そして、基地を守るためにシンもアスランも出撃し、出遅れたせいで存在に気づいた別動隊を、アスランはほとんど一人で、戦闘不能にして追い返した

勲章が出るの出ないのという騒ぎに、暴行事件はきれいさっぱり忘れ去られ、しかし、アスランの顔色は、相変わらずさえない。

「３機、落とした。たぶんあと４機、帰れなかったと思う・・・」

戦闘不能に陥らせた数十機よりも、その７機を思ってうつむく人を、シンはきつく、抱きしめる。

前だったら、このままベッドで慰めてしまったのだけれど。

でも。

「・・・・シン？」

アスランも、そう思っていたのだろう。

抱きつくと、どうしても目の前にきてしまう少年の額に口付けて、ただ、腕に力を込めるだけのシンの背に、そっと手をまわした。

「お前に、慰めてもらおうと思ってたんだけどな。だめか？」

そう、耳元で囁かれれば、今までならば体も心もいっぺんに反応して、押し倒してしまっていたのだけれど。

「・・・・・・っーーー」

言葉もなくしがみつくシンに、思い当たることのあるアスランは、逆に彼を慰めるために、軽く背を叩いた。

「したくないならいいさ。・・・待ってるから、な？」

そう言って、こめかみにもキス。

恋人の優しい慰撫に、シンは泣きたくなる。

軍服越しの体温。いつもシンを甘やかしてくれる、大好きな人の、大好きな体。

なのに、俺はずっと。

「だって俺、いつもあなたにあんなこと・・・っ」

押さえ込まれたときの恐怖、引き裂かれる痛み。

体内を、めちゃめちゃに壊される、あの恐ろしさ。

自我も誇りも粉々にされて、ただ、泣き叫ぶしかなかった時間。

あんなこと、ずっと強いていたなんて、思ってもみなかった。

大好きな人の、大好きな体。

なのに。

「俺は、お前と違って慣れてるから。いつも気持ちよくしてもらってるの、知ってるだろう？」

「しらない・・・」

アスランがどう感じているかなんて、ほとんど何も考えていなかった。

年上で、経験豊富で、いつ押し倒しても、文句を言いつつ受け入れてくれて。

いつだって、優しかったから。

「・・・あいつら、お前に、キスしたか？」

唐突に、アスランがそう、シンの髪の中で囁いた。

「しません」

考えただけで怖気が立つ。

「じゃあ、これは？」

そう言うと、アスランはシンの手を取って、手首の内側をぺろりと舐めた。

「・・・・した、かも」

シンも、あまりよくは憶えていないけれど。

「どうだった？」

「嫌でしたよ全部っ」

アスランは、もう一度、シンの手首に唇を寄せた。

「嫌か？」

「嫌なわけないじゃないですか」

「だろう？」

そう言って、笑って。

「俺だってそうだよ。お前に触れられて、嫌な訳がない」

手首の薄い皮膚に、柔かい唇。

気持ちいいのに。

すごく、気持ちいいのに。

今は。

「でも・・・」

今にも雫をこぼしそうな赤い瞳を覗き込み、アスランは唇を噛んだ。

たぶん、このままだと、彼に酷い傷が残る。

あの時の俺よりも、彼はずっと、こういったことに免疫がないから。

俺よりも、ずっと、きれいだから。

ただ、酷い目に遭ったと、それだけでは済まない。

そんなことに、今まで気づかなかった自分を恥じる。

アスランは、少年の髪を、ゆっくりと、撫でた。

「やっぱり、したいな」

「アスランさん？」

翠玉の瞳を緩く細め、そっとシンの唇に自分のそれを落とす。

甘い熱を孕んだ体が押し付けられ、背にまわっていた腕が、するりと少年の肩を抱いた。

もともと、整った顔立ちと、しなやかな体をしている人だけれど。

こういう顔、こういう仕草をすると、誰もが抗い難い色香を発する。

「慰めて、くれなくてもいいから・・・お前としたい」

背筋を震わす深い声。

それでもシンは、強く首を振った。

「できません」

「する」

「アスランさんっ」

信じられない、と言う顔をして自分を見上げる恋人に、アスランは艶めいた声で続ける。

「いつもお前、俺が嫌だって言う時もするだろ。たまにはお前も嫌な時にしてみろよ」

「だ、め、ですっ」

「なら、俺がするぞ？俺は今、ものすごくお前としたいんだ」

翠の瞳がきらめいて、まっすぐシンを覗き込む。

聞き分けのない自分に、何かを諭す時の目だ、とシンは思った。

一見、酷いこと、厳しいことを言っていても、結局自分を思ってくれている時の。

