俺は大器晩成なんだって！ 子わんこシン 温泉旅行 初出 2006/02/04

シンは子わんこです。 子わんこなので水遊びは好きでもお風呂は大嫌いです。 さてそんな子わんこシン、今回はなんと生まれて初めて体験であります。 温泉であります！ シンの隊長は【ぶりゅんひるで】っていうでっかくって真っ白で、綺麗な戦艦の艦長さんですが、同時に国防総監でもあります。 総監は偉い人で、本当は戦艦なんかに乗らないんだってディアッカが言ってましたけど、でも総監は隊長もしてて戦艦に乗ってＭＳにも乗っちゃいます。 困った総監だってディアッカは言います。 シンはよく分からないのですが、ともかく隊長が総監なので、総監のお仕事で今回はオーブに来たんです。 シンとレイは総監の護衛です。 お仕事なんだけど、嬉しいことにご主人様も一緒です。 オーブにいる偉い人が、ご主人様も連れて来いって命令してきたんですって。 偉い人の名前はカガリ。 シンは、実は、カガリがちょっと嫌いです。 だってご主人様は、カガリが一緒にいるとカガリのことばっかし大事にするみたいだから。 だから、本当はオーブにだって行きたくなかったし、本当はご主人様だって一緒はイヤでしたけど、 「こういう時にこそ、男の度量が問われるのだぞ」 って隊長…旦那様が言うので、男って日本男児のことで、日本男児って自分のことで、それはつまり男らしいってこと？　かっこいいってこと？　って聞いたら、まぁそういうことだって隊長が言うから。 そんなら、まぁ少しは我慢してやろっかなって。 シンは子わんこなりに考えて、それで、みんなでオーブに来たんです。 でも来てしまえばやっぱり嬉しいです。 お仕事とは言え、移動中もその後も、ずっとご主人様と一緒なんですから。 隊長が総監になって、カガリと総監のお仕事をしている間、シンはレイと一緒にお隣の部屋でいい子にしています。 ご主人様は別のお部屋にいるそうです。つまんないです。 一緒にいたいってシンは言ったのですが、 「お前は仕事だろう？　ちゃんとしなくちゃダメだぞ」 ってご主人様に言われたので、渋々、ご主人様と離れました。 でも待ってる間にイチゴのアイスを出されましまし。 まぁ、そんなに悪くないかな。オーブも。と、シンは思ったわけです。 さて。 お仕事が終わったので、もう帰るのかなと思っていたら、旦那様がオーブで3日ほど休暇を取ると言いました。 【おんせんりょかん】と言うところにお泊りです。 オーブの新しい観光施設だそうです。 ホテルじゃなくってもっと小さい感じで、でもいっぱいいっぱい木の香りがして気持ちがいいです。 「檜の風呂でもあるのかもしれないな」 って、物知りのレイが言いました。 檜はいい匂いがする木だそうです。 ふんふんふん。 確かに、いい匂いがします。 お部屋はみんな一緒のお部屋でした。【たたみ】っていうのが敷いてあって、【座布団】っていうぺたんこのクッションがあって、【縁側】があります。 全部、シンには初めて目にするものばっかりです。 レイは、ずっと前に前のご主人様と来たことがあるんだそうです。 【たたみ】もいい匂いです。くんくんして、ちょっと爪でさりさりしたら、ご主人様に怒られちゃいました。だってなんだか引っかきたくなる感触なのであります。 でもシンはいい子なので（だってサンタさんに【あすランさん】をもらったしね！）【たたみ】を引っか くのはやめてあげました。 因みに今回も【あすランさん】は一緒です。当然です。 「おんせんて、なに？」 レイに並んで【座布団】に座って【ゆずまんじゅう】を食べながらシンが聞きます。 【ゆずまんじゅう】、おいしいです。 「温泉は、大きな風呂だ」 レイの言葉に、シンはしまった！　