違う顔だった。
シンをぶん殴ってた上官の顔でも、堂々と演説する議長の顔でも、シンの下で、あんあん言ってた顔でも、なかった。
「俺だって、化け物じゃないんだ」
どういう意味だよ、と、シンは思った。
思ったけれど、すぐにわかった。
化け物みたいに強くてタフなアスランだって。
たまには、弱くなる時があるってことじゃないかな。
たまには。
誰かに慰めて欲しくなったりするってことじゃ、ないかな。
「じゃ、これからは俺が慰めてあげますね！」
言った声が、自分で思ったよりもはしゃいでいたので、怒られる、と身構えたけれど。
「・・・期待してるよ」
アスランの声はやさしくて、シンは少し、驚いた。
「え、あれ？怒らないんですか？」
「・・・・おい」
アスランは、昔よく見た、仕方なさそうな笑い方をしていた。
シンは知っている。
これは、愛しいものを見る目だ。
「俺が、お前に期待しちゃいけないのか？」
「いいえっ！」
今度は、きっぱりはっきりはしゃいだ声で。
ぎゅっと、大好きな人に抱きついて。
シンは、幸せをいっぱいに噛みしめた。
良かった。
このひとのこと、ずっと好きで良かった！
「とりあえず、国防委員長に言って、辞令を作ってもらわないとな」
だから、そう言われて、ああそうか、もうザフトにいられなくなるんだっけ、と思っても、そんなに惜しいとは思わなかった。
なのに。
「ボディガードくらいつけろって、ずっとうるさかったからな。イザークも多少の公私混同は許してくれるだろ」
「え、ホント？いいの！？」
ぱっと笑った恋人に。
「あいつが許しても、まわりがどこまで許すかわからないがな」
「大丈夫です！今度も実力で認めさせますから！」
ああ、そういえば、と、アスランは思った。
シンも、デュランダル元議長に付いていた件で、いろいろあったんだった。
こっそりともみ消したり消せなかったりしたあれやこれやを思いだし、そっと息を吐く。
それを、結局実力で認めさせてきたのは、シンも、アスランと同じ。
「じゃあ、俺ももっと頑張らないとな」
頑張って、認めさせないとな。
この、可愛い恋人のことを。
「ほどほどにしてくださいよ！」
「わかってる」
でもきっと、もっと頑張れる、と、シンにキスをしながら、アスランは思った。
かなしい気晴らしは、もう、しなくても良いのだから。
終