シンは思わず頷いた。

「いい、です」

いつも、俺ばっかり好き放題言ってやって甘えて。

あんなことまで、して。

そんなの、この人にするんだったら、俺がされた方がいい。

「いいのか？」

優しい手のひらが頬を包み、うっすらと涙の滲んだ目元に唇が触れた。

「はい」

小さく言った、その唇にまたキスが降りてきた。

シンは、しがみつく力を強くして、アスランの口腔に舌を差し出した。

アスランは、こういうことが本当に上手い。

どこで憶えてきたのかと思うのだけれど、聞いてもはぐらかすばかりで答えてもらえない。

シンの脚を開かせて、その間に顔を埋めて。

音を立ててそれに吸い付き、舌を絡め、喉奥まで咥えては締め付けて。

「ア、スランさ、俺、も・・・」

もう役に立たないんじゃないかと本気で思ったそれは、すっかり反応して、もう先端に蜜さえ滲ませている。

「一回イけよ」

「や、だっ」

「強情だな、お前は」

仕方なさそうに、一度だけそれをちゅうっと吸って、アスランは顔を上げて、シンの赤い瞳を覗き込んで、瞬いた。

「ほんとにいいのか？」

「何回も、言わせないでくださいよっ」

「・・・・・そうか」

心なしか肩を落とし、それでもすぐに気を取り直したように、アスランはシンの脚を掴み、背中に腕をまわしてそっと倒した。

「ちょっと、我慢しとけよ」

そう言うと、もう一度震えるシンの雄にキスをしてから、その奥の、初めての場所に唇を寄せた。

「うっわっ、そんなとこ舐めないでくださいよっ」

「お前だってよく舐めてくれるじゃないか」

「だってっ、違っ！」

「んー」

まったく意味のないシンの抵抗を無視して、アスランはそこを、たっぷりと唾液を乗せた舌で濡らす。

固くつぐんだ蕾を舌先でつつき、だんだんとその力を強くして。

「やっ、アスランさん、汚いってば！」

「んんン」

暴れる脚と、逃げようとする腰をしっかりとつかまえて、丁寧にほぐしながら、熱い襞まで舌を入れて、舐めて。

中の傷が、きちんと癒えているのを確かめてから、離して。

「濡らしておかないと、辛いのお前だぞ」

「いいですよ別に・・・ぃっ！」

指を差し込まれ、跳ねたシンの体を優しく抱いて。ゆっくりと、イイところを探しながら。

「いいわけないだろ」

「いいわけなくなっ、っあ！」

「ここ、いいか？」

「やだっ」

「こーら」

じゃれるように、長い腕でシンの体を閉じ込めて。

痛いか？と優しく聞くと、思い切り首を横に振るから。

意地っ張りな恋人に、あんまり痛い思いをさせないように。優しく、優しく、そこを解きほぐしていく。

「んっ、んっ、やっ、もおっ」

「もう少し、な？」

「俺、いっつも、こんなにしてな・・・」

「お前初めてだろ。ちゃんとしないと」

「しないでいっ、あ・・・」

ずるりと指が抜かれて、擦られる内壁と、感じる心もとなさに声が途切れた。

「したから・・・いいか？」

耳元で、そう低く囁かれ、シンはこくこくと頷く。

下腹から膝くらいまでが、がくがく震えておかしくなっている。

早く、何とかして欲しい。

言葉にならない訴えをなんとか伝えようと、藍色の髪の絡まる首筋に、腕をかけた、とき。

「あ・・・・・ぅっ」

痛みよりも、むしろ衝撃の方が大きかった。

ずぐ、と、身の内に食い込む熱いモノ。

腰を支えた腕や、しがみ付いた背中と同じ。

アスラン、の。

「んっ・・・・」

自分が腕に抱いていた時は、しなやかさばかりを感じていた体が、力強くシンを支えて、支配、している。

アタリマエだ。

この人、強くて。

ザフトのエースで、英雄で。

「く、ふ・・・・」

そう思うと、自分の中のものがいっそう大きく感じられて、シンは思わず身を竦ませた。

「痛いだけか？」

そう、優しく聞きながら、そっとシンの髪を撫でてくれる人。

凶暴なほどの体内の熱と、その優しい仕草がアンバランスで、もうどうしたらいいかわからない。

「ん、っ、わかんない、です・・・」

「初めてじゃ、な」

アスランも、初めてのときは気持ちいいかなんてわからなかった。

ただ、相手のぬくもりが欲しくて、一生懸命しがみついていた記憶しかない。

だから、優しく、シンの背を抱いて。

「少し・・・動いても、平気か？」

初めての場所に、きつく喰い締められて、実はアスランも辛い。