と思いました。 何も知らずにでかいお風呂のあるところに来てしまうとは！　不覚であります。 この部屋は何処にもシンの隠れられる場所がありません。このままではお風呂に入れられてしまいます！ 大変です！ 子わんこピーンチ！！ 「シン、温泉は…まぁ、暖かいプールみたいなものなんだ。面白いぞ」 シンの様子から考えを察したご主人様が言いました。 プールは好きです。 シンは犬かきで５０ｍ泳げるんです。 今、潜水を習ってます。 「おい…」 「いいじゃないか。似たようなものだろ？」 旦那様が渋い顔で何か言いかけましたが、ご主人様はにこにこして黙らせてしまいました。 ご主人様、強いです。 そんな訳で、お夕食の前にみんなでお風呂に入ることになったのですが…… 「シン、お風呂広いからってあすランさん持って入っちゃダメだ！アヒルさんで我慢しろ！！」 「シャンプーハットはー？」 「シャンプーハットは要るだろう。おいイザーク、ちゃんと洗ってやってくれよ！」 「キサマが甘やかすからいつまでたっても一人で風呂に入れんのだぞコイツは！」 「だってまだ子供だし」 「だからそういう甘やかしが…」 「ちゃんと耳の裏も洗ってやってくれよイザーク。遊ばせてばかりいないでな」 「……分かっている……」 等等。 そんなことをお風呂場の前で言い合うご主人様と旦那様。 どうしてそういうことになっているのかと言うと……。 ここのお風呂、変なんです。 【攻め湯】と【受け湯】っていうのに分かれているんです。 それで、ご主人様とレイは一緒に【受け湯】なんです。 シンは旦那様と一緒に【攻め湯】なのに！ シンはお風呂が嫌いだけど、ご主人様と入るのは好きなんです。いつもシンを洗ってくれるのだってご主人様です。 たま〜に、旦那様と【男同士の裸の付き合い】で入りますけど。 でも今日は当然、ご主人様と一緒だとシンは思っていたんです。 最初は、ご主人様に抱っこされて同じ布……【暖簾】というのだそうです……をくぐるはずだったんですから。 なのに旦那様が、 「いや。そいつは違うだろう」 ってシンをご主人様の腕から取り上げちゃったんです。 え〜〜〜？！って抗議の声を上げたのは、シンとご主人様でした。 が。 「貴様、そんなことではいつまでも秋田犬にはなれんぞ」 って、旦那様が言います。 ガーン！ それは大変です！　シンは立派な秋田犬になるのが夢なのですから。←くどいようですがシンは豆柴です。 でもそれでシンは納得したのに、またご主人様がえ〜？って。 今度はなんだか不満そうな声です。 ご主人様もシンと入りたいんでしょうか。 ちょっと嬉しい子わんこｖ でも立派な秋田犬になるためです。ご主人様にも我慢してもらわなくちゃ。 まぁそういう訳で、2人と2匹はそれぞれ別々の【暖簾】をくぐってお風呂へと……。 わあぉ！ シンはびっくらしてしまいました。 大きなお風呂はなんと、外が丸見えなのです！　窓も何もなくって、お風呂が外にあるんです！ タプタプタプとたっぷり、小さな滝からお湯がずーっと流れてきます。 低い木の枠の向こうは海です。 海がうんと遠くまで見えるんです。 ゆるゆるに溶けてオレンジとピンクになった夕日が海に沈んで行きます。 ジュゥゥって音がしそうです。 夕日に向かってオレンジの道ができていて、綺麗な眺め。 少し潮風もあって気持ちがいいです。 シンは早速アヒルさんを大きなお風呂に浮かべました。 自分もジャンプして入ろうとしたら、旦那様が「かけ湯をしてからだ！」って言ってシンにお湯をかけました。 アレですね。 プールに入る前にはシャワーを浴びますもんね。 ぶるぶるってやってから、シンは今度こそドポーンとお風呂に飛び込みました。 気持ちいいです！最高です！ シンは大はしゃぎです。得意の犬かきで泳ぎまくりです。 「小僧、行儀が悪いぞ！」 って旦那様は怒鳴りますけど無視です。 それにシンはちゃんと分かってます。 怒鳴ってますけど、旦那様の口元も笑ってるんです。 ふーっと、長く大きな息をして、目を閉じてのんびりしています。 きっと、旦那様も気持ちがいいのでしょう。 旦那様は総監のお仕事もしましたから、本当はお疲れだったのかも。 風がそよぐので、頭がすっきりして気持ちよくって。 ばしゃばしゃバタ足で泳ぐシンの横で、アヒルさんもぷかぷか気持ちよさそうです。 ああー。おんせんって最高です。 こんなお風呂なら、シンはいつだってオッケーです。 ご主人様に呼ばれたら、ちゃんとお返事していい子で入るでしょう。 楽しいお風呂。 広くていい匂いがしてあったかくて。 ああー なんだかほんわりしてきましたー ああー なんか夕日がぷかぷかしてるー ぷかぷかしてぶくぶく沈む〜 変なの〜 ぶくぶく〜らりらり〜 らり〜 「シン、いつまでも遊んでおらんで上がれ。洗ってやる。…おい、シン。…小僧！命令だぞ聞こえんのか！……って、 何をのんきに浮かんでおるか キシャマー！」 旦那様のすっごい怒声が遠くに聞こえます。 のんきって言ってる旦那様はすっごいあわててるみたいです。 バシャバシャバシャッてお湯をかいてこっちに来ますけど、シンはすっかりいい気分。 ぷかぷか〜の、ぶ〜くぶく〜 「おい、小僧！　しっかりせんか！」 あんてーん☆ 「お前がついていながらなんでのぼせさせたりするんだよ！」 「根性が足りんのだ！　のぼせやすいなどというのは根性の問題だろうが！」 「根性は関係ないだろ！　監督不行き届きだ！　隊長のくせに！」 「今は非番だ！！」 なにやら頭の上でご主人様と旦那様がけんかしてる声がします。 でも。 この２人はいっつもけんかしてるのに、なんだか仲良く聞こえちゃうのはなんででしょう？ シンはまだ頭がぷかぷかのぷくぷく気分でしたが、ふんふん匂いを嗅いだら、頭の後ろが柔らかで、大好きな優しい匂いが近くでしたので、自分がご主人様のお膝に抱っこされて寝てるんだって分かりました。 ちょっと横を見たら、レイが少し心配そうに顔をのぞかせました。 「大丈夫か、シン」 一体全体、何がどうしてこうなったのか。 子わんこのシンにはわかりませんでしたけど、とりあえず、ちょっと、うなづきました。 レイは安心したように少し笑って、それからあすランさんをシンのそばに持ってきてくれました。 ふかふかのあすランさんの手をきゅって握って、シンはなんだかまた眠くなってしまいました。 「だから俺が一緒に入るって言ったんだよ」 「少しはこいつの気持ちも察してやれ。男の沽券の問題だ」 「さり気なく俺をその沸くから外すなよ！」 「既成事実は今更変えられんだろうが」 ふふん、と旦那様がいつものように鼻で笑う気配。そしてご主人様がむくれる気配。 何怒ってるのかなぁ、アスランさん…シンは眠いお目目を一生懸命上に向けようとしましたが、やっぱり眠くてうまくいきませんでした。 「お前は気にするな。単なる痴話げんかだ」 チワワけんか…。 ……チワワはちいちゃいわんこのことなので、レイが言うのはつまりえーっと……。 ……これは、ちいちゃいけんかだってことなんだなとシンは思いました。 美味しそうなお夕食が運ばれてくるまでまだ時間があります。 子わんこはもう少し、ご主人様のお膝で眠ることにしました。 明日もおんせんで泳ぐんです。 今度は、潜水も練習しようかな。 ぷくぷくぷく……子わんこ、夢の中です。

温泉と言えば浴衣でございましょう！　重要アイテムでございましょう！