オトコゴコロ
この人の一体どこに惚れたのかといったら、やっぱり、この可愛らしさだろう。
「っ、ふ・・・・」
小さく身を震わせた宗美は、きつく道明寺を食い締めたまま、ほんの少しだけ身じろいだ。
雪国育ちの白い肌が、ほんのりと紅色に染まっているのがたまらない。
その色味にこく、と息をのんで。
「すいません、まだ、少し無理でした？」
そうではないと知っていて、声をかける。
案の定、恋人はふるふると首を振って。
「い、え。そうでは・・・・・ぁっ」
ありません。と、そこまでは言えず、宗美はまた、小さく喘いでふるりと身を震わせた。
そう、無理をさせているわけがない。
宗美のそこはもう、道明寺によってとろとろになるまでとろかされていて、たまらなくなっても強請れない、そこを狙いすまして、ゆっくりと、無理をかけぬよう入っていって。
その上で、彼が馴染むまで、待ってあげているのだから。
だから、むしろ。
「それとも、もう動いて欲しいですか？」
「っ！」
とたんにきゅうと締められて、道明寺はくっとキそうになった波を堪えた。
彼の中は、熱くてキツくて気持ちよくて。
気を抜くと、すぐにイってしまいそうになる。
「じゃ、動きますから。キツかったら言ってくださいね」
「・・・はい」
素直な返事とともに、長い腕がするり、と道明寺の首に絡みつき。
どこか小動物めいた黒目がちの瞳が、涙を浮かべて、それでも道明寺をまっすぐに映していた。
こういう時、ちゃんとカオを見てくれる相手は初めてだった。
はじめは、そんなに不安にさせているのかと心配になったけれど。
『そこにいるのが、道明寺君だと、ちゃんと確かめたいんですよ』
そう告白された時には、押し倒すのを我慢するのに、もの凄く、気力が要った。
「は・・・ふ、ぁ、っ！」
感じやすいナカを、熱い道明寺に擦られて。
宗美の長い脚が跳ね上がる。
うっわ、キレイだし、と、その様を横目で見ながら。
快楽にのたうつ痩身を、その肌に浮いた汗の玉までをつぶさに観察しながら。
道明寺は歯を食いしばり、今にも弾けそうな自分を、必死になって律していた。
そう。
余裕っぽく見せてはいても、道明寺とてまだ高校生になったばかり。
好きな人のセックスなんて、気持ちよすぎてたまらなくて、結構もういっぱいいっぱいなのだ。
それでも。
「気持ちいいですか？宗美さん」
余裕を見せてささやくと、宗美の喘ぎが高くなった。
「あ・・・・あっ・・・は、どう、みょうじ、く・・・・ンっ」
控えめな喘ぎは、もう、随分出来上がってきた証拠。
もう少し、と思ったところで、首に回されていた宗美の腕に、力がこもった。
そうして。
きゅう、と唐突にしがみついてきた体に、予想していなかった道明寺の体は、パニックを起こしていた。
鼻腔いっぱいの甘い匂いは、後頭部を殴られたような衝撃だった。
それが、発情しきった恋人の肌の匂いだと気づくには、呆れるほどに時間がかかった。
汗の浮いた肌が、ぴったりと触れあう感触は、直接ぐっと腰にキた。
やばい、スゴい、キモチイイ。
「そうび、さん・・・」
抱きしめ返すと、快感が増した。
きゅうきゅうと、しがみついてくる体。
きゅうきゅうと、締め付けてくるナカ。
こんなの、ぜんぜん初めてで。
「どう、みょ・・・・んっ、は、あ・・・・」
最後まで呼んでもらえなかったというのに、呼ばれた名前に、頭の中が白くなった。
こんなことは。
まったくもって、初めてのこと、だったのだ。
ふっと気づくと、まだどくどくいっている自分が、宗美の中にいるのがわかった。
はぁはぁと、せわしなく整わない息は、二人、どこかシンクロしている。
くったりと横たわった恋人の、イきたてのたまらなく色っぽい表情を見ながら、しかし道明寺は血が下がるような思いを味わっていた。
ヤバイ、俺、イっちまってる！？
無意識だった。
ぜんぜん全く、そんなつもりはなかったというのに、だ。
ある程度、自分をコントロールできると思っていた。
この年にしては経験豊富な方だと思うし、年上のお姉さまに、世辞抜きに誉めてもらったことだっていくらでもあった。
そんな、俺がだ。
無意識に、持って行かれたっていうのかよ・・・・
「・・・どう、しました？道明寺君」
切れ切れの息の中で、年上のヒトが、心配そうに見上げてくる。
「えー、っと、スイマセン」
どう言ったらいいものか。
暫し思案した道明寺は、やがてにこりと笑って、至極正直に、告白した。
「アナタが、あんまり気持ちいいもんだから。うっかりイってしまって、どうごまかそうかと思っていたところです」
「・・・・・っ！」
とたん、もともと上気していた頬をいっそう赤く染めて。
そうして、中にいたままの道明寺を、きゅうっと締め付けてくれた、年上の恋人。
その人は、可愛らしくわたわたと慌てた後に、啼き疲れてかすれた声で、小さくちいさくささやいた。
「ど、道明寺君がそんなことを言うなんて、思いませんでした・・・・」
その言葉に、くすりと笑い、震える唇にキスをする。
それを受け入れた宗美の、まだぎこちない舌にたっぷりと応えてやりながら。
道明寺は、思った。
あなたは、ぜんぜんそんなこと思ってないみたいだけど。
結構俺、いっぱい一杯なんですよ？
自分より、ずっとずっと年上で。
背だって高くて、ファクターで。
なんか気がついたら、アルバイト先で前線指揮の代理までしちゃってて。
奥さんがいて、いろいろ・・・まだ１５年しか生きていない、道明寺には想像することしかできない、いろいろ沢山背負ってて。
そんな人の前に、頼れる存在としてまっすぐ立つには、スーパー中学生改め、スーパー高校生、道明寺誠にも、それなりの努力と根性と、それから何より忍耐が必要なのだ。
それでも、好きな相手には頼られたいし余裕を見せたい。
たとえそれが虚勢でも。
だって、それが男心ってもんじゃないか？
「・・・宗美さん」
キスを解いた唇で。
それでもまだ、触れそうなキョリで。
「まだ、いいですか？」
年下らしく、甘えるように。
それでも、相手がそれを望んでいると、十分に解った上でささやくと。
年上の恋人は、恥ずかしそうに視線を逸らし、しかしそのままこくりと可愛らしく頷いてくれた。
さあ、今度こそ、と、道明寺は気合を入れなおす。
ここ可愛らしくてオトナな恋人に、少しでも喜んでもらえるように。