「少しじゃ、なくっていい・・・」

「意地っ張りめ」

呟いて、それでもそっと、腰を揺する。

「ん、っく」

「辛いか？」

ふるふると横に振られる首。黒髪がぱさぱさとシーツに散って。

眦に滲んでいた涙が、こらえきれずにほろりと落ちて。

「じゃあ、もう少し」

「ぁふ」

「どうだ？」

「っ、いちいち・・・っ」

「ごめん」

だんだんと馴染んできたそこが、くちくちといやらしい音を立て始める。

時折感じるところを擦られて、そうじゃなくても奥がヘンなのに。

「んっ、ん・・・・」

「息詰めるな。ほら」

唇に、触れられて。

「ふぇ・・・」

「可愛い声、出すなぁ」

その指で、アスランはシンのものに触れた。

「はぁっ・・・」

「ちょっとくらいは、イイか？」

それは、アスランに咥えられていた時と、同じ容量を持っていて。

苦しいばかりではないことを、物語っていて。

しなやかな指に絡みつかれ、いっそう張りつめたそれを扱かれて、シンは泣きながらアスランにしがみ付いた。

「っく・・・」

「シン」

優しい声。

囁いた唇に、触れたくて。

無理やりに仰のいてキスをねだると、アスランは戸惑ったように身を引いた。

「あー、と。お前の下、舐めた口なんだが」

「イイ、です。したい」

早く、と、口まで開けて催促すると、諦めたように柔らかい唇が降ってきた。

「ん・・・んんっ・・・！」

唇をふさがれたまま、中で動かれて、シンは声も出せずに身悶えた。

背筋を駆け上っていく何か。

それは、アスランを抱いているときに似ているようで、もの凄く違って。

それでも、触れている肌は、やっぱりアスランのものだから。

「ア・・・スランさん」

離れた唇で、その名を呼んで。

「・・・・シン」

呼んで、もらって。

痺れるような感覚の中、シンはアスランの手の中に、育ちきった欲を吐き出していた。

「どうだった？」

「・・・・わかんないです」

優しい腕に包まれて、気持ちよくって。

実は、悪くなかったと思うのだけれど、それを言うのもなんだかシャクで。

「嫌だったか？」

そう、聞かれて。

シンは、思わずアスランの顔を振り仰いだ。

翠の瞳が、心配そうに細められている。

「すまなかった。嫌な思いをしたのはわかってるんだが・・・」

でも、と囁かれて、慰撫するようなキスをされて、シンはやっと、アスランが言いたいことに気がついた。

「い、え、あ・・・・」

意味不明なことをもごもごと言って、シンは思わずうつむいてしまう。

うわ俺。

してる間じゅう。

あの時のコトとか、全部忘れてた。

だって、アスランさんのことしか考えてなくって。

だって、全然似てないし。

だって。

・・・・そっか。

シンは、アスランが言っていたことを、ここでちゃんと理解した。

『お前に触れられて、嫌なわけがない』

当たり前だ。

当たり前過ぎて、わからなかった。

馬鹿だ、俺。

「シン？」

本当に心配そうに覗き込んできたアスランに、なんだか申し訳ないような気がしてきて、シンは一生懸命言葉を探す。

「だって、アスランさんだから。嫌なわけないです」

「そうか」

アスランは、ふわりと笑ってシンの髪にキスをした。

気持ちいい。

「あの、アスランさんは？」

「よかったよ。でも、やっぱりする方は疲れるな。俺はしてもらう方がいい」

男としてどうだろう、と思うようなことを平気で言い、アスランはするりとシンの髪に頬を埋めた。

ほんの鼻先にきた首筋からいい匂いがして、シンの雄を刺激する。

「俺は、やっぱりする方がいいです」

恋人の滑らかな頸に口付け、柔らかな皮膚にきつく吸い付いた。

それを咎めるように、少し体が離されて、翠の瞳が悪戯っぽく覗き込んでくる。

「なら、するか？お前が役に立つんなら、だが」

「立ちます、しますっ」

慌てて起き上がって、恋人に圧し掛かろうとしたシンは、次の瞬間、ずくんと下肢が痛んで、彼の上に突っ伏してしまい、笑われた。

悔しくなったシンは、その夜、無理をしてでも彼を眠らせないのだと心に誓う。

なんかもう最強で最高な。

それでも、シンの腕の中では誰より可愛い。

オレノコイビト。

終

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