お休みなんだよ！
アスワンは、コーディネイタードッグです。
柴犬の、コーディネイタードッグです。
アスワンは、軍でお仕事をしています。
フェブラリウス３にある情報部の分室で、データ分析したり報告書取りまとめたり、備品の補充したり備品のエアカー直したりパソコン直したり盗聴器直したり改造したり・・・
そんなことを、しています。
でも、今日はお仕事お休みです。
連休なんだよ！
だからね、ずっと「来てね」って言われてる、お友達のお家に遊びに行くんです。
お友達のシンのお家は、マティウスにあります。
ちょっと遠いので、お泊りなんです。
「アスワンさーん！」
シャフトエレベーターを下りると、すぐに、茶色い子犬にぴょんっと飛びつかれました。
「こんにちは、シン」
「うん！こんにちは！」
シンは今日も元気いっぱい。
かわいいなぁ。
「こっちだよ！」
にこにこアスワンのお手手を引いて、シンは後ろで待ってたご主人様たちの方に引っ張っていきます。
「良く来たな」
ジュール国防総監は、あたり前ですけど軍服じゃありません。
それでも背筋伸ばして敬礼しちゃったアスワンに、国防総監は、
「俺も休暇だ。敬礼はするな」
って言ってくれました。
いい人だなってアスワンは思いました。
それから。
「こんにちは」
その後ろにいた人が、かけていたサングラスを取りました。
そのお顔を見て、アスワンはびっくりしてしまいました。
うん。まあ。
覚悟はしてたんですけどね。
シンは、自分のご主人様を、「隊長」じゃなくて、「アスランさん」なんだよって言ってたし。
「アスランさん」とアスワンは、シンが間違っちゃうくらいそっくりだっていうし。
アスワンはね、よくね。
「アスラン・ザラ」に良く似てるって言われるんです。
て、いうことは。
サングラスの下から現れたのは、アスワンそっくりな翠の瞳。
でもね、ぴんと尖ったお耳が無くてね。
テレビとか、資料とかで見たお顔なんです。
「はじめまして」
だから、アスワンはぴんと背筋を伸ばして、それから敬礼をしそうになった手を引っ込めて。
その代わり、ぺこんとお辞儀をしました。
「はじめまして。・・・・うわ、ほんとにそっくりだな」
「そうですね」
シンのご主人様、にっこり。
アスワンもにっこりです。
その間で、両手に花ｖなシンも、もちろんにっこにこ。
「乗れ。うちは少し遠いからな」
向こうで、国防総監がエレカのドアを開けてます。
「あ、運転します」
てててっと駆け寄ったちいちゃいアスワンに。
国防総監は、『出来るのか？』とかは聞かないで。
「だから、俺は休暇中だ。友人の送り迎えくらいするさ」
って。
「あけてー！」
アスワンよりもっとちいちゃいシンは、エレカのドアが開けられなくて、ぴょんぴょん飛んじゃって。
「あ・・・ほら」
アスワンが開けてあげると、ぴょん、ってエレカに飛び乗りました。
「アスワンさんもー！」
それからピンクの肉球のちいちゃな手を、元気いっぱい差し出して。
アスワンは、にこにこしながらその手を取って、「お願いします」ってエレカに乗り込みました。
国防総監のお家はとってもでっかいお家でした。
お庭も広くって、門をくぐっても、まだエレカで走るんだよ。
居間に通されると、前に会った秘書官のレイって子が、お茶とお菓子を出してくれました。
「ありがとうございます。・・・・えと、これ」
アスワンも、お菓子持って来ました。
シンはアイスが好きって言ってたけど、お土産にアイスは溶けちゃいますからね。
だから持ってきたのはチョコチップのいっぱい入ったパウンドケーキ。
「わーーｖ」
大喜びのシンに、アスワンさんも嬉しくなっちゃう。
「お口に合うといいんですけど。いつもはブランデー漬けのドライフルーツで作るんですけど、シンはお酒が駄目だと思うから。チョコチップは初めてなんです」
「「手作り！？」」
「てづくりーーｖｖ」
「へえ、凄いな」
何故だか国防総監とその秘書官が固まって。
シンはもっと大喜びｖ
シンのご主人様は、素直に感心しててね。
「切ってー！」
シン、もらったパウンドケーキを、旦那様に、はい。
それを受け取った旦那様、じーっとそれを観察します。
見た目は、普通のパウンドケーキです。
厚手のラップに包まれて、白い箱に入っててね。
程よく焦げたチョコの、香ばしい良い匂い。
「わかった」
旦那様、慎重にそれ持ってキッチンに向かいます。
「すみません。切って来れば良かったですね」
もの凄く上の上司にケーキ切ってもらって、アスワンは、少し申し訳なさげ。
「いいんだよ。イザークはこういうこと好きだから。なぁ？」
「・・・・ああ」
ご主人様の言葉にも、旦那様、上の空で答えて、ケーキを切ります。
切っても普通の・・・美味しそうな、パウンドケーキでした。
それを一切れ摘み上げ、意を決して一口食べると。
「・・・・美味いな」
素人づくりにありがちな、固さも粉っぽさもありません。
しっとりとしたココア生地が、ちょっと甘すぎるのは、たぶんシンの味覚に合わせたせい。
「隊長ずるい！」
キッチンの入り口で、シンはぶーぶー猛抗議！
