オシオキ
それは、港湾地区にはありふれた貸し倉庫だった。
うず高く積まれたダンボールは、見慣れない「P.A.N.D.R.A」というロゴで統一されていたが、やたらと髪の長い、長身の男に案内されてここに来た男たちには、そんなことは、どうでもいいことだった。
「へー、これ好きにしちゃっていいの？」
「ああ」
頷いた案内人に、男たちが色めきたつ。
この近くで、ちょっとやらかした仲間を一人、痛めつけている最中に声をかけられた時には驚いたが、付いてきて良かったと皆が思った。
『男が平気なら、少し手伝わないか』と。
見るからにカタギじゃあない男に言われて、だいぶボロボロになったそいつを放り出して来てみれば、これだ。
そこだけ荷が運び出されたのか、ぽっかりと開いた空間の、壁際に座り込んでいたのは、学制服を着た少年だった。
ちょっと見ない整った顔立ちに、髪は、綺麗に色の抜けた銀。
しかもその両手は、冷たく光る金属の錠で戒められていた。
「ESP錠？エスパーか？」
多少、物を知っている風の一人が聞くと、長身の男は仏頂面のまま、「ああ」と答えた。
「外すなよ」
「わあってるよ」
後ろの方で、「おっかねえ」とか、「バケモノかよ」とか言う声が聞こえ、少年がわずかに身じろぐ。
その仕草に男心をそそられて、リーダー格の男が少年の髪を掴み上げ、その顔をのぞき込んだ。
とろりと濡れたような黒い瞳が、瞬いてから、逸らされる。
わずかに怯えたさまが更にそそり、自然と股間が熱くなった。
「何？オシオキか何か？」
こんな上玉を、自分で言っちゃ何だが、その辺のゴロツキの好きにさせる理由が、他に思いつかない。
「・・・そんなようなものだ」
憤懣やるかたない、といった様子の男の声に、一体何やったんだこのガキ、とわずかに浮かんだ疑問はすぐにどこかへ押しやられ。
「じゃあ、ヒドくしてやんなきゃな」
仲間を一人潰して、興奮している男たちの手が、震える少年の体に伸びる。
たちまちズボンを剥ぎ取られ、埃っぽい床に押さえつけられた少年の体に、次々と感嘆の声が漏れた。
黒い生地から現れた脚は、膝をすり寄せる仕草まで艶やかで、ミルク色の肌は、触れれば吹い付く滑らかさ。
ESP錠のせいで上はすべて脱がせることができないが、シャツの前まで開けてやれば、ツンと立った乳首が赤い色をのぞかせていた。
「てかお前、これで感じてんのかよ」
曝された性器も、半ば勃起しかけている。
「これじゃ、オシオキになんねーんじゃねえの、旦那」
面白がる男たちに、長身の男は仏頂面のまま答えた。
「・・・そうでもない」
「ふうん」
まあ、楽しむための言葉遊びだ。べつになんだってかまわない。
だから彼らはそれ以上追求せずに、美味そうな獲物に手を伸ばす。
「ああもう濡らしてあんじゃん」
嫌がって閉じようとする脚を、三人がかりで開かせてこれから蹂躙する場所を、皆で囲んでのぞき込む。
「入るか？」
「あー、入る。平気平気」
一人が指を差し込めば、そこはぬるりと飲み込んで、細い腰がひくんと跳ねた。
「あっ・・・」
ちいさく漏れたあえかな声が、男たちの興奮を加速させる。
「使用済み？」
「そこまでじゃねえかも」
乱暴に抜き差しするたびに、ぐち、ぐち、という卑猥な音が漏れ、少年の脚がびくびくと跳ねて綺麗な顔が堪えるように歪むのがたまらない。
「お前等、じゃんけんしろよ」
自分のものを取り出しながら、リーダー格の男が声をかけた。
「さっきの逆順で良くね？」
「っあ・・・っ！」
軽い答えに、少年の悲鳴が重なる。
ずるり、と。
淡い色の狭間に赤黒いものが飲み込まれて行くさまに、皆が思わず、揶揄の言葉すら忘れて息を飲む。
「・・・っ、良くねーよ。タマが違わぁ」
