「これ、ここか？」
「違う。・・・触るな」
「じゃあ、これは・・・」
「だから触るな！！」
今日は5月5日です。
『たんごのせっく』っていって、男の子がおっきくなったのを、お祝いする日なのだと、旦那様が言いました。
誕生日みたいなものかな？
シンとレイは男の子だから、旦那様は、図鑑でしか見たことがないような、古くて大きな鎧兜や、広げると、おーっきなお魚になる布を見せてくれました。
それから。
「見ろ」
ニヤリと笑った旦那様が、少しちいちゃい鎧兜と、もっとちいちゃな鎧兜を、届いたばかりのケースから取り出しました。
ご主人様はにこにこで、カメラを持ってやって来ます。
「これ着て、記念撮影しような」
「すごーい！」
シンは大喜びで、ぴょんぴょん跳んで回ります。
レイはなんだかちょっと上目遣いになって、旦那様を見上げています。
「こら、暴れるな。来い」
旦那様はそう言って、シンに兜をかぶせてくれました。
「男前だなぁ」
ご主人様はそう言って、レイの分の兜に手を出しました。
「イザーク、これ、こうでいいのか」
「後ろ前が逆だ馬鹿者」
「これ・・・」
「それはチビの方の部品だ。貴様は触るな。・・・お前は動くな！」
シンは大ハシャギで、尻尾もアンヨもぱたぱたと勝手に動いてしまいます。
レイはもう観念して、大人しく、されるがままわんこです。
ご主人様は触らせてもらえないのでちょっと膨れましたが、すぐに機嫌を直して、ぱしゃぱしゃと写真を撮り始めました。
「格好いいぞ、シン。レイも、写真、フラガさんに送ろうな」
シンは跳び上がって、レイは目を瞬かせて、ちょっとためらってから頷きました。
「わーい！」
「・・・・はい」
「だから暴れるな、転ぶぞ！」
そして飛び上がったシンは、おっきな兜の飾りに重心を取られて、こてんとひっくりこけてしまいました。
「大丈夫か？ほら」
「だいじょうぶ！」
「こっちは大丈夫じゃないぞ・・・」
旦那様は、ひとつため息をつきます。
兜の飾りの先っぽが、ぽっきり折れてしまいました。
シンのぴんと立った尻尾が、とたんにへちゃんと足の間に落っこちます。
「わーん！」
鎧も格好良いけれど、兜の飾りが一番格好良いのです。
レイのは、先っぽまでキレイで格好良いのに、シンのは先っぽがなくって、格好良いのが半分になってしまいました。
「これはな・・・レプリカだが、それなりの細工物なんだぞ。直すには・・・」
「ああ、直せば良いのか？」
でも、カメラを持ったご主人様が、そう言って、へこんと首を傾げました。
「それ、軽量アルミ合金だろう。色はメッキじゃなくて外殻振盪だよな。・・・工具持ってくるから、少し待ってろ」

そうしてご主人様は、シンの兜の飾りを、キレイに直してくれました。
継ぎ目も残さず、ぴっかぴかです。
さっすが、シンのご主人様なのですｖ
「だから、あの立て物はレプリカと言っても・・・・」
そうして、なんだかブツブツと言っている旦那様を放っぽって、撮影会が始まりました。
「イザーク、お前の部屋に背景版あっただろう」
「背景版？・・・ああ、屏風のことか？」
旦那様も、ヘコんでなんかいられません。
ご主人様に書斎を弄られると、大変なことになってしまうのです。
「俺が出してくる、待ってろ」
そうして、シンとレイは、鎧兜の写真をいっぱい撮ってもらいました。
一番よく撮れたのは、おっきくプリントアウトして、お部屋に飾ってみんなにもあげて、もちろんレイのご主人様にも送りました。
でも何故か、みんな「可愛い！」って言うんです。
「格好いい！」とか、「男前！」っていうのは、言ってくれないのです。
シンとご主人様は、首を傾げました。
「こんなに男前なのになぁ・・・」
それを眺めてため息をつくレイと、ニヤニヤ笑う旦那様。
ジュール家の端午の節句は、こうして過ぎて行きましたｖ