「うるさい！・・・レイ」
旦那様、ケーキのお皿を、カウンターの向こうで心配そうに見ていたレイに渡します。
「大丈夫だ」
重々しい国防総監のお言葉に、レイはほっとして、そのお皿を運びました。
「いただきまーす！」
シン、もの凄く良い子にいただきますして、アスワンさんのパウンドケーキ、食べたよ。
「おいしーいｖ」
「ああ、美味しいな」
「・・・美味しいですね」
「ありがとうございます」
みんなに揃って褒められて、アスワンは嬉しそう。
「顔は同じでも、料理の腕は大違いだな」
ぼそりと言った旦那様。奥様それを聞き逃さず。
「何か言ったか？」
「顔は同じでも、料理の腕は大違いだと言ったんだ」
「どういう意味だ！」
「そのままだ！！」
「お二人とも」
冷静なレイにたしなめられて、ご夫婦は慌てて口をつぐみました。
お客さんの前で、みっともないですね。
「・・・しかし、本当にそっくりだな。シンに聞いてはいたんだけど、ここまで似てるとは思わなかった」
「はい。自分もです」
「料理の腕は似とらんがな」
「まだ言うか！」
確信犯で混ぜっ返した旦那様に、奥様がしゃーっ！っと噛み付きます。
『コワンコツクシンボー！』
その上、ツクシンボハロが床を転がってきて。
「うるさくてすまないな」
「いいえ。・・・・シンのお家は楽しいね」
「うん！」
にっこり笑ったアスワンさんに、両手でケーキ鷲掴みー！の子わんこ、ほっぺにチョコくっ付けたまんま、元気にお返事。
そんな可愛らしい子わんこに、ご主人様もにっこにこ。
『コワンコツクシンボー！ツクシンボーー！！』
賑やかなジュール邸のダイニングを、賑やかなツクシンボハロが、ころころと転がっていきました。
旦那様が腕によりをかけたお夕食の後。
奥様とアスワンさんと子わんこは、ツクシンボハロを囲んでハロ談義。
「俺、このシリーズ好きなんです。製作者の方にお会いできて嬉しいです」
「ありがとう。でもよくラクスにダメ出しを食らうんだよなぁ」
「キシャマハロもいるんだよ！」
「へえ、見てみたいな」
楽しそうな三人を眺めて、旦那様はなんだか不思議な気分です。
でも、それは悪い気分じゃなくて。
むしろ、ちょっといい気分。
旦那様は、子わんこのお嫁さんを探してました。
それで、アスワンさんを捕まえなきゃって思ってました。
でもね。
捕まえるとか、そういうんじゃなくてね。
「・・・こらシン。寝るなら風呂入ってからにしろよ」
「やだー」
「シン、遊ぶなら、もう明日にしよう？」
「むー、やーー」
「じゃあ、シン。風呂は三人で入ろうか」
「アスワンさんもお風呂？」
「うん。アスワンさんとお風呂だ」
「いいんですか？」
「アスワンさんとお風呂―！」
「レイ、イザーク、先入ってるぞ」
ばたばたと、出て行く三人を見送って。
旦那様は、そっと目を細めました。
それから。
こんな気分になるなんて。ちょっと年とっちゃったかなぁとか思って。
ちょっと、笑いました。
レイは、秘書のお仕事に就いてから、二階に一部屋もらっています。
だから、アスワンさんはシンのお部屋。
ベッドおっきいから、一緒に寝ようねって。
仲良しこよし、子わんこ部屋に消えて。
旦那様と奥様も、ベッドルームで一緒のベッド。
お声を気にしていちゃいちゃです。
「・・・あの子」
「ああ」
いくら史上最強の天然ボケとはいっても、奥様だって元ザフトレッド。
成績では、旦那様だって負かせていたんですからね。
「父上の仕業かな、やっぱり」
「だろうな」
やっぱり、わかっちゃうよなぁって、旦那様。
「俺は、正直お前の親父は嫌いだがな」
「うん」
しょうがないねって頷く奥様。
でもね。
「しかし、奴には三つだけ、感謝していることがある」
「何だ？」
へこりと首を傾げた奥様を、旦那様、ぐいと抱き寄せて。
「ひとつは、貴様を仕込んだことだ」
「仕込んだって言うな」
文句を言いながらも、奥様、キスに応えます。
「それから、ザフトを作ったこと。・・・ごく初期の、政治家としての奴は、尊敬できると、思う」
「ごく初期の、な」
「ああ」
その後、ちょっと長いちゅう。
それから。
「最後に。・・・あいつを作ったことだ。小僧の嫁に、あれほど良い相手もいないだろう」
「うん、そうだな。うまくいくといいなぁ」
頷いた奥様を怪訝そうに見やって、旦那様は不思議そうに聞きました。
「腹は立たんのか？」
「ん？なんでだ？」
「勝手に貴様の遺伝情報を使われたんだぞ」
「うん。・・・・でもさ」
奥様、ふんわり。
ふんわり、笑って。
「でも、さ。あの子、幸せそうだし」
それから、珍しく旦那様に甘えるようにに懐いて、肩にほっぺたをくっつけました。
「それに、シンがとっても嬉しそうだ」
「・・・・・そうだな」
いつもより、なんだか可愛い奥様に、旦那様は何度目かのちゅう。
「んっ・・・イ、ザ・・・・ク。声・・・・」
旦那様、ドコにちゅうしてるの。
「もう寝てる。気にするな」
いちゃいちゃいちゃのお二人の、隣のお部屋で子わんこたちが。
お手手繋いで夢の中。
どこか遠くで、誰かのパパが。
フン、と、笑う気配が、しました。