突き入れた男がそう呻くのに、慌ててじゃんけん大会が始まった。
その間抜けな声もたちまち聞こえなくなるほどに、男は少年の体に夢中になっていた。
きつく締め付けてくる入り口とは裏腹に、中はやわやわと絡みついてくる。
引き抜けば入り口で絞り込み、押し込めばゆるゆると蠢く襞でたっぷりと包み込んでくるそこは、男を悦ばせるためにあるとしか思えない具合の良さだった。
「っ、ふぁ、ぅ・・・」
しかも、両手を戒められ、幾本もの腕に抑え込まれて開かれた体は淫らにのたうち、ただでさえきついそこを締め上げてきたからたまらない。
「っ、く」
熱い肉襞にたっぷりと注ぎ込む快感に、痺れたようになった腰を震わせていると、後ろからブチ壊しの声がかかった。
「早えーっすよ」
「るせえ！おめーだって早く回して欲しいんだろうが」
そいつを殴る弾みでずるりと抜けたそこからは、注がれたものがどろりとこぼれ落ちる。
「は・・・ぁ・・・・」
無理矢理開かされた脚の間、犯された証をこぼしながら、とろりとした瞳をさまよわせる少年は、男たちの劣情を、どうしようもなく駆り立てた。
「次俺！俺！！」
じゃんけんに勝った拳を突き上げて、次の男が覆い被さる。
「やっ・・・ぁぅ」
休む間もなく挿入れられて、少年が哀れな声を上げた。
先に放たれたものがぐちゅりと濁った音を立てて押し出され、その声と相まって、男たちの興奮を誘う。
「や、あ、ああぅ」
激しい動きに腰をよじらせ、逃げようとするのを皆で押さえ込んで犯していけば、二度目だというのにきつく、柔く絡みつく中に、男はうっかり持っていかれてしまった。
「おい、そんなにイイのかよ」
「イイなんてもんじゃねえぜ・・・」
三人目の男は、少年の体をひっくり返して、銀色の頭を床に押しつけながら、後ろから犯しはじめた。
白い尻の合間を、赤黒いものが出入りするさまがよく見えて。しかも細い腰がゆるゆると、動きに合わせるように揺れ出せば、感嘆の声があちこちで上がった。
汚れた床にうつ伏せに押さえ込まれ、白い腰ばかりを高々と上げて犯される少年を眺め、リーダー格の男は、適当なところで割り込んでやろうと思いながら煙草に火をつけた。
それをちらりと見た長身の男は、わずかに眉をひそめてから、しかしすぐに視線を犯される少年へと戻した。
三人目もすぐにイき、赤い肉を見せてめくれ上がったそこに、新たな男のものがこじ込まれる。
「あー・・・・・っ」
上がった声は痛々しく、しかし確かな快楽を示している。
「あーくそ、羨ましいぜ。あれアンタが飼ってんの？」
「・・・そんなようなものだ」
むっつりと返った答えの意味を考えて、しかし面倒になってすぐに放棄した男は、ふとくゆらせた煙草の先に目をやった。
「なあ」
吸えば赤く燻るそれは、そういえば使い慣れたものだ。
「跡とか残しちまっていいか？」
ゆらゆらと揺れる煙草の先に、何をしようとしているのか察したのだろう。
長身の男は顔をしかめたが。
「あまり奨めない。悦ばせるだけだ」
「へえ」
その答えを肯定と取って、男はついと立ち上がると、仲間たちをかき分けながら、狂宴の中心にいる少年の、脚の間に手を突っ込むと、その白い内腿の柔らかそうなところに、赤く燻る煙草の先を押しつけた。
「あーーっ！」
上がる悲鳴は耳に心地よく、押し殺した歓声のようなものが上がる。
「うわ、イきやがった」
しかも、それまでだらだらと先走りをこぼすばかりだった少年のそれが、確かに精を吐き出すのに、また声が上がり。
「っ、やっべ」
締め付けから逃れようとして、失敗したのだろう。慌てて引き抜かれたものの先端から放たれたものが、薄暗がりでもはっきりと浮かび上がる、白い尻を汚した。
「お前もかよ！」
げらげらと笑う声には、しかし焦りのようなものが含まれている。
早く。
早く、その体を味わいたいと。
堪えきれなかったらしい一人が、床に押しつけられていた少年の頭を持ち上げて、取り出したものをその唇に押しつけた。
無理矢理に押し込んでやるつもりだったが、薄く開いて喘ぎをこぼすばかりだった唇は、その瞬間大きく開いて、それを難なく迎え入れた。
「んっ、むぐっ」
「あ、ずりいぞお前！」
「クチの順番決めてなかっただろ」
「じゃあ俺胸コキしたい」
「胸ねえだろ」
「あれ？」
どっと笑いがおきたところで、床を掻いていた少年の、戒められた腕がのろのろと伸ばされた。
ごく、と、笑いを取っていた男の喉が鳴る。
その手は期待を裏切らず、腰を取られ、頭を押さえ込まれた不自由な姿勢のままに、男のモノを握って淫らに蠢きだした。
「手でしてやるとよ。どーなってんだコイツ」
「じゃあ俺脇コキ」
「順番飛ばすぞコラ」
次々と突きつけられる欲望を、少年は残さず受け止めていく。
終いには、二本同時に入れられて、裂けたそこから血を流しても、その喉から漏れたのは、甘く蕩けた悦びの声だけだった。
狂乱の時間は、朝方まで続いた。
大量の精液を注がれ、飲まされ、浴びせられた少年の体は、そのまま床に打ち捨てられ。
それを見下ろしながら、まだ荒い息を吐く男たちの後ろで、彼らを案内した長身の男が、低く、ほつりと呟いた。
「どうされますか？」
それに答えたのは、大きなものを繰り返し咥わえ、端の切れた赤い唇から漏れた、掠れた、しかし甘く響く声だった。
「ん・・・、いいや、おまえやっちゃって」
初めて聞いた少年のまともな言葉を、理解したのは長身の男だけだっただろう。
男にしては異様に長い髪が、意志を持って宙を舞う。
いくら腹立たしい相手だからといって、必要以上に苦しませる趣味などなかった。
彼は、自分がここへ誘い込んだ男たちの首を、その髪の刃で一瞬にして落としていた。
注意を払ってはいたのだが、それでも少年の体にも、赤い血がいくらか降りかかった。
胸の上へ落ちたその滴を、少年の白い指がこねるように擦り付ける。
乾きかけた精液と混じったそれは、彼の白い肌を淫美に飾った。
それを見下ろしてくつりと笑い、少年はその手を男へと伸ばし、当然のように命令した。
「真木、キス」
「・・・はい」
血の滲む口の端を指先で慰撫してから、他人の精液の匂いの濃いそこへ、真木はそっと口付けた。
たちまち、口淫に荒れた舌がその唇を割り、肉厚の舌に絡みつく。
「ん・・・っ」
犯すようなキスを堪能した唇は、淫蕩な糸で繋がったままの男へと、甘く、しかし厳しく囁いた。
「今度、僕のすることに口出ししたら、こんなのじゃ済まないからね？」
「・・・・・」
兵部は、どうすれば真木が一番堪えるかを知っている。
死体になって転がっている男たちは、『オシオキ』されていたのがどちらだったのか、勘違いしたままだっただろう。
繋がった糸を指で切り、少し腫れた唇に溜まった滴を拭ってやってから、真木は努めて平静を装って立ち上がった。
「死体の始末がありますので」
ここで動揺すれば、兵部は必ずエスカレートする。
そんなこと、もう身に染みて知っている。
「へえ、僕をこのまま放っておくの？」
「そうされるのが、お好きでしょう？」
真木のささやかな意趣返しに、兵部はけらけらと笑って。
「ああ、大好きさ」
そうして、兵部は汚れた肢体を放り出したまま、真木が死体を人体とは判別できないほどの細切れにし、まとめて海に放り込むのを見物していた。
血に濡れたその姿に、もう十分に精を注がれたはずのそこが疼く。
まったく、これも全部、おまえのせいだ。
だから、当然この疼きの始末もさせなくては。
そう、嗤って舌なめずりをしながら。