「ああ。・・・・・・・・・・ああああああああああああああ？」

らしくない大声を上げた十兵衛に、花月は心配そうに言った。

「大丈夫かい？十兵衛。脳に酸素行ってないの、まずかったかな？」

「いやこれしきのこと、なんでもないが、花月、今、なんて言った！？」

十兵衛の慌てぶりが、面白い。ていうか可愛い。いとおしい。

「セックスしてもいいよって言ったんだ。僕も十兵衛が好きだよ」

好きだから、触れたいし確かめたい。何より、とっても気持ちがいい。

「すごいね、十兵衛。僕なんか、君に触れるまで気がつかなかったよ。好きな人に触るのって、こんなに気持ちがいいんだ」

にこにことご機嫌な花月に、大慌ての十兵衛はわたわたと訳のわからない抵抗を試みる。

「し、しかし俺と貴様では、意味が違・・・っ」

「違わないよ、きっと。だったら確かめてみればいいだろう？」

花月は十兵衛の手を取って、自分の胸に当てた。膨らみのない胸。これでいいんなら。

「どうせ、服も濡れちゃったし。脱がせてよ十兵衛」

まだ雫を滴らせている十兵衛の髪から移った水で、花月の胸も濡れていた。

つん、と立った乳首が、濡れたシャツから透けて見えるのは、どうしようもなくそそる風情だった。

花月には大きすぎる襟ぐりから見える首は細く・・・十兵衛は、ごくりと生唾を飲む。

「・・・いいのか？」

「いいよ」

そう言い切った唇に十兵衛はもう一度、しかし今度は注意深く、口づけた。

花月の唇。

さっき夢中で味わったそれは硬く強張っていたが、今触れたそれは、柔らかく自分に従い・・・甘く、綻ぶ。

「ん、ん・・・・・」

甘い甘い、花月の唇。柔らかな舌。熱い口腔。

それらをじっくりと味わって、離すと、熱っぽくうるんだ瞳の花月は、笑って言った。

「キスって、気持ちいいね」

「そうだな」

無理やりに奪うよりも、こんな風に分かち合った方が、ずっと気持ちいい。

なら、セックスだって、そうに違いないのだ。

十兵衛の前に肌を曝すことに、花月はまったく頓着しない。

濡れたシャツを、小さな子供がしてもらうようにバンザイをして脱がせてもらっても、花月は床の水溜りに座り込んでいる。

「濡れるぞ」

「もう濡れてるよ」

くすくすと笑いながら動こうとしない花月を、十兵衛は軽々と抱き上げてベッドへ乗せた。

ためらいがちな手にベルトを外されると、花月は自分で腰を浮かして濡れたジーンズを脱がされた。

「シーツ濡れるね。マットレスは平気かな？」

照れ隠しなのか天然なのか、場違いなセリフを吐く唇を、もう一度、恋人のキスで塞ぐ。

再び抱きしめた体は、先ほどの強張りが嘘のように、しなやかに十兵衛の腕の中に収まった。

「ん・・・んっ」

素肌に、十兵衛の服が擦れてくすぐったい。

十兵衛の手が、体中に触れて気持ちいい。

花月は、すぐにその快楽に夢中になった。

十兵衛の手のひらが、肩から背中へ、背中から腰へ、双丘へ、太腿に行ってから、戻って脚の間へ。

ゆるく螺旋を描くように、じっくりと撫でられた最後に、立ち上がりかけた象徴を、ささくれた手のひらに包まれる。それでも、花月はびくりと体をふるわせただけで、甘く喉を鳴らしてその感覚を享受した。

十兵衛にされるんだったら、なんだっていいし、なんだって大丈夫。

それでも、胸の紅く色づいた場所に噛み付かれながら、後ろに唾液で濡らされた指をねじ込まれたときには、ちいさく悲鳴を上げて身をよじった。

「・・・っ！じゅう、べ・・・」

しかしその声も口付けで塞がれて、自分の中を、十兵衛の指が行き来するのを、ただただ感じるしかなかった。

「かづき・・・」

十兵衛は、ぐちゃぐちゃと音のするまで掻き混ぜた花月の後ろから、指を引き抜いた。

肘をついて起き上がり、愛する人の、うつくしい肢体を存分に眺める。

十兵衛の髪から、つめたい雫がはたりと落ちて、花月の熱い肌をつたって落ちた。

すると、花月の腕が伸びて、十兵衛の袖を引いた。何か言いたいらしいが、艶やかな唇からもれるのは、熱い吐息ばかり。

しかし十兵衛はその意図を察して、濡れて張り付いた服を脱ぐ。花月がちいさく息をのむのがわかって、それがなんだか嬉しくて、しなやかなその身を抱きしめる。

腕の中で震える花月は喩えようもなく美しく可愛らしく、これを今から我が物にする興奮で、十兵衛の雄はいきり立った。

それでも、もう乱暴に扱うようなことはしないし、できない。

だから、十兵衛は注意深く体中にキスしてやりながら、慎ましく閉じられた膝を押し開いた。

「ぁ・・・・」

白い脚の奥で、先ほどまで十兵衛の指を飲み込んでいた場所が、ひくひくとふるえている。

それは、どうしようもなく淫らな光景だった。

十兵衛はそこへ、自分の猛りを押し当てる。

「花月・・・」

「あ・・・じゅうべ、や、あ、はんん・・・」

十分に準備していたとはいえ、初めての花月に十兵衛のものはきついのだろう。

びくりと強張った体を深く抱きこみ、うっすらと涙を滲ませる眦や、紅潮した頬に口付けながら、十兵衛は繋がりを深くし、熱く締め付ける内と、ふるえる肌に感じ入った。

「あ・・・あ・・・はぅ・・・・・じゅう、べ・・・・・」

今、花月の内は、身も心も十兵衛でいっぱいなのだ。

そう思うともう、たまらなかった。

「あっ、あ・・・ああん・・・あ、あん・・・・・」

出会ってからずっと、こうなりたいと思っていた。

十年来の愛しい人は、十兵衛の腕に抱かれながら、何度も何度も泣きながら極め、十兵衛はその身に、思うさま長年の想いを注ぎ込んでいた。

ばさばさと、濡れたシーツを変える幼馴染の後ろ姿を、花月は呆然と眺めていた。

ベッドで失神するまで抱かれたあと、バスルームで洗ってもらいながら、また何度かされて。

もう腰は自分のものじゃないみたいで、じゃあ誰のものなんだろうと思うと、もう思いつくのはあの背中の主だけ。

思わず赤面した花月を振り返ると、十兵衛は「すまない、熱が出たか？」なぞと、また呆けたことを抜かしつつ、毛布でぐるぐる巻きの体を抱き上げた。

額と頬に、まだ熱い唇が押し当てられて、それが引き出す快感を覚えてしまった花月は、くすぐったそうに首をすくめる。

十兵衛のことなんか、全部知っていると思っていたけれど、こんな十兵衛は知らなかった。

頬の次に、軽く唇をついばまれると、自然と口が開いて、熱い舌を迎え入れてしまって。

こんな自分だって、もちろん知らなかった。

ちゅ・・・と、音を立てて唇が離れて、花月は心地よく痺れた唇を、ささやくように動かした。

「十兵衛に・・食べられてしまうかと思ったよ」

かすれた声も、うっとりと伏せられた睫毛も愛おしく、十兵衛は得心が行ったように頷き、笑う。

「いや、そうか。なるほどな」

少し皺の寄ったシーツに花月を下ろし、流れる黒髪に指を通して。

「食べてしまいたいほど可愛いというのは、お前みたいなのをいうんだな」

「馬鹿・・・」

少し伸び上がって、額に残ったふさがりかけの擦り傷に、キスをする。

そうしたら、丁度目の前にあったらしい喉に、噛み付くように口付けられて。

恋人になった幼馴染は、子供の頃のようにじゃれ合いながら、子供の頃よりも、ずっと近くに寄り添って。

「おやすみぃ」

「ああ。おやすみ」

やっぱり子供の頃のように、一緒に夢へと降りて行